第17話大規模討伐依頼-発令-

宿屋兼居酒屋で晩飯として頼んだ野菜たっぷりシチューを堪能していた所、冒険者ギルドのカードからけたたましい音が鳴り響く。

当然と言うか音が鳴り響いているのは俺だけではない。というかこのカード、音がなるんだな。

カードには『緊急速報。大規模討伐依頼グランドクエスト発令。冒険者ギルド所属員は冒険者ギルドに集合してください』という表記が出ている。

大規模討伐依頼グランドクエストは、冒険者ギルドが所属するギルド員に対して発令するクラスに関係なく参加が義務とされる仕事クエストだ。

幾つかの例外を除き、参加しない冒険者にはペナルティが課せられる。

しかし、そのまんま緊急速報メールだな。


「ついてねぇー」


いままさにエール酒の入ったジョッキを飲もうとした戦士らしき黒髪黒目の細マッチョなお兄さんが立ち上がって2階に駆け上がる。

おそらく自分の部屋に装備を取りに行ったのだろう。


「ちょとお姉さん」


従業員ウェイトレスを呼んで事情を話して金を余分に払い、出された食事を食器ごとアイテムボックスの中に放り込んで宿屋兼居酒屋を出る。

アイテムボックスの中は時間が止まるのお約束がしっかり働いているからだ。

うん。嗜好としての食事は大事・・・


冒険者ギルドの前、集まったのは80人ほど。しっかりとした装備の人間は12人。それなりのが28人。俺を含めて残念なのが40人。

分布からしっかりとした装備がベテラン、それなりのが中堅、残念なのが駆け出しと言ったところだろう。


筋骨隆々で左目に眼帯をした虎頭の虎人ワータイガーが壇上にあがり小さく頭を下げる。多分冒険者ギルドのギルドマスターだな。

ギルドマスターが集まったギルド所属の冒険者を前に演説を開始する。


「ギルドマスターの東風こちだ。急な招集に感謝する。今日の昼に北の森林で熊のモンスターが発見されたのが先ほど報告された」


「熊が出たぐらいで大規模討伐依頼グランドクエストかよ」


右隣りにいた皮鎧の戦士が呆れたような小言を漏らす。

勘弁してください 。冬の時期の熊って穴持たずって呼ばれる腹減り凶悪個体じゃないですか。


「熊かよ」


左隣りにいた魔法使いも呆れたような小言を漏らす。

あれーこの世界の冬季熊は怖くないの?


「ギルマス。熊のサイズと種類が判らないと危機感が仕事しないぞ」


危機感が無いのは困るので、取りあえず煽っておく。


「あ、お、スマン。出たのは体長7メートルの灰色岩熊グレイロックベアだ」


たしか、ヒグマか最大体長3メートル体重500キロだからそのほぼ倍か。

取りあえず素早く回りをチェック。相手のサイズを知ってなお小馬鹿にしている奴は論外。お近づきにもなりたくない。

流石に良い装備の12人は浮かれていない。あ、それなりの装備群のところにエルフ弓士のマイたち発見。


「軍との共同?ギルド単独?」


「共同だが探索のギルドの担当は東だ」


相手は一頭。見つけることから始めるから仕方ないか。

そそくさとマイたちのいる所に向かう。

全く知らない奴と強制的にパーティを組まされるよりはマシだ。


「やあ。前衛、要らない?」


なるべく暢気な口調で声を掛ける。


「誰かと思ったらユウさん」


金髪碧眼で典型的なすとーんボディのエルフの女弓士。マイ・クロソー・フットが手を上げる。


「ユウさんは色なしだけど入ってくれるならありがたいな」


銀髪イケメンの人間の魔法使いオーエス・M・ドスと緑髪の人間の女僧侶ウイン・ドゥ―も手を上げる。

本来ならこれに虎人ワータイガーと人間の戦士の二人が加わるのだが、出会いの切っ掛けとなった野盗撃退の際に死んでいる。

死んでいるといってもこの世界での死は老衰や病死でもない限り金とチョットした備えで何とかなるけどね。


例えば野外だと、死後、棺袋という時間遅滞の魔法がかかっている死体を入れる袋に入れて街の寺院に運び込むこと。

神官の力量に応じた金を払い蘇生術を受けることで復活することが可能だ。

もっとも死体にも死体→灰→喪失という段階があり、喪失は完全な消滅を意味するのだが・・・


「あの二人は?」


「無事復活した。いまは二か月の冒険者ギルド員の資格停止中」


ウインが答える。

資格停止これは蘇生したときに起こる能力低下ステータスダウンを回復させるための措置だという。

大規模討伐依頼グランドクエストに参加しなくていい例外のひとつだ。


「あと一人か二人は前衛が欲しいけど当てはある?俺はないけど、要望は1盾役2槍使いかな。あと熊なんて楽勝って馬鹿は要らない」


取りあえず希望を出して、あたかも最初からあったかのように足元にアイテムボックスから出した袋を置く。

そして袋から以前の剣道の防具よりはほんの少し進化した防具一式を取り出す。

追加されたのは肩を守る袖鎧と脛あて。

チグハグ感は否めないが仕方ない。素早く着込む。


「防具も付けずにって思ったけど・・・あっという間だね」


オーエスが口笛を吹いて称賛する。いやお恥ずかしい。

大猪のマントを羽織り棍を担ぐ。


「おい。装備していた所を見ていたが、そんな軽装で大丈夫か」


誰かが後ろから俺の肩に手を置いた。

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