第32話ルーキー狩りルーキー狩られ その4

『丁重に扱え。そして2階の階段にでも放り出しておけ』


現れたラージアント(ワーカー)に命令すると、ワーカーたちは卵や幼虫を抱えるように冒険者を大あごで咥えてかさかさと足音を立てながら移動を開始した。


俺は、冒険者たちが回収できなかった宝箱の中身を取り出す。琥珀のブレスレットにナイフ。数十枚の銀貨。


「ルーキー狩り、か」


初級ダンジョンなどでは、右も左も知らない新米冒険者をなぶり殺しにする悪質な手練れの冒険者『初心者殺しルーキーキラー』を呼び寄せることがある。

このカシン・コジという男は、新米冒険者をなぶり殺しにすることを『ルーキー狩り』と吹聴し、そのことが事実だと確認されて冒険者ギルドのカードを無効化された過去を持っているようだ。(冒険者ギルド水晶調べ)

しかも俺とウブの鑑定で殺人鬼の称号が鑑定できるほどの極悪な犯罪者。

先ほどの会話から、相手が女冒険者なら誘拐して、性奴隷に落として売り飛ばしている鬼畜でもある。


すっと猫人ワーキャットの蔭からカシン・コジが姿を現し、手首に巻いていた布に仕込んだ毒針を抜き取り投擲。


カラン。


毒針は違わず俺の首に飛んできて、乾いた音と共に地面に落ちる。


「わたしの国の滑稽本マンガに、狸に変装した主人公が猟師をおちょくって遭難させるという狸狩られという遊びがありましてね」


俺の言葉にカシン・コジはキョトンとした顔をする。

まぁ仕方ないか。

すっと部屋の蔭からカシン・コジが姿を現す。

手首に巻いていた布に仕込んだ毒針を抜き取り投擲。


カラン。


毒針は違わず目の前の敵の首に飛んだはずだが、乾いた音と共に地面に落ちる。


「俺の世界の滑稽本マンガに、狸に変装した主人公が猟師をおちょくって遭難させるという狸狩られという遊びがありましてね」


俺の言葉にカシン・コジはキョトンとした顔をする。

まぁ仕方ないか。


「簡単な話ですよ。これから一時間。逃げ回る俺を捕まえられればお前さんの勝ち。逃げ切れられたら俺の勝ち」


一旦言葉を切る。


「幸い俺はルーキー冒険者ですからね。俺から見ればルーキー狩られという訳です」


「ふ、ふざけるな。ルーキー狩り狩りでいいだろ」


ん?おっと、かなり近い距離でショートソードが振られたが、難なく躱す。

二撃、三撃、連撃だがこれも躱す。

ちょっとした隙を突いてカシン・コジの手のひらに嫁さんに作って貰った毒を塗った針を突き刺す。


「つっぎゃあー」


カシン・コジが梁の刺さった手を掴んで悶絶する。

見る見るうちに手のひらが青紫色に変色していく。


「腕を切り落とすつもりなら、そのまま逃げてもいいよー」


俺は笑いながらカシン・コジから離れる。


「くそ。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな」


カシン・コジは唾を飛ばしながら、無事な方の手でショートソードを振り回す。

と、一瞬、顔付きが変わり、手首に巻いていた布に仕込んだ毒針を抜き取り投擲する。


カン


乾いた音が響く。


カン、カン


続けて乾いた音が響く。


「いやぁ、さすが流石です」


激昂して、雑な攻撃をしていると見せかけてからの鋭く正確な投擲術。一応褒めておく。


「きさま」


ギリりと歯軋りする音が聞こえる。


「いや、逆切れしてる人間が、ルーキー狩り狩りなんてツッコミを返したら、普通は警戒するでしょ」


カシン・コジの顔付きが変わる。

ショートソードで変色した手の傷口を抉ると、腰のポーチから薬瓶ポーションを取り出し傷口に振りかける。

傷口はみるみると塞がり元の手に戻った。


「そこも欺瞞でしたか。でもこの毒、専用の薬瓶ポーションでないと回復しないんですよ。傷の奥が痺れているでしょ」


意味ありげに笑うと、さらにカシン・コジとの間を取る。


「さあ、鬼さんはこちら、手のなる方へ」


わざと癇に障るように、俺は甲高く笑いながらダンジョンの奥に向かって走り出す。


『挑発Lv.1を習得しました』


マジか。というかナイスタイミング。

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