第72話冒険者との追いかけっこ(始まるよ~)

王都とここクスノキダンジョンは、舗装された道のお陰で馬車なら半日で往復が可能だ。

冒険者なら徒歩で半日。

なので、ドラゴンテールの皆さんには、こちらを日没・・・どういう手段を用いても王都の門が閉じた後に出発してもらうことにした。

走って逃げたら逃げ切れましたでは面白くないからね。

少なくとも半日はゲームに付き合ってもらうつもり。


で、ルールだが・・・


・双方とも、頭か腕に魔法の封印が刻まれたスカーフを巻くこと。取られたらパーティーから離脱。

葛籠つづらを取られても、奪い返せばクエストの続行は可能。

・ギブアップは自ら鉢巻かスカーフを取ること。

・重傷以上の怪我をさせた場合は怪我をさせた方が敗北。

・武器は刃を潰したもの魔法はレベル1まで。

・奪い合いで鎧が破損した場合、両者で遅延による損害金を弁済。

・ドラゴンテールの勝利条件は二日以内に王都の「毘沙門」に鎧を届けること。

・マリーの勝利条件はクスノキダンジョン前ギルドに鎧を届けること。


このルールは契約でしっかり両者を縛っておく。破った時点で破った方の敗北が決定だ。


「では勝負開始」


俺はパンと両手を叩いた。


「おい行くぞ」


蜥蜴人リザードマンの男戦士ダイナソーが走り出す。

続いて葛籠を背負っている狐人ワーフォックスの女魔法使いのお吟と犬人ワードックの男斥候のシロ。

二人がばてたときにフォローするのだろう。猫人ワーキャットの女僧侶ミミが続く。

殿はドワーフの男戦士カルヴァドス。

全員が魔法の封印が刻まれた赤いスカーフを腕に巻いている。

彼らの作戦は、少しでも早く王都の城門前について、そこで門が開くまで防衛かな。


家主ファミリーマスター?」


マリーがにこちらを見てくる。

マリーの側には、人面が彫られたカブ頭のジャック・オー・ランタン(蕪)、髭面のガラミティ、厳ついデカい鼻のダー、隻眼のニェットが並んでいる。

その後ろには一回り大きい人面が彫られたスイカ頭のジロウ・ノ・チョウチンがいた。


おっと、ジャック・オー・ランタン(蕪)、それとジロウ・ノ・チョウチンの説明がなかった・・・ような?


ジャック・オー・ランタンは、伝承では死後の世界への立ち入りを拒否された地上を彷徨う死者の魂だ。

悪魔からもらった石炭を火種にした欧州では萎びたカブ、アメリカでは南瓜で作ったランタンを手に持っているのが特徴。

ある映画に出てきた南瓜王やある仲魔なゲームのマスコットを経て、この世界ではカボチャ頭やカブ頭の邪妖精だ。

そして、カボチャ頭やカブ頭がスイカ頭になったのが、ジャック・オー・ランタンの亜種がジロウ・ノ・チョウチンだったりする。

最初にジロウ・ノ・チョウチンを見たとき、あまりの節操のなさに頭を抱えたが、いまではお気に入りだ。

カブやカボチャと違って、物理攻撃にバリエーションがあるのがいい。


「アスタルテ」


「あいな」


コウモリのような羽の生えた黝い肌の赤ん坊・・・小悪魔インプアスタルテが指輪から出てくる。

見た目は赤ん坊だが、スケールが違うのでそれなりに不気味である。


「アスタルテはあいつらを挑発して森の奥におびき寄せる。マリーたちははぐれたのから一人づつ仕留める」


簡単に作戦を指示する。


「「「はい」」」

「あいな」

「・・・」

「え?」


六者四様の返事が返ってくる。

というか何でマリーは疑問形なのはなんだ?


「ガラミティ、ダー、ニェットは近接。マリーは中距離。デミトリーは長距離でアスタルテは支援な」


ちなみに、デミトリーはジロウ・ノ・チョウチンの名前である。


「了解しました」


今度は六人とも声がハモった。


「では30分後に追跡開始」


俺はパンパンと両手を二回叩いた。

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