第56話だんじょんの仕組みとアスタルテ
このダンジョンは、俺がダンジョンマスターを務めているダンジョンだ。
だから・・・
ぎぃ
地下3階に続く階段のある部屋の扉を開く。
「あ、マスターだ。ちぃーす」
扉の先で身構えていた3人のゴブリンが俺を見るなり頭を下げる。
流暢な大陸共通語を操ることからそれなりの知能があることが判る。
「問題ないか」
挨拶を受け、俺は軽く手を上げる。
「はい。昨日は1勝15敗でした」
「1回勝ったのか。金星だな」
俺が褒めるとゴブリンたちはテレテレと笑う。
「ア、アノ主・・・」
「ああ、彼らは地下1階のフロアボスだ」
俺の紹介に、ゴブリンたちは頭を下げる。
俺もダンジョンマスターになり、ダンジョンコアが育って初めて知ったのだが・・・
ダンジョンにとって体内で生まれた魔物は、体内に侵入する異物を排除するのに都合のイイ共生者である。
で、魔物が倒された場合、そのまま吸収するよりは回収して復活させたほうが良いと本能で感じ取るらしい。
魔物の死体をアイテムや魔石、貨幣といったそれなりの対価で『取り替え』るというスキルを発動させて手元に引き寄せるのだ。
これがダンジョンで魔物を倒すと死体の代わりにアイテムや硬貨がドロップする仕組みでもある。
またこのスキルがある程度成長すると、何度倒しても、時間が立てば同じ場所で復活するフロアボスを配置できるようになるのだ。
ここ試験に出るぞ(出ません)。
ちなみにこのスキル。冒険者がダンジョン内で死んだとき、冒険者ギルドのカードを所有していれば強制的に寺院に転送される仕組みに利用されている。
ギルドカードが、ダンジョンで死んだ冒険者をダンジョンに都合がイイ共生者だと誤認させ、スキルを発動させたところを横から掻っ攫うアイテムなのだ。
ご都合主義ここに極まれりという気もするが、これが野外で死んだ場合は寺院には転送はされない理由でもある。
なお倒された魔物は、素早く濃い魔素だまりに漬けることで1時間ほどで復活するらしい。
「祭壇までは最短を行くが、その後はお前のレベルが10になるまでレベリングだからな」
そう宣言すると、アスタルテの顔が曇った。
いや、いつまでもインプでは困るのよ。
出来れば早急に
「黄級ニ昇格スルンデスヨネ?」
「そうだね。そちらを先に済ませようか」
これ以上からかうのも何なので、足早に5階まで進むことにした。
わっちがこの世界に召喚されたのはいまから二百年ほど前。
とある召喚士の女によって呼び出されたんすよ。
対価は生まれてすぐに仮死状態になった新生児。
生贄ではなく、死にかけた我が子を助けようとして菅った一房の藁っぽい。
アスタルテというのはそのときの子供の名前っすね。
わっちがコウモリのような羽の生えた黝い肌の赤ん坊なのは、この時の姿が原因。
で、女の願いは半分叶って半分叶わなかった。
新生児の魂はわっちに喰われたけど、わっちは女が天寿を全うするまでの三十年のあいだは女の子供だったんすよ。
魔力の供給源でもあった女の死で、わっちも魔界に還るのかなーって思ってたところ別の召喚士に指輪に封じ込められて・・・
それから五十年は、召喚されることもなく装備する人間の魔力を吸い取る呪いの指輪として世間を転々と放浪。
そして百二十年前に一度召喚されたんですけど、使い魔としては暴れ・・・られなかったんすよ。
召喚したのはシルバードラゴン。
どこかの貴族がシルバードラゴンに献上したお宝のひとつだったらしいすよ。
召喚された瞬間、鼻息一発で吹き飛ばされて死にかけたのは嫌な思い出。
それから三十年間はシルバードラゴンの巣の隅で完全放置。
九十年前にシルバードラゴンの巣を襲撃してきた冒険者のパーティーによって外界に持ち出されたっす。
このとき冒険者パーティーに所属していた魔法使いが、わっちを含めたシルバードラゴンの宝の分け前でソラヤ商会を興したっす。
「ソシテ、先日マスター二買ッテ貰ッテ今二至ルッス」
しおらしい顔をしているアスタルテにデコピン。
「2/3はウソだろ」
「2/3ハ本当ッス」
もう一度、アスタルテにデコピン。
この
本能なんだろうけど・・・
「ぎゃう」
気の、もとい魔素に当てられて暗黒面に堕ちた
「邪魔」
アスタルテの身体から黒いモヤのようなモノが噴き出し、コボルトを包む。
バタバタと倒れるコボルト。
ああ、瘴気による精神攻撃か。
効くだろうな・・・
そして気絶したコボルトに止めを刺していくアスタルテ。
ソロだと何時まで経ってもレベルアップしないだろう戦闘スタイル。
戦闘に使えるスキルを叩き込むのが先か・・・
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