水森飛鳥は逃げ出したいⅣ(この世界から本気で逃げ出したくなる前に)


 神様と話した後、私は妙にイライラしていた。

 ただでさえ、今は見たくもない顔が目の前にいることに、私のイライラ度はどんどん上がっていく。


「何でいるの」


 鳴宮なるみや君はともかく、鷹藤たかとう君が何故この場にいる。


「もう一度聞く。何故いる」

「何でって、聞きたいことがあったんだけど、聞き忘れたから」

「なら、さっさと聞いて出て行ってください。答えられる範囲内なら答えますから」


 今、私には二人を相手にしている暇は無いし、神様の存在を知らないであろう二人に対し、八つ当たりはしたくはない。


「えー……、あちこち探し回ったのに、それだけ?」

「探し回ったって、数分前まで一緒にいた奴が言うことか」

「うぐっ……そ、それは言わないのが普通だよ、水森みずもりさん」


 鳴宮君がそう言うが、そんなの知るか。


「……水森」

「何」


 微妙にイライラしてるせいか、ようやく口を開いた鷹藤君にも怒り混じりで返してしまう。


「何を怒っているのかは知らないが、単刀直入に言う。桜峰さくらみねに友人はいるのか」

「私じゃなくて、本人に直接聞けばいいでしょ」

「実は、未夜みや先輩がほとんど単刀直入に聞いたんだけど……その後、会うたびに逃げられて、避けられているみたいでさ。落ち込んでるんだよ。未夜先輩が」


 な に を やっ と る ん だ !

 ああ、一番の有力候補ががが。

 驚きで怒りがどっかに飛んでいったよ。


「……咲希さきの交友関係は知らないよ。敵はいるけどね」


 役員たちと話しているところを見せるだけで、彼女は敵を量産していくからなぁ。


「敵って……」

「誰とは言わないよ。君たちに言ったらどうなるかなんて、予想ついてるし」


 神様からの知識によれば、桜峰さんを苛めた女子生徒たちは、他校へ編入するか退学になるのが大半とのこと。

 そんなの、私は真っ平御免だ。


「彼女の親友の割には、冷たいんだな」

「……はい?」


 今、何て言った?


「親友? 貴方たちはそれを真に受けてるの?」

「違うのか?」

「あんまり、信じすぎるのもどうかと思うけど?」


 桜峰さんがたとえ私を親友と思っていても、私は違う。

 彼女とは、友人でクラスメイトとしか思っていない。

 どこで聞かれているのか分からないから、言わないけど。


「聞くことを聞き終わったのなら、早く出て行って」


 ややきつめにそう言えば、顔を一度見合わせた二人は、お邪魔しました、とばかりにこの場から出て行く。


「……」


 少しばかり二人の出て行った扉を見た後、


「八つ当たりなんて最悪だ……」


 そう呟き、その場で縮こまる。

 するつもりは無かったのに、結局、八つ当たりみたいになってしまった。


「……何で私は、ここにいるんだろう?」


 ここは、私の世界じゃないし、今得ているこの身体も、実は不安定だ。

 せめて……せめて、帰れるのなら、家族と幼馴染の姿を――


「一目だけでも見たい」


 なのに、今は叶わない。

 彼女に――桜峰さんに、今までの記憶があれば、もう少し上手く立ち回ってくれたのだろうか。

 それとも、それを利用したのだろうか。

 もしくは、今と変わらなかったのだろうか。


「お願い、お願いだから――っ、」


 早く、誰かと一緒になってほしい。

 私が、この世界から、本気で逃げ出したくなる前に――……


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