第96話 ソリだと思ったら爆撃機だった


「あーうん。なんじゃこりゃ」


謎のサンタ集団からの襲撃を撃退し、巨大ソリを確保。いろんなところに連絡した次の日。

質素だが質の良いローブに身を包んだスケルトンが目の前の巨大なツリーを見て感嘆の声を上げる。

ここにこの世界の支配者であるソウキ皇がいるのは、今日が週に一度、俺が仕入れた地球での動画の鑑賞会及び異世界出身者たちの交流会の日だから。

しかしなんだ。この世界の支配者であるはずのソウキ皇が「なんじゃこりゃ」とかあり得ないと思うのだが・・・


「陛下にもこのソリは鑑定できませんか?」


「鑑定出来ないな。サンタの被害は10年前からちょくちょく聞いてたが、あれだな。ここと地球とは色々と法則の違う世界の異邦者だ」


ソウキ皇は見た目がソリなのに鑑定ができない理由をそう推測する。

見た目はこの世界にあるものでも、使われている材料が違えば違うモノということらしい。


「搭乗員の職業はサンタと鑑定できましたが?」


「その世界ではパイロットがサンタと呼ばれてる可能性もあるだろ」


「ああ、偶然の一致ですか」


言語も意味も違うけど発音は同じという奴だ。


「情報が抜けませんかね?」


「ああ、飛行物体だから、位置情報確認装置か地図誘導装置の類があるかもというやつか・・・フライ」


「フライ」とつぶやくのと同時に、ソウキ皇の身体が浮かび上がる。短距離飛翔呪文というか凄いジャンプをする呪文を唱える。

俺はロッククライミングのスキルでひょいひょいとソリの僅かなでっぱりに指をかけて駆け上がる。

ソリの座席に乗り込んだソウキ皇の目が「ぶん」と赤く光り手の平が淡く光り座席の前のパネルが白く光る。


「うは。まるでフライトシミュレーターだな」


パネルに表示される画像を見ながら思わず呟く。

言語は読めなくても、画像なら見える。


「ふむふむなる程。これがフライトシミュレーターだとして、この文字は・・・いけるか?鑑定」


「何を?」


「ユウ殿。この文字が燃料でこの文字が選択武器な。で鑑定してみ」


言われて指をさされた所の図形を認識し、鑑定スキルを発動させる。

おお、意味不明だった図形が大陸共通語に鑑定されていく。


「いまならこの巨大なソリも・・・って戦略爆撃ソリB-36ピースメイカーってなんだそりゃ!」


思わず突っ込んでしまう。


「戦略爆撃ソリ。ソリなのに鑑定できなかったのは不思議だな」


「この世界にないものだから代替されてたのかもしれませんね」


「ああ、それはあるか・・・よし地図情報だ・・・うーむ。これはじっくり調査しないとダメだな。これ、貰っても?」


ソウキ皇の問いに小さく頷く。戦略爆撃機なんて、持っていても手に余るだけだ。


「ビックガール・・・おお、綺麗な核兵器がある」


なんじゃそりゃ・・・


「異次元で核爆発させて熱エネルギーだけ取り出して使うのか・・・まあアルテミス激怒の案件だから抹殺決定」


・・・なんかソウキ皇が怖い。

「うんしょ」という声と共にソウキ皇は巨大ソリを自分のアイテムボックスに収納する。


「サンタの国を撃滅するのでそのときは協力をお願いするね」


そういってソウキ皇は自分の領へと戻っていった。


-☆-


「とりあれず通行証を取ってくる」


そう言い残して、ワ国のギルドに所属する紫級A級冒険者のアリエル・シーポープさんがソロでダンジョンに潜って行った。

というか、初級・中級ダンジョンだからとナイフだけ持って散歩感覚で潜って行った。

冒険者ギルドの営業は月正げっしょう(1月)四日。つまり明日からですって言ったのだけど、右手の人差し指を立てて口元にあてられた。

内緒にしてねとか言いたいのだろうけど、まあ紫級A級冒険者だから問題はないんだけどね。ギルドカードをかざしたら問題なくゲートも開いたし・・・


仕事部屋で籠っているとギルドの受付に書き置きを残しダンジョンの玄室に降りる。


「ということでウブ。何が良いかな」


「そうですな。これではどうでしょう」


老執事ダンジョンコアはさくりと下あごを撫でてから指を鳴らす。


「おお、レディオークか」


姿見に移る自分の姿が配下である瀧夜叉並にドカン、キュ、ボンの爆発我儘ボディに超絶進化している。

豚人オークだと主張しているのは豚耳と下顎の二本の牙ぐらいだろうか。


「で、装備が覆面と褌だけというのはどうよ?」


隠れているのは褌のある股間と顔の下半分を喉まで覆う覆面ぐらいだ。

まあ幻影だから見られても気にはならないんだけどね。


「忍者は裸がユニホームと」


「顔に覆面の時点で疑えよ・・・」


「失礼いたしました」


老執事ダンジョンコアは優雅に腰を折る。絶対にわざとだろう。


「装備は鎖帷子チェーンメイルに籠手。武器は苦無かな」


「承りました」


老執事ダンジョンコアは空間から鎖帷子チェーンメイル、籠手、苦無を取り出すとかいがいしく装備を装着していく。

幻影ではない。ドロップ予定品か。


「くのいちマスターです」


老執事ダンジョンコアは欺瞞のスキルで俺のステータスを隠す。

欺瞞のスキルは敵と遭遇したとき鑑定されてもダンジョンコアと身元バレしないための能力。

これで万が一、俺がダンジョン内で冒険者とかに鑑定されても俺の名前と職業はくのいちマスターになる。


「通行証の部屋に転送して」


「はい」


再び老執事ダンジョンコアは優雅に腰を折って2回、指を鳴らす。

俺の身体が一瞬にして転移した。

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