第79話 州都獣慶に到着

関翅南方辺境伯が州牧として統治する南晩州は、武領、南仲、公止、南海の4つの郡からなる南の大領だ。

州都は武領、南仲、公止の三つの郡が交わる場所にある城塞都市の獣慶。


西の山岳部にある鉱山都市ソロモンからは揚子川を下って鉱物及び金属加工品が運び込まれる。

東の外海にある港湾都市ジャンからは揚子川を遡上してワ国で作られた工芸品が運び込まれる。

そして南の魔の荒野からは魔物の素材が冒険者によって運び込まれる。

獣慶でこれらの物資を2次加工し、チュウカナ大陸全土に送り出す交易のヘソ。

南にある魔の荒野が近所になければ、ここが劉国の王都になっていただろうと思える場所。


実際、魔の荒野が出来るいまから4000年ほど前に、ヱツと呼ばれる魔法国があったという。


あるとき、北方の騎馬民族からの大規模侵攻を受けた魔法国ヱツは撃退の手段として開発したばかりの新型の魔法を投入。

閉じた空間で「ある物質」どうしを衝突させ、そのとき発生するエネルギーの一部を取り出して敵にぶつけるという大規模攻撃魔法「ホウライ」。

その魔法は制御が出来ず、暴発するという悲劇を起こす。

死をもたらす光と数千度の熱を伴った衝撃波がヱツとその周辺の全てを破壊。

いまでこそ弱くはなったが、当時は普通の生物だと数刻で衰弱して死に至る瘴気が蔓延。

やがてその瘴気にすら順応して凶悪な進化を遂げた魔物たち。


この報告を見る限り、おそらく、「とある物質」というのはウランだ。

結界からエネルギーを取り出すのに失敗しか、結界の制御に失敗したのだろう。

瘴気という名の放射性物質を撒き散らし、あの一帯を荒れ地に変えたのだ。


「ユウさん。辺境伯さんのところから使者が来たよ」


「あいさ」と答えて部屋を出る。


さて、俺たちの服装だが、夫婦でこの国のお偉いさんに会いに行くというのにどちらも親方に拝み倒して作って貰った三つ揃えのスーツだったりする。

ドラゴンバトラーである宗倉しゅうそう殿が普段着として着ているのが燕尾服なので問題はなしだと宗倉殿には確認している。

宗倉殿を通じて、俺ら一家が異世界人であることは、既に関翅様には知られているからね。


そうそう。この世界での俺の肩書だがクスノキダンジョン前の冒険者ギルドのギルドマスターでも王都だ新進気鋭の商業ギルド所属の毘沙門ファミリーの家主ファミリーマスターでもない。

南方辺境伯の関翅雲長かんううんちょうの家臣、宗倉元福しゅうそうげんふく殿の食客だったりする。

で、それなりの身分の人には宗家の黄金の卵を産むガチョウって揶揄されているようだ。


イソップ寓話か!と思ったが、ファンタジー世界は甘くなかった。

調べたら、鉱山都市ソロモン近くに源流を持つ揚子川流域には、川底に溜まった微小の貴金属を体内に取り込むガチョウという鳥型のモンスターが生息していたそうだ。

このガチョウ、川底の餌をとる際に一緒に体内に取り込んだ貴金属を定期的に卵状の物体にして排出するのだが、それに目を付けた冒険者に乱獲され、結果としていまから120年前に絶滅したらしい。

イソップ寓話の通り、欲に目の眩んだ人によって貴金属を産むモンスターを殺しその利益を生み出す資源まで失ったということだ。


モンスターは、魔素だまりに溜まった魔素から生まれるから絶滅しないのでは?と思ったが、いつの間にか全く異なるモンスターが出没するようになったそうだ。

魔の荒野から流れ込む魔素の質や量が変わったか、冒険者が金のガチョウの出没域を踏み均した結果、魔素だまりが性質を変えたか・・・

おそらくその両方がもたらした結果だと学園の研究者は見ているらしい。

まあ、ダンジョンマスターのコントロール下にあるダンジョンだとその辺は関係ないけどね。


「南方辺境伯、関翅さま入室」


ぎぃという音と同時に南方辺境伯として関翅さまが部屋に入って来た。

劉国の南晩州の州牧として会うということではないということだ。


「面を上げられよ」


部屋の上座の椅子にどかっと座る音がして、平伏している俺たちに渋い声が掛かる。


顔を上げると、モーニングコート(カット・アウェイ・フロックコートとも言う)を着た東洋の龍のような顔をした貴人が椅子の横に立っていた。

額や喉といった急所や手の甲には硬そうなメタリックでダークグリーンーの鱗。

左眼には単眼鏡をかけており、首回りの髭はキッチリ切りそろえている。

見た目は完全に宗倉しゅうそう殿のバージョンアップ版である。

昼に本来は夜間着である燕尾服でなく昼間着のモーニングコートを着ているのもポイントが高い。


しかし、何故彼は立っているのだろうか?


「ソウキ皇のお出ましである」


関翅さま何を言って・・・


関翅さまの宣言と同時に、漆黒の豪奢なローブを着たスケルトンが椅子の前に姿を現した。


「あー頭は下げなくていいからね」


豪奢なローブを着たスケルトンは僅かに手を上げると、どかっと椅子に腰を下した。

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