第15話フラグは避けられるようで避けられない
残念なことが判明した。俺の一張羅だが、仕立て直ししたぐらいでは主に胸囲の問題で数日ではなんともならなかった・・・という訳ではない。
俺の服を手に取って見分していた親方が仕立て直すことを鉄の意思で反対したのだ。なんでも俺の服には只ならぬモノが憑いているらしい。
亡くなった祖父が一番弟子の人と仕立ててくれた手縫いの一品ではあるが、そういう服は何着もある。果たして何が憑いているのやら。
で、一日だけでも何とかならないかと頼み込んだところ、親方は仕立て直しの代案として、彼のユニークスキル
そうやってスキルで作った服をお客に半日ほど着てもらって不具合を洗い出す別名「仮縫い要らず」。
ただ、スキルを行使するにはお金がそれなりにかかり、さらにより正確に採寸する必要があるらしい。
俺は躊躇することなく全裸になる。ここまできたらあとには引かない。親方の視姦ともいえる視線のもとカップ数から足の隙間まで
ちなみにスーツのお代は親方が仕立てたスーツ2着と俺のスーツ一式との交換となった。親方との間で「異世界デザインの服と異世界の服。そこの何の違いもないだろう」「違うのだ」というやり取りがあったことを記しておく。
そうそう親方は当たりくじだった。服飾職人としての腕はもとより、幅広い人脈とこの国のお偉いさんに対する作法を教えてくれたのは大きかった。
もし割符があるからといって直接乗り込んでいたら騒動になって謝罪という名の取り込み工作にあっていただろう。宗倉恐ろしい子。
4日後。
「二人掛けの馬車と宗倉さまの屋敷に先触れを頼む。私の名前はユウ・アクイ・メディチ。割符を持つものだ」
馬車停留所と書かれた看板の掛かった屋根だけの建物にあるベンチに座って煙草をくぐらせる
「男物の仕立服とは酔狂だな。先触れ込みで1日金貨1枚だ」
「それで頼むよ」
金貨と銀貨を1枚づつ
親方がいうには貴族さまのお屋敷に先触れなしに尋ねて行くのは非常に無礼な行為。
最悪でも先触れを出す。できれば馬車で乗り付けるのが常識なのだそうだ。
そして追加で払った銀貨は裏社会の人への面通しである。
大猪の毛皮を頭から被った姿なら寄って来ない虫も上等な服を着た女性ではそうもいかない。
南方辺境伯に所縁のある人間の客であることを喧伝したほうが余計な厄介事に巻き込まれないそうだ。
そうと知って絡んでくるチャレンジャーもいない訳ではないようだが。
先駆けを出したお蔭か、とくになんの障害もなく家敷の中に案内され、出されたお茶を一杯飲みほしたタイミングで宗倉さまが入って来た。
「よくおいでくださった」
握手を交わし向き合う形でソファーで座る。
座るなり宗倉さまは手を叩くと、ロングの緑髪に大きな緑色の瞳。額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな緑色の鱗。
背中には大きな蝙蝠の翼があるがそれ以外は普通に人の風貌をしたメイド服のドラゴンメイドと呼ばれる女性が入ってくる。
ドラゴンメイドは手に持っていた羊皮紙の乗ったお盆をテーブルに置くと静かに頭を下げて退室する。
「ギルドカードを載せて」
言われるままガードをお盆に載せる。
羊皮紙を開き、俺に内容を確認(普通に読めた)させた宗倉は静かに羊皮紙に手を置く。
「
羊皮紙がオレンジ色の光を放つ。
「報酬に色は付きませんが、ギルド
宗倉さまはすっと目を細める。ドラゴンバトラーなので威圧感が半端ない。
「
アイテムボックスから一対の五指タイプのいわゆるガントレットを取り出す。
棘付で拳闘士向けにデザインしたものだ。
「材料は貴女の棍と同じだと聞いた」
どうやら護衛だった冒険者からの情報収集は終わっているようだ。
とりあえず首肯する。
「知人の子供で今年十三歳になる人間の少年の練習用の鎧を発注したい」
おおっ流石だ。どう転んでも紐付けが解けないよう綺麗な手を打ってくる。
ここで断るを選ぶとこの先の仕事に影響が出る。断るの選択肢が選べない。
「先方の都合がつき次第どちらのギルドでも構いませんのでご連絡を」
「ありがとう。貴女ならそういってくれると思ったよ」
宗倉さまの顔は実にいい笑顔だった。
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