第74話冒険者を追い詰める(トリプラーをかけるぞ)
「じゃあ~ねぇ~」
けらけらと笑いながら、アスタルテは木々の隙間を抜けて上空へと逃げていく。
と、見せかけて木の陰に隠れる。
アスタルテには実況を続けてもらわないといけないし。
「クソっ」
ダイナソーは思いっきり地面を蹴飛ばし、だんだんだんと地面を踏む。
ただ、持っている
「ねぇリーダー」
お吟に声を掛けられたダイナソーが、大きく三度深呼吸をしてから「どうした」と返事をする。
そうして頭にのぼっていた血がさがると、自分たちの置かれている立場に気付いたらしい。
彼らのいる場所は、道なき森の奥深く。
空は厚くかかった雲のため、月も星も見えない。
「植生は?」
「幹についた苔から北はこっちで東はたぶんこっちだ」
ダイナソーの問いに斥候の
斥候なのに磁石を持ってないってどういうことだ?
マッピングに転移の罠とか回転床とか察知にあると便利だろ。
あ、うちのダンジョン、表は完全走破済みでマッピングは必要ないし、転移の罠とか回転床も気にしなくていいのか。
ギルドでつかう教本(予定)には必須アイテムの項目に追加しておこう。
カーン
カーン
カーン
森の中を、木を叩く音が響き渡る。
マリーの宣戦布告の合図である。
「野戦準備!」
音を聞くなりダイナソーは叫ぶ。
戦士のカルヴァドスが斧を僧侶のミミが
魔法使いのお吟が杖を構えて中間に立つ。
斥候のシロは短弓を構え、一番後ろで他の4人とは反対の方を見る。鏃の先を潰した矢をゆっくりと取り出し、つがえる。
ゆらり
森の奥で青白い炎が浮かぶ。
りん、りん、りん
鈴の音が響く。
ぶうん
3対の光る目と口。
「ギルドにいたカブだ。光って場所を教えるとか馬鹿だろ」
ダイナソーはロングソードを構える。
ぱぱぱぱぱぱん
不意に左から裂音が上がる。
「ぐえっ」とシロのぐもった悲鳴が上がる。
「どうしたの」
お吟が振り返ると、宙に逆さに吊り上げられるシロの姿が、腕に巻かれていたスカーフが黒くなっている。
慌てて上を見るお吟。
ロープが木の上に伸びて、枝を支点に下に伸びている。
すかさずロープの先を見る。
にいぃ
三角の眼にギザギザの口のある黒い縞模様をもつ緑色の球体が嗤う。
瞬時にジャックオーランタン(蕪)の同類だと悟る。
「正面右、敵」
警告しながら杖を構え「
ばん
「え「コンナノイヤダ。ヤリナオシヲ、ヨウキュウスル!」ぇ?」
お吟の叫びとジロウ・ノ・チョウチンのスキル発動が重なる。
みるみる復元していくジロウ・ノ・チョウチンの頭。
「き、気持ち悪い!
「え、あ?いまここで中位魔法を使うヤツが」
反射的に、中位では下位の風魔法を発動させるお吟とそれに気が付くカルヴァドス。
しかし魔法発動をキャンセルするには至らない。
お吟の顔がやらかしたという感じで歪む。
すると、上空からアスタルテが、お吟とジロウ・ノ・チョウチンとの間に落ちてくる。
ばしっ
何かが弾けるような音が響く。
「やっ「ったぁ、あにするだ」た、か?」
またもお吟の言葉に被さるように声が響く。
空中に漂っていた羽の生えた赤子の、ひび割れた皮膚が押しのけられるようにボロボロと落ち、もこもこと中身が育っていく。
やがて、おかっぱ銀髪、やや垂れ気味な黒い眼にルビーのような瞳に尖った耳。
背中に身長に見合う蝙蝠の羽に、頭に小さいが山羊の角を持つ、身長150センチほどの全身が藍色の肌の全裸の少女が現れる。
お巡りさんこっちです。
「むぅむむむ、ちっぱい。ないんないん」
少女は、自らの僅かに膨らむ薄い胸板を、手のひらで悲しそうな顔をして、謎な歌を歌いながらさする。
「
「アスタルテ。スカーフ、スカーフ」
ジロウ・ノ・チョウチンに指摘され、アスタルテは頭に辛うじて引っかかっていたスカーフを手に取り締め直す。
「へ?スカーフってあー」
お吟は、アスタルテのスカーフを見て、ジロウ・ノ・チョウチンのスカーフを見て、自分のスカーフを見て、自分が重大なルール違反を犯したことに気付く。
そして、吊るされたシロの腕に巻かれたスカーフもボロボロ、あ、落ちた。
「ニェット、ダー。あの蜥蜴野郎にトリプラーをかける」
空中を漂っていたジャックオーランタン(蕪)のガラミティたちは移動する速度を上げる。
改めてロングソードを構えるダイナソー。
「あいつひとりで我々を相手にしようと」
「舐めているな」
教えておいたお約束の台詞を吐くニェットとダー。
ますダーが手斧を振り上げてダイナソーに斬りかかる。
ダイナソーは辛うじて避けるが、避けた目の前にはニェットが。
「
ニェットの突き出した杖から、複数の水の塊がダイナソーを襲う。
が、水の礫なので怯む程度である。
そしてガラミティが、右手のクローをダイナソーの右腕のスカーフ目掛けて振り下ろす。
「ちぃ」
ダイナソーは大きく右腕を逸らしてクローを躱すが、ばすっという音ともにガラミティのクローが水平に射出される。
「させない!」
すかさずカルヴァドスミが間に入り、ガラミティのクローを|戦斧で弾く。
「おいゾンビ行為!そこの女も」
「なんじゃと?」
「え?何時の間に」
ガラミティの指摘に、自分たちがスカーフをしていないことに気付き顔色を悪するふたり。
「解ったら地面に転がっとけ、けっ
けたけた笑いながら、ガラミティたちはその場から距離を置く。
「上手くいかないモノよね・・・
闇の中から、腰に二股二刃の剣。左手に斜めに断ち切られた長方形盾。背中に穂先がふたつあるスピア。
真っ赤なビキニ鎧という奇抜な装備のマリー・スパローが姿を現した。
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