第60話毘沙門王都支店、正式オープン

奇特な一部の冒険者や魔法灯を知る商人だけを相手に営業していた毘沙門の王都支店を正式に開店オープンさせた。

嫁さんのワ国ルートの開拓で、一般の人でも手に取れる商品がそこそこ充実してきたからね。


新たなラインナップは1階にワ国の脇差と蒔絵の施された漆器の文箱に煙管。

煙管を持って胡坐かいて文箱の乗る卓袱台ちゃぶだいに座る鎧というシュールなジオラマを陳列窓ショーウインドー内に作る。

鹿角の刀置きには脇差をかけておく。

天井には魔法灯がついていて、陳列窓の内側を煌々と照らしている演出も忘れない。


地下1階には真珠と珊瑚。これは宝飾品だけでなく素材も販売。

素材には宝飾品の加工職人への紹介状も商業ギルドの印付き(勝手にはやってませんアピール)で付けた。

うちの宝飾品よりは割高だが市場よりは若干安いオンリーワンの宝飾品は如何でしょうか?というコンセプト。

ターゲットは、宝飾品商どうぎょうや上流には届かない中流層の小金持ち。


自家製のワインのような酒は、王都で酒を売るための許可が間に合わなかったので店のオープン記念という形で提供させてもらっている。

ちなみに、税制的に、酒を売る酒屋と飲酒の場を提供する酒場という形で明確に区別されていたりする。


「なにかお探しでしょうか?」


宝石創成のレベルアップのために造りまくった純度の低い貴石の陳列ケースの前で唸っているドワーフのおっさんに声を掛ける。


「いや、ね。柄にもなくカミさんに贈り物をね」


にへらとドワーフのおっさんは笑う。

このおっさん。名前は言えないが、王都ではそれなりに腕のある宝飾職人さん。

最近スランプに陥って、気分転換を兼ねてカミさんに簡単な宝飾品を作って贈ることにした。

で、商業ギルドで俺の店で珍しい貴石素材を扱っているという話を聞いたらしい。


「そうですね・・・私が以前住んでいた所は」


そういって、最近造れるようになった月長石ムーンストーンを掴んで見せる。

カットしていないので、キラキラはしてはいない。


「この石は、長雨月ながうつき(6月)に生まれた人を災いから守る石です」


ついでに、悪霊を祓い、予知能力を高め、ストレスを和らげる。

また、カットの仕方で月光のような青色や白色の光沢をもたらすことも説明する。


「ふむ。石の削り方で月神アリグナクさまを現す青色や白色の光沢をもたらす現すというのも面白いな」


鉱石関係には詳しいはずのドワーフが、珍しいものを見るような眼で頷く。

聞くと、この辺で、月長石ムーンストーンは流通していないようだ・・・


「そうですね。ご参考までに・・・お高い月長石ムーンストーンがこちらになります」


俺は貴石の陳列ケースの底を押し開き、透明感が高く青く美しい光を放つ石と七色の光を放つ月長石ムーンストーンを取り出す。

ここまで純度が高いと、もはや貴石ではなく宝石だよな。


「うむ。面白い素材じゃな」


おっさんは大銀貨4枚(青銅貨4万)で40個のお安い月長石ムーンストーンを購入して店を出る。

後日、陳列窓ショーウインドーの鎧の籠手に月長石ムーンストーン15個を使ったブレスレットが飾られることになる。


「正式開店に乾杯」


俺と嫁さんは自家製のワインのような酒。娘のヤエとオバちゃんは二人と居候の毛利輝さんブドウジュースで祝杯を挙げる。

時間はお店の終わった18時。場所は毘沙門の王都支店の2階のリビング。

テーブルの上には簡単なツマミやワ国の珍味が並んでいる。


「では私たちはこれで」


「ありがとう。明日からもよろしく」


レジ係のパートのオバちゃん二人が、ブドウジュースのボトルとワ国の珍味を抱えて出ていく。

その後ろを輝さんが護衛のためについて出ていく。

オバちゃんたちの家は近所だけど念の為だ。


「さて、親子三人揃ったところで近況を聞こうか?」


とりあえず話を振る。


「じゃあ私から!」


ヤエが元気よく手を挙げた。


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次話より学校編?

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