第76話冒険者ギルド大会議へのご招待

張月はりつき(8月)。

嫁さんが東ワ国の駿河に到着したその日、王都の冒険者ギルドに呼び出された。


なお、嫁さんがワ国内での移動に時間がかかったのは、東ワ国の駿河に至るまでのワ国の山城(京都)、近江(滋賀)に拠点を置くためだ。

山城はワ国の国都なので当然として、近江は東ワ国の沿岸北周りと沿岸南回りの水運の拠点となる枇杷湖(チョイチョイ字が違うが気にしない)があったから。

(近江には、北の若狭湾と枇杷湖と東南の伊勢湾を繋ぐ、かなり立派な運河が建設されていたので、急遽拠点を押さえることにしたのだ。)


王都の冒険者ギルド会館に顔を出すと、受付員によってすぐさまギルドマスター室に通される。


「よう」


出迎えたのは、筋骨隆々で左目に眼帯をした虎頭の虎人ワータイガー

王都の冒険者ギルドのギルドマスターで虎人ワータイガー東風こちさん。


テーブルを鋏んだ東風の前には、鹿のような角に艶やかで硬そうな顎鬚。額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな青くメタリックな鱗。

背中には大きな蝙蝠のような羽。ピシッとした英国執事のような濃紺の燕尾服に身を包んだ蜥蜴人リザードマンの上位種ドラゴンバトラー。

俺のこの国での後ろ盾である宗倉しゅうそう殿だ。


「ユウさん。これを」


宗倉殿が俺に羊皮紙を渡す。


「宗倉さま・・・これは?」


「我が主、関翅よりの招待状だ」


と言われて、羊皮紙を留める蜜蝋に押された印をみる。

関の字を崩したようなものだが、これが関翅の印なのかどうかは判らない。


関翅雲長かんううんちょうというのは、宗倉殿の直接の上司で、この劉国の南端、魔の荒野の北限に隣接する南晩州を治める南方辺境伯さま。

ドラゴンバトラーである宗倉殿の上位種ドラゴンスチュワードで、劉美王とは桃園の誓い的な盟約で結ばれた義弟であり劉美王の右腕だ。


そうそう。劉国の政治体制は中央集権なのに、辺境伯といった爵位が存在するのを不思議に思うかもしれないが、これには理由がある。


マッサチン公国、劉国、千年樹連邦それぞれの国で政治や軍事といった統治に功績のあった人物にソウキ皇国から爵位が与えられるのだ。

ちなみにマッサチン公国のクワトロ王、劉国の劉美王、千年樹連邦の菜緒虎総帥がソウキ皇国に入国するとソウキ皇国のクワトロ公爵、劉美公爵、菜緒虎公爵と呼ばれる。

関翅南方辺境伯というのも、関翅のソウキ皇国での爵位であり、劉国での実際の地位は南晩州州牧なのだ。

なぜ辺境伯とソウキ皇国での爵位で呼ばれているのかは謎だが・・・


「ユウ。これを」


東風が羊皮紙を俺に渡す。


「東風さん・・・これは?」


「二月後に開催される南晩州で開催される冒険者ギルド大会議の召喚状だ」


こちらは蜜蝋で封印などというものは施されてはいなかった。当然だけど。


「冒険者ギルド大会議?」


「ああ」


頷きながら、東風は説明を始める。

冒険者ギルド大会議。

簡単にいえば3年に一度。ソウキ皇国、マッサチン公国、劉国、千年樹連邦にある冒険者ギルドのギルドマスターが集まっての情報交換会だ。

まあ、情報交換会と銘打ってはいるが、実際には雇われギルドマスターの人事移動や引退にともなう慰労とか新人の顔繋ぎのための会らしい。

俺が招待される訳だ。


そして今年は関翅南方辺境伯が治める南晩州の州都で行われる。

宗倉殿が招待状を持ってきたのは、俺と関翅南方辺境伯を引き合わせる絶好のチャンスということなのだろう。


「半月後、ユウは俺と一緒に南晩州に向かって馬車で出発。往復で一か月の旅だからそのつもりで準備してくれ」


「旦那を連れて行っていい?」


「護衛として申請して貰えれば構わんよ」


よし。万が一は無いとは思うがおかしなフラグは立つ前にヘシ折っておかないとな。


「ほう。ユウさんの旦那さんか」


凄くいい笑顔をした宗倉殿に肩を叩かれた。

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