第69話SIDEマリー マリー新人冒険者としての洗礼を受ける


「れっつーおーらい、らい、らい、らい」


マリーを先頭に冒険者が掛け声を上げながら溜め池の周囲をグルグルと走っていた。


参加しているのはバスターソードを背負った蜥蜴人リザードマンの男戦士に弓を背負った皮鎧のエルフの女弓士。

戦槌を構えた金属鎧のドワーフの男戦士にショートソードを持った皮鎧の犬人ワードックの男斥候。

杖を持ち結構大きな背負い袋を背負った狐人ワーフォックスの女魔法使いに、戦槌を構えた鎖鎧の人間の男治療士。

最近じわりと人気が出ている窯業セラミックスアーマ―の猫人ワーキャットの女僧侶とバラエティーに富んでいる。


また、冒険者としてのランクも赤級C級を筆頭に無色のマリーまで色々だ。


なぜ彼らは走っているのか?というと、マリーがうちの毘沙門ファミリーに所属して3日後、いまから10日前にまで遡る。


サイドマリー


「へい彼女。何やってんの?」


溜め池の周りを、ジャック・オー・ランタン(蕪)たちと一緒に走っていたマリーに、ダンジョンに潜るためにギルドに来ていた冒険者であろう男の魔法使いが声を掛ける。

耳に装着した魔法の発動補助らしいアイテムが男のチャラさを引き立てている。


もっともこのときのマリーは、腰に二股二刃の剣、左手に斜めに断ち切られた長方形盾。背中に穂先がふたつあるスピア。

真っ赤なビキニ鎧という完全武装で掛け声を発しながら走っていた。

なので、絡まれても仕方がないといえば仕方のない恰好でもあった。


「鍛錬しているの。家主ファミリーマスターの方針」


マリーは呟くようにぼそりと返す。

彼女は、家主ファミリーマスターから、もしこの鍛錬法を見て冷やかすような連中がいたら適当にあしらえと言われている。

この鍛錬は、スタミナを付けながら戦闘中に指示を出すための訓練だと家主ファミリーマスターから指示されていて彼女も納得していた。


なぜこのような鍛錬を?と聞かれれば、マリーのステータスが高いのが、防具によるドーピングだと判明したからだ。

実際マリーが装備をすべて外してスキルを使わず走ったら、30分もまともに走れなかった。

また、この3日間で、喋りながら走るというのが如何に体力を消耗するのかを実感したからだ。

装備ドーピングがあるとはいえ、持久力を上げるのは近々の課題だとマリーは納得している。


「装備をさせて大声を出して走らせるのは、戦闘中の喧騒に負けないよう大声で指示を出す、指示を了解したことを伝える訓練だから。大声を出すってことは、たくさん息を吐いてるってことで、肺活量を鍛えるのは必要だぞ」


マリーの目に沢山の鱗がはまった瞬間でもあった。


「変な指導もあったもんだ」


リーダらしき蜥蜴人リザードマンの男戦士が品のない笑い声をあげる。


「あぁ?」


マリーの後ろにいた、ジャック・オー・ランタン(蕪)のリーダである髭面のガラミティが声を低くして聞き返す。


「なんだぁ?」


厳ついデカい鼻のダー、隻眼のニェットもまた同じく声を低くして聞き返す。

なお、夜中にギルド周辺を警らするジャック・オー・ランタン(南瓜)の3体と風貌がよく似ているのは偶然ではない。


3体は、背負っていたロングソードに手を伸ばす。

使い魔である彼らは、守護対象であるマリーの機嫌が傾いたことを察知して目の前のチャラい魔法使いたちを睨む。


一触即発の空気が漂う。


「どうした」


ギルド館のドアが開き、中から身長は173センチ。赤毛のショートカットに赤い猫のような瞳の20歳ぐらいの若い人間の女。


「毘沙門の方針に文句があるのか?俺が聞こうじゃないか」


マリーの家主ファミリーマスターでクスノキダンジョン前の冒険者ギルドのギルドマスターであるユウ・アクイ・メディチはまるでそばで聞いていたかのようなことを口にした。

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