第70話冒険者との勝負

装備を身につけたまま走らせることの意味を説明したのだが、彼らは納得しなかった。

潜れて中級ダンジョンまでの赤級C級冒険者では無理もないか・・・


上級ダンジョンに潜るような冒険者が、スキルのアイテムボックスや魔道具のマジックバッグといったものを血眼になって確保する理由。

それは、移動時の荷物の重さの問題を解消するためだ。

アイテムボックスやマジックバッグがない場合、移動中の食料やダンジョン内で拾ったアイテムなど、自分の力で運搬する必要がある。


移動中はいつでも戦闘できるよう、防具などの装備の一式は寝ていても装着しているし食べ物は減るから気付き辛いのだけどね。

こればかりは口で説明したところで、実際に体験しないと理解しないんだよなぁ・・・


マリーは、能力値は装備でブーストし、荷物はアイテムボックスというチ-トスキルを授かっているから、本来はしなくてもいい訓練だが、基本は大切。

基礎体力をつける意味でも、訓練中は重い素材で作った鎧を装着していた。とくに手甲と具足は外すとドスンと音をたてるぐらいに重かった。


「そういえば自己紹介がまだだったね。ユウ・アクイ・メディチだ」

そう言って俺は自分の黄色と青のギルドカードを彼らに見せる。

ギルドカードの色が示すのは俺が冒険者クラス黄級D級の商人クラス青級B級(最近昇級した)の人間ということ。

冒険者のクラスは、リーダらしき蜥蜴人リザードマンの男戦士より格下ということになる。


「はっ格下の女が偉そうに御高説か!」


蜥蜴人リザードマンは鼻で笑うが、隣りにいた狐人ワーフォックスの女魔法使いの顔色かみるみると蒼くなる。

どうやら狐人ワーフォックスの方は俺のことを知ってるようだ。


「なら勝負しないか?」


「良いぜ受けてやる」


蜥蜴人リザードマンの言質を取ったので、俺は狐人ワーフォックスを見てニッコリ笑う。狐人ワーフォックスの顔色はもう真っ白だ。


「じゃあ話の続きはギルド館の中でやろうか」


俺が後ろにあるギルド館を指さすと、蜥蜴人リザードマンは、ようやく誰に喧嘩を売ったのか気付いたようだ。

まあ、ここに直接買い付けに来る商人だって、護身用の短剣に厚手の服ぐらいは着てくる。

ギルド館から、武器も防具も身につけない、普段着で出てくる人間が普通の人間である訳がないって話だよな。



「勝負の方法だけど・・・聞いているの?」


目の前で華麗に土下座を決めている5人の冒険者に声を掛けるが、びくんと体を震わせる。

一度、大きくため息をついて見せる。


ギルド館に招き入れた後、彼らパーティー名「ドラゴンテール」のメンバーは何も言わず土下座したのだが・・・

彼らの最大の失敗は、踏まなくていい罠をどうどうと踏み抜いた・・・ということ以上に、罠を踏み抜いたあと、狼狽えて動くことが出来なかったことだ。

冒険者としては致命的でもある。


「あの光景がダンジョンの最奥なら、未開の土地なら油断しなかった、と思っているなら早々に死ぬよ?」


ギルドマスターとして、一応釘を刺しておく。

ダンジョンの最奥で、あの程度の罠で獲物を捕らえて生き延びる魔物がいたらそれこそ奇跡だろ。

・・・仕込んでみるか?


「いまから、クスノキのギルマスに挑戦状を叩きつけたドラゴンテールさんに仕事クエストを贈ってあげよう」


そういって俺は蜥蜴人リザードマンの男戦士ダイナソーに大きな葛籠つづらふたつと羊皮紙を渡す。


窯業セラミックスアーマ―を王都の商業ギルドに納めてくれ。ただし、うちのマリーがその葛籠を奪うべく襲撃する」


「はぁ?」


ダイナソーが口をあんぐりと開けてマヌケな声を上げるので、今回のふたつの仕事クエストについて説明する。

ひとつめは窯業セラミックスアーマ―を王都の届ける。ふたつめは輸送任務の訓練。


右の葛籠の中身は子供サイズの窯業セラミックスアーマ―が一式。

窯業セラミックスアーマ―は、マッサチン公国のとある貴族が、お子さんの訓練用にと発注したもの。

鎧の表面を魔法耐性の高いワイバーンの皮でコーテイングしているので、硬皮鎧ハードレザーアーマ―に見えるが、強度は硬皮鎧ハードレザーアーマ―より高い。

お値段は大金貨で1枚(青銅貨で100万枚)報酬は金貨1枚(青銅貨10万枚)。


左の葛籠には銅貨三百枚(青銅貨で3万枚)と漬物石。

輸送用のダミーであり、ついでに銀貨は訓練の報酬であることを告げる。

どちらの葛籠も無事王都に運べれば鎧の輸送成功報酬と併せ金貨1枚大銀貨3枚(青銅貨で13万枚)が手に入ることになる。

ちなみに、もし仕事クエストに失敗・・・窯業セラミックスアーマ―を奪われた場合は、ドラゴンテールが全額弁償となる。


「ちなみに、拒否はできないよ」


ニヤリと笑ったら・・・おっと。どうなったかは本人たちの尊厳のため秘密にしておこう。

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