第84話ダンジョン・ファーム(人生ゲームで最後に送られちゃうヤツ(違います))

月後げっご(12月)。

3つ目のダンジョン農場ファームが完成した。

目的は農産物の確保。

ギルド大会議から約1カ月。

後半は昼はクスノキギルドでギルド長をやって夜にはここに戻ってダンジョンコアを孵化させるための日々だった。


「3、2、1、開門です」


羊の角をもつ、黒いくせっケ毛の幼いメイドの舌足らずな声によるカウントダウンと同時に空から水が降ってきた。

というか瀑布である。

このメイド。このダンジョンのダンジョンコアであり名前を有栖という。なお男の娘。

幼い容貌も130に満たない身長も舌足らずの声もすべて嫁さんのリクエストである。

なお性格は腐女子ご用達くさってやがる

くっ、嫁さんの機嫌が曲がっていなければこんな造形には・・・


いま行っているのは、造ったダンジョンに近くにある揚子川の水を引き込む作業だ。

給水方法は、ダンジョンから川底まで坑道を掘って、開閉式の給水口から取り入れるだけの簡単なもの。

ある程度ダンジョン内を循環させ、魔素を含ませてからもとの川に放流する。

含ませる魔素は、しばらくは俺が産む魔素石を、いずれは現在死蔵されている魔石を砕く予定だ。


何でも、老執事ダンジョンコアウブの情報によると、一度にたくさんの魔石を砕いて世界に魔素を返すと、巨大な魔素石が生まれて大型の魔物が産まれ易くなるらしい。

この世界にも、先日既知を得たソウキ皇を含め秩序を守る強者が何人もいるが、逆にいえば何人しかいないという事だ。

魔石を一気に砕いて同時多発的に大型の魔物に発生されると、対処はできても被害は大きいし時間もかかるという困った状況になる。

何より強者の全員が善。いわゆる正義の味方ではないというのが厄介だ。

村、下手すれば街が1つ2つ滅んでも討伐に動かない可能性がある。

自分の迂闊な行動で、多くの人間が塗炭の苦しみ人が出るというのもできれば避けたいのだ。


閑話休題それはさておき


このダンジョンに水を引き込む理由だが、第一に肥沃な土の確保。第二に鉱物資源の入手。第三に魔素の節約。第四に見た目のカッコよさである。

まあ、見た目がカッコいいというのが真っ先に採用した理由だったりする。

ほかの3つは他の人間(主に嫁さん)に聞かれた時の言い訳だ。

しかし、やって良かった。

空から比喩でなくバケツをひっくり返したような水が降っているのだ。


「有栖。虹が出てないぞ」


「申し訳ありません。再現は次のレベルアップまでお待ちください」


腐女子ご用達ダンジョンコア有栖が苦笑いする。

そう、このダンジョン。農作物の育成コントロールのため、日照もとい光照時間が設定されているのだ。

併せて幻影で昼と夜、青空と夜空の演出もされている。

昼は太陽が昇り雲が流れ、夜は巨大な赤い惑星が満ち欠けしながら昇り、たまに星が流れる。

けっこう幻想的であるが、光景としては地球でもこの世界でもないので、俺以外は違和感ありありだろうなぁ・・・

ちなみに、星にはガーミラス双惑星その紅い星という名前を付けている。


あと、ダンジョン内の光照時間が長くなれば暑くなり短くなれば寒くなるようにしている、定期的に雨も降る。

(ダンジョンの天井に小さな穴を開けてスプリンクラーのように撒いているだけだが。)

雪も降らせたいが、現時点で雪の結晶をつくる方法が高位魔法の天候操作ウェザーコントロールしか思いつけないので実装は未定だ。

かき氷では雪にならなかったよ・・・


さて、このダンジョンの構造を改めて説明しようと思う。

まず、階層は地下の第一層のみ。拡張する予定は・・・ある。

気候は温帯。

最北端には墜天の滝(天井から川から引いた水を落としている場所)があり、そこから南端にむけて三又に川が流れる。


耕作地にはダンジョンで育てていた植物の移植を中心に、酒米の五〇〇万石にこの世界の蕎麦・小豆・カボチャ・サツマイモ・サトウキビ。

果樹園にはブドウ、渋柿を植えている。

渋柿は、渋柿からとれる柿渋が防水・防虫・防腐に加え消臭効果をもたらす塗料や染料になるから。

干し柿が嫁さんの大好物だというのもある。むしろこちらが理由の大本命。

・・・うむ。ぶちゃけると小豆とカボチャ、渋柿は嫁さんの好みで残りは酒の原料だな。


耕作には、第3ダンジョンの造成に生み出したラージアント(クイーン)を中心としたワーカー、ソルジャー、シールド、アーチャー、タンク。

これに加え新たに創造したラージアント(ファーマー)を加えたラージアント軍団が従事する。


※ラージアント(ファーマー)。容姿は体長1メートルのハキリアリ。

専用スキルは植物育成。主に巣(ダンジョン)の農耕を行う。


ダンジョン運営をラージアントに頼り過ぎな気もするが、アリ自体が群れを作る社会性昆虫なだけあって汎用性が高いんだよね。

なお、近々第一クスノキダンジョンでは、表ダンジョンと裏ダンジョンを繋ぐ。

ラージアントを踏破できるレベルにない冒険者が裏ダンジョンに侵入しないようにするガーディアンとしてデビューさせる予定だ。


「マスター。ミツバチ、という魔物はこれでいいでしょうか?」


有栖が、自分の頭ぐらいある蠢く球を差し出す。

蠢く球の正体はミツバチをモデルにし、俺が創造したオリジナルの魔物の群体。

うむ。悪くない。


ちなみにハチや蝶といった果樹の受粉に適した生物や魔物は地上にも普通に生息している。

しかし、普通の生物が戦力になるには時間がかかるし、現存する魔物は大きすぎるという難点があったので新たに作ったのだ。


※バニービー(クイーン)容姿は体長5センチのミツバチ(触角が兎の耳のようになっているのでバニー)。

専用スキル

産卵。バニービー(クイーン)やバニービー(ワーカー)の卵を産む。

統率。産んだニービー(ワーカー)の能力を大きく向上させる。


※バニービー(ワーカー)容姿は体長2センチのミツバチ。

専用スキル

収蜜。花から蜜を集めて圧縮する。


ダンジョンコアの制御下にあるから、蜂蜜集めが捗るだろう。

量が期待できるのは半年後だろうけど・・・


「そうそう。給水口から侵入する生物のうち巻貝だけは撲滅ね」


「畏まりました」


有栖は小さく頭を下げる。

巻貝に寄生する線虫はマジでヤバイ(個人的な感想です)からね。

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