第57話 閑話? 宿についてのあれこれ

「育ったな・・・」


日光浴のため日向に置かれたバケツ稲を眺めながら呟く。

まだ長雨月ながうつき(6月)になっていないのだが、もう稲穂が首を垂れている。

早生の理由だが・・・


「おはようございます!」


宿の給湯部屋から頭にカブを乗せているてるてる坊主が3体。バケツ稲を抱えて出てきた。

彼らは、嫁さんが召喚し使役しているジャック・オー・ランタン(蕪)という妖魔だ。

解り易く言うなら欧州ハロウィンの提灯。名前は嫁さんが付けた。ガラミティ、ダー、ニェット。どこぞの赤い三騎士かよ。


なお、妖魔は闇妖精の総称で妖精とは対となる存在だが、善悪ではなく太陽と月のような関係である。

で、そのジャック・オー・ランタン(蕪)だが、低レベルながら農耕スキルを持っていたのだ。

嫁さんが持っていたスキルを継承したらしい。

ジャック・オー・ランタン(蕪)は日の出から日の入りまで畑の世話をする。


そしてもうひとつ。ジャック・オー・ランタン(蕪)の近種であるジャック・オー・ランタン(南瓜)。

解り易く言うなら北米ハロウィンの提灯。

こちらも3体いて、嫁さんのスキルである剣術や弓術を継承。

名前は俺が付けた。嫁さんに対抗してロングソード持ちのガイア、クロスボウ持ちのマッシュ、クロー付き手甲持ちのオルテガ。

日の入りから日の出までのあいだ畑の警護をしている。


最近では4日から5日に1、2頭ほど畑を荒らしに来る一角兎やボアを狩ってくるようになった。

狩って来た次の日の宿の定食がちょっぴり豪華になるので冒険者から可愛がられているようだ。


「ごひゃくまんごく。あとみっかで、しゅうかくできる。そこから、じゅうよっかごに、たうえできる。よういしてほしい」


ジャック・オー・ランタン(蕪)のリ-ダーであるガラミティが田んぼのリクエストをしてくる。

マジか。異世界スキル半端ないな。


「ばけつだから、はやいのだ。いまからたんぼだと、しゅうかくは、あきのおそくだな」


う、読まれてる。


「判った。要望を纏めておいてくれ」


「ますたーのつれは、おいしいつちを、つくるからたのしみだ」


ジャック・オー・ランタン(蕪)のリ-ダーであるガラミティは屈託のない笑みを浮かべる。

岩石創成は岩だけを作るスキルじゃないのだ。


そうそう。宿屋について簡単に説明しておこう。

場所は冒険者ギルドの隣り。

出入りするには冒険者ギルドの受付前を通る必要があるが、建物は別棟。


1階は食堂と鉄貨1枚(青銅貨で十枚)で利用できる10畳の板間。

あと、2階を経由しないと行けない男女別の浴場が6畳と6畳の合計12畳あって、利用料は鉄貨三枚(青銅貨で三十枚)。


2階は3畳の寝室が十室と1階の浴場につづく階段が別にひとつ。

2階は1泊で晩の食事と風呂付きで銀貨3枚(青銅貨三千枚)。半月(十五日)なら大銀貨4枚(青銅貨四万枚)。1カ月(31日)だと大銀貨8枚。

ただし1カ月連泊のお客さんにはエール酒が小樽1個(約4.5リットル)キープされる。

もっとも、王都が近いこともあり、いまだにこのサービスを利用した客はいない。

三階に従業員の部屋がふたつある。


食事は朝がスープと拳大のパン二個がサービス。

夜は拳大のパン三個かご飯どんぶり1杯にオカズ二品にスープの定食が銅貨四枚(青銅貨四百枚)。酒はコップ一杯(500ミリビール缶)で銅貨一枚(青銅貨百枚)。

冒険ギルドからの補助金が出ているのでこの値段である。


宿の従業員は食堂で働く冒険者を引退した夫婦が一組と雑務をこなす王都の商業ギルドから宿屋の研修に来ている丁稚の少年のふたり。

受付の人間というのはいなかったりする。受付や料金の決算はギルド―カードを通すだけ。部屋の鍵はギルド―カードを翳せば開け閉めができるからだ。


ちなみにギルドに所属してない人間には、俺の権限でここ専用のカードを発行している。

宗倉しゅうそう殿の部下とか、守護騎士団の新米さんとか以外と少なくない。

あと、お金にルーズなので宿代を確実に積み立てたいんですと懇願した豚人オークの女性冒険者とかいたっけ。

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