水森飛鳥は逃げ出したいⅡ(傍観組の存在)


 何というか、予想通りというか。いや、どちらかといえば予想通りじゃないんだけど。


 攻略対象生徒会の皆さん、集合です。


   ☆★☆   


 ああ、今もの凄く逃げ出したい。

 でも、逃げられない。

 理由は生徒会役員の目が怖いから(三名が睨んでおり、二名はにこにこと微笑んでいるが、目が笑っていない)。そんな状態で桜峰さくらみねさんの機嫌を損ねるのは、正しいとは言えない。

 この状態になるまでの経緯を簡単に説明するのなら、教室からの移動前に桜峰さんに捕まり、生徒会室に連行されたと言うべきだろう。

 書記の鳴宮なるみや君は連絡があったのか、珍しく生徒会室にいた。


「あの、さ、何で私は連れてこられたの?」

飛鳥あすかをみんなに紹介するため」


 隣に座る桜峰さんに聞けば、そう返された。


「……そう、なんだ」


 なら、無言にならずに紹介してよ。

 副会長ぐらいだよ? 桜峰さんに連れてこられたときに「これはこれは咲希さきの親友さん。ようこそ、生徒会室へ」と声を掛けてくれたの。

 まあ、『咲希の親友さん』って、微妙に嫌みな気がしないでもないが。あと、鳴宮君が肩を小さく揺らしながら笑いを耐えていた。よし、後で話し合おうか。


「彼女は水森みずもり飛鳥あすか。私の親友なの」


 副会長の時と同じように説明する桜峰さんに、私は再び役員の皆さんに上から下まで見られた。


「地味、だな」

「え、合格じゃない?」

「合否を付けるのはどうかと思うが……どちらかと言えば、俺もそう思う」

「えー? 咲希先輩に比べたら、地味じゃない?」


 上から会長、書記、会計、庶務である。

 こいつらも直球だなーと思いつつ、私に対する認識は地味:合格(?)=3:3(さっきの副会長と桜峰さんの意見含む)らしい。


「というか、俺たちは同学年だから、知っているがな」

「去年クラスメイトだったからね」


 会計――鷹藤たかとうあきらの言葉に同意する。彼とは、去年クラスメイトだったから、名前と人となりは理解してるつもりだ。


「そうだったの?」

「どんな子だった?」


 何故か鳴宮君と桜峰さんが食いついた。

 鷹藤君からは話してもいいかと視線を向けられたため、異能で例の件・・・以外と前置きし、いいよ、と許可をした。


「実はそんなに知らない。真面目で我関せずが多かった気がするが」

「そうだったかもね」


 否定はしない。無関心だったのは事実だし、去年のクラスメイトたちからすれば、私が桜峰さんに近づいたことの方が驚きなのだろう。


「え、今と変わら――っ、」

「今、変わらないって言おうとしたよね?」


 桜峰さんが途中で口を閉じるが、もう遅い。ちゃんと聞いたから。


「あ、はは……でも、飛鳥って、我関せずなとこあるじゃん」

「否定はしないけど、肯定もしないよ」


 とりあえず、そう言っておく。

 この世界は桜峰さんの世界だから、私は我関せずで脇役にでも徹することにしたし、第一、私は元の世界への帰還が目的なのだ。

 こっちで生きるなんて、余程の事態がない限り、拒否したい。


「相変わらず、淡々としているんだな」

「別に、そのつもりもないんだけど」


 我関せずな部分は意識的にやっていたのもあったけど、そこで淡々としてくるのは仕方ないと思う。まあ、無意識だろうが。


「で、咲希。私、もう教室に戻っていい? 次の用意しないといけないから」

「え? あ、うん。ごめんね」


 もうこの部屋にいたくなかったため、次の授業の用意を口実に尋ねれば、彼女はあっさりと許可してくれた。


「では、私はこれで」


 一応、礼をして生徒会室を出た後、少し離れた場所で誰も見てないことを確認すると、ぐったりと肩を落とす。

 疲れた。マジで疲れた。

 そのまま教室に戻れば、クラスメイトたちにぎょっとされた。


「えっと……ご苦労様?」


 声を掛けてきたのは、私の友人の一人。


「何か、私を生徒会役員に紹介するって言って、紹介されたけど、さっさと帰ってきた」

「さすが、飛鳥ね」

「無関心と言いたそうだけど、私、今地味に胃が痛い」

「相当ストレスが溜まってるのね」


 声を掛けてきた友人を中心に、他の友人たちが同情するかのように目を向けてくる。

 ちなみに、彼女たちは中立組で、桜峰さんと役員たちに憧れも嫉妬も同情もしない、言い換えれば傍観組(私も片足は突っ込んでいる)。


「とりあえず、薬の飲み過ぎは駄目よ?」

「分かってる」


 気持ちを落ち着けながら授業の用意をする。

 そのまま、話していれば、傍観組の一人が桜峰さんが戻ってきたと伝えにきたので、そのまま解散となった。

 今はまだ、彼女たちの存在を桜峰さんに知られるわけにはいかないのだ。


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