第65話 ワ国で何を売ろうか

「なるほど。いい店を見つけたね」


そういって嫁さんを褒めると、にへらと笑う。

劉国では地力が強い獣人が多いせいか、陶器や磁器は壊れやすいという理由であまり流通していない。

食器などは原価が安く壊れにくい木器が流通していて、漆が塗られているモノもあるのだが、艶はなく器の防腐剤の域を出ていない。

なので、陳列窓ショーウインドーで黒く艶めかしい光沢を放つ文箱は、展示されるやいなや問い合わせが入っていたのだ。

職人に資金援助することも視野に、まずは文箱を買い付けることにする。


つぎにこちらから持ち込むモノのおさらい。

香木に砂糖、岩塩といった調味料にナツメグ、胡椒といった香辛料。

磁器の壺は装飾品、展示物程度に留め、古美術品は市場散策の結果、売れそうにないので見送り。

魔法関連の書籍は入門書のみ。

方解石の魔法灯は、予想以上に売れそうなので大きさを変えて種類を用意。

手提げタイプの魔法灯には、家紋や屋号を入れるサービスを提供する。

喰いついてくれればいいが・・・


「それより、柳牛さんの本家にも挨拶に行くから、何か用意してよ」


嫁さんがいう柳牛さんとは、こちらの世界に来た時に娘がお世話になった道場の主の名前だ。

輝さんという縁ができたこともある。挨拶はした方がいいだろな。


「本家道場って、場所はどこだっけ?」


「駿河の国。駿府今川館だったかな」


嫁さんの記憶にある駿府今川館は、日本ならいまの静岡県静岡市のあたりだ。


「お店を開けるのは、その本家道場に行った後?」


「うん。そのつもり」


「じゃあ、ワ国の首都にも拠点をつくりたいから、観光がてら下見をよろしく」


「まかせてよ」


嫁さんがサムズアップして応えてくれる。

明日にでも、輝さんにお願いして柳牛笠という家紋を見せて貰うか。


で、翌朝、起きてきた輝さんに、刀の鍔にある柳牛笠という家紋を見せて貰った。

市女笠という、時代劇で公家の女性が外出用に被っているタマネギの上を切ったような形の笠。

これをふたつ並べて図案化したようなものだった。

うん。剣豪で有名な柳生家がつかっていたという二階笠の家紋によく似ている。。

違うのは、市女笠から垂れ下がる虫の垂衣もデザインに入っているところ。

なんだろう。蛇に足を描いちゃいました的な余計感は。


とりあえず、娘が世話になったお礼に柳牛家に贈り物をしたいのだが家紋を入れていいのか?

という質問をしたら、輝さんから贈り物なら問題ないとの回答を得る。

ついでに、家紋を入れたモノを他人に売ると問題になるからしなようにと御忠告を賜る。

危ない危ない。サンプル展示は別の方法でいこう。


そうなると、贈り物は・・・家紋入りの魔法灯と家紋入り窯業セラミックス兜の模型五月飾りでいこうか。

旗指物や屏風はあった方がいいよな。商業ギルドを通して発注しておこう。

手配を済ませて、転移床テレポートで自分のギルドに戻る。


「カリマス。おはようございます」


ギルドの受付に顔を出したら、ドカドカと大量の決裁書類をプレゼントされた。

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