第92話 紫級(A級)冒険者でアリエル・シーポープ襲来

ラージアント発見の報はあっという間にチュウカナ大陸全土に広がった。らしい。

新種のモンスターの発見は、複数の日に渡っての目撃情報とドロップアイテムの確認があって初めて認定されるが、実に100年ぶりらしい。

それ以上にニュースなのは、王都から半日の場所に最低で中級のダンジョンが発見されたことだ。

現状ではクスノキダンジョンから直接行けないことを報告して、冒険者ギルドの仕事クエストとして発注している。

・・・大人気だ。マッサチン公国や千年樹連邦そしてワ国の紫級A級の冒険者からも攻略本の予約が来ている。

劉国、マッサチン公国、千年樹連邦、ソウキ皇国の首都は大ゲートで繋がっているので明日から有名冒険者がやって来るらしい。

すごいな紫級A級。ダンジョン探索のための移動に大ゲートが使えるのか。


「どうしましょうカリマス。紫級の方々から宿泊施設の問い合わせが・・・」


冒険者ギルドのギルド職員である猫人ワーキャットの少女マリアがおずおずと聞いてくる。

ああ、うちは駆け出し冒険者がメインだから貴族なみに金を持ってる上位冒険者様が満足する宿は無いんだよな。


「いつぞやのようにスキルでばばーんて建てられないんですか?」


「ガワは建てれるけど内装とか家具はどうしようもないよ。宿は王都でとって貰って」


「了解しました。全ギルドに通達しても?」


「ああ、ちょっと待って。外装だけの家でもいいってモノ好きがいたら要相談でお願い」


「了解です」


マリアが羊皮紙に俺の指示書き込み、それをギルド水晶に読み込ませる。

これで情報が王都ギルドに送られ、そこから各ギルドに拡散されるのだ。

マリアは羊皮紙を決済待ちと書かれた箱に投げ入れる。

あとは王都ギルドから承認の連絡があれば俺が決裁済みと書かれた箱に投げ入れ、週に1度、生活魔法の洗浄クリーンで洗われリサイクルされるのだ。

羊皮紙に書かれたものは汚れと認識されて洗浄クリーンで落ちる。

たぶん羊皮紙を毛皮や皮の鎧の仲間だと認識されているんだろう。

なお、染色された布も洗浄クリーンをかけると色が落ちすることがある。

なので洗濯という仕事が無くなることは無い。

お子様パンツ最強。

ちなみに男性用のパンツの名称にブリーフはない。グンパンと呼ばれている。

下着をこの世界に持ち込んだのが日本の異世界人だったのだろう。


「カリマス。内装は手配するからガワだけの家を造ってくれないかと打診が1件ありました」


マリアが苦笑いしながら羊皮紙を渡す。連絡にすぐに反応して家建てるの即決したのか凄いな紫級A級



今朝がたから降りだした雪で、クスノキダンジョン前冒険者ギルドにいた大半の冒険者が王都に引き上げた。

今年はかなり遅いそうだが、積もる雪なので冒険者は雪が解ける春まで王都に引きこもるらしい。

開店休業が決定したので注文された家を会場に、クスノキダンジョン前冒険者ギルドで忘年会クリスマスを行うことにした。

そこそこの大きさの家の注文を受けたので、10人ぐらいが入れるぐらいの会場として建てて忘年会クリスマス終了後に家として改装する予定だ。

クライアントに引き渡すのは年が明けてからになる。

忘年会クリスマスに参加するのはギルド職員であるマリアと俺の身内。

あとはここを拠点にしている女性豚人オークの楓さんと毘沙門ファミリーのマリー・スパローちゃんだけなんだけどね。

あ、毛利輝さんはワ国に里帰り中だよ。


「作業中お邪魔するよ。貴女がクスノキのギルドマスター?」


頭と肩に雪を積もらせつつ家の縄張りをしていた俺に声を掛ける人がいた。


「はい。ええっとどちら様でしょうか?」


振り返っると、そこには一九〇センチに迫る長身。

髪の色は明るい栗色。高い位置でポニーテールのように縛っている。

若干タレ目気味である瞳の色は赤く肌の色は若干青みがかった白。

笹穂状の耳はエルフの印。首には魔道具らしい太いチョーカーを嵌めている。

もしかして水陸両用のエルフ。シーエルフさん?


「わたしはワ国のギルドに所属する紫級A級冒険者でアリエル・シーポープという」


アリエル・シーポープさんというとあれか、速攻で家を頼んできた冒険者さんか。

聞くと、家の完成を待ちきれず雪の中を走破してきたそうだ。


「ちょっと待ってくださいね・・・岩石創成!」


俺は地面に手を突き、スキルを発動させる。

見る間に周囲の地面が削れてゆき、そびえるように石造りの家が造成されていく。


「すごいスキルだね。建築家やってた方が儲かるんじゃない?」


アリエルさんが感心したようにいう。


「ありがとうございます。まあ、これ以上色んな人に恨まれたくないので建築はやるつもりはありませんよ。あ、屋根はどうします?」


笑って答える。ダンジョンを繁盛させるための整備なら積極的にやってもいいけど、これ以上は表の仕事の手を広げることはしないよ。


「ああ、防具と魔道具と宝飾品と酒をワ国の雑貨を手掛けているんだっけ」


「酒と雑貨は旦那ですね。魔道具・・・ああ、魔法灯ですね。あれと宝飾品は防具造りの延長ですよ」


それを聞いたアリエルさんがケラケラと笑い始める。

失礼だな。いや笑うところか・・・


「あれを防具の延長とか」


「わたしのスキルは、ご覧のようにサイズが自在ですからね。飾り鎧の注文も多いのですよ」


俺の言い訳にアリエルさんがポンと手を叩く。


「ああ、王都毘沙門の飾り窓で見たよ。あれは凄いよね!」


アリエルさんが俺の手をにぎってブンブンと振る。

あ、ふたりに積もった雪が派手に舞ってる。


「アリエルさん取りあえずギルド会館に入りましょうか」


自分と俺に結構な雪が積もっていることに気付いたアリエルさんは「ああそうだね」と笑う。

天然キャラ?



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