第77話旅の途中、襲撃された

ギルド大会議。別名冒険者ギルドマスター慰安会。

改めてこういうと身もふたもない。

魔の荒野産の素材が安く手に入るとか、そっちのほうに期待だな。


森の中を、ガラガラと音をたてながら走る馬車の屋根の上で、俺は岩石創成のスキルを発動させる。

馬の前の地面に石畳の道が生えているのが見える。

行きがけの駄賃として、南晩州までの道造りをやっている。


スキルレベルはカンストしてるが、やればやるほどスキルの精度や消費する精神量の減少、そしてお金が貰えるので「はい。歓んで」である。

もっとも、最近上がった商人のランクアップは見送りとなった。いや、断った。

これ以上目立っても、盗賊相手に盗みに入ってくださいと喧伝するだけだ。

いや、来ても、まあ、撃退するけど・・・


コンコンと屋根が叩かれ、馬車の天井の一部がスライドする。


「ユウさんユウさん」


サンルーフからダークエルフの男性(中身は俺の奥さん)が顔を出す。


「なに?」


「左後方から何か来てる」


意識を向けると確かに迫りくる何かの気配が6つ。

群れているということはイヌ科?ということは群狼ウルフパックか?

狩りの性質は動物でも魔物でも変わりはない。

ネコ科は単独で得物への奇襲を好み、イヌ科は群れて疲れるまで得物を追跡する。

というか群れで狩りをするネコ科ってライオンぐらいか?


「馬車を止めよう。追跡するのがイヌ科なら、逃げるのはあまり良手じゃない」


そう言って俺は御者に馬を止めるよう指示を出す。


馬は長距離を休みなく走れる動物ではない。

40分おきに健康チェックして無茶させない程度に走らせて24時間で160キロ。全速力なら2時間80キロも走れないのだ。

これは、四肢を動かして全身に血液を循環させているという馬の身体構造が原因だと思う。


「どうしました」


奥さんと入れ替わるように宗倉しゅうそう殿が顔を出す。


「追跡者が6体。おそらくグレイウルフでしょう。ここで迎え撃ちます」


「判った」


宗倉殿の頭が馬車に隠れると同時に、嫁さんと東風こちが馬車から飛び出して来る。


「遠距離ヨロシク」


「任された」


俺は馬車から降り、嫁さんは馬車の屋根に上ると、そこそこ大型な和弓をアイテムボックスから取り出し、構える。


「アスタルテ召喚」


俺が左手の人差し指にある指輪に向かって呪文を唱えると、空中に魔法陣が描かれる。

魔法陣から、身長150センチほどの全身が藍色の肌の紅いビキニアーマーを着込んだ少女が現れる。

頭に小さいが山羊の角を持つ、おかっぱ銀髪。

やや垂れ気味な黒い眼にルビーのような瞳に尖った耳。背中に身長に見合う蝙蝠の羽。

小悪魔インプから悪魔デーモンに進化したアスタルテだ。


「おう。なんだそれは」


「市で買った指輪に憑いてた使い魔だよ」


左手の人差し指に嵌めた指輪を見せながら、東風の問いに素直に答える。

指輪についた目玉のような宝石の見た目は、アスタルテが悪魔に進化したときからちょっと禍々しくなっていた。

ちなみに・・・


『悪魔の指輪。

真夜中の指輪リングオブミッドナイトの情報を基に作られた小悪魔の指輪の進化版。

魔物4体の使役と収納。15キロまでの物質の収納が可能。

魔物を捕らえるには、目的の魔物が弱った状態でこの指輪をかざすこと。

召喚する場合は指輪に向かって召喚する魔物の名を呼ぶこと。

装備すると毎時10ポイントの魔力が消費される、一度装備すると解呪されるまで外すことは出来ない。』


モンスター4体が使役できるようになったのが地味に嬉しい。

ダンジョンの多様性のためにもモンスター集めに頑張る所存。


「来たぞ」


奥さんの警告と同時に風切り音。そして「ぎゃん」という悲鳴。まずは1頭。


「敵はブラックドック」


ブラックドックはドーベルマン風の犬の魔物で、進化先はヘルハウンド、オルトロス,ケルベロスの地獄の番犬コンボ。

育てば美味しい系だけど、群れて狩るということは単体では弱いということでレベルが低いうちは育ちにくいのが難点。

手に入ればラッキーだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る