第2話人の話は最後まで聞かないとダメですよ(驚)
下駄箱の中に入っていた手紙で呼び出されたボクは、トイレの鏡である程度身だしなみを整えようとして、自分と散々にらめっこをした後、校舎裏へ向かった。
「九重 晴人君……だよね?」
高くもなく低くもなく、耳の中へすうっと浸透したあと頭の中にゆっくりと広がるような感じの美声で、ボクの名前が呼びかけられた。
「は、はいっ、そうです」
ガチガチに緊張しながらゆっくり振り返ると、そこには学校のマドンナ白河さんが立っていた。
今日も今日とて、白河さんは美しい。
夕風になびく綺麗な長い黒髪、大きくパッチリと開いた目で見られると誰もが魅了されてしまう。
それはもう神が生んだ最高傑作と言っても過言ではないような目鼻立ち、そして出るところはちゃんと出て引っ込むところもちゃんと引っ込んでいるプロポーション。
その上に着ている制服は、クラスの有象無象の女子達が着ているものとは、まるで違って見える。
そんな白河さんはいつもは落ち着きがあり、何があっても女神のような微笑みを絶やさないのだが、今日は顔を紅潮させていて、なんだか緊張している様子だった。
「急に呼び出したりしてごめんね。私は二年の白河 瑞希っていうんだけど知ってるかな?」
ボクは驚きのあまり声が出ず、首だけを大きく縦に振った。
そんな挙動不審のボクに、白河さんは話を切り出した。
「私、九重君にお願いがあって今日呼んだんだ」
白河さんは手をもじもじとさせてから、決心したのかふうっとゆっくり息を吐いて頭を下げた。
「私を是非弟子にして下さいっ」
「はい!ボクなんかでよかったらもちろんお付き合いを……って、へっ??」
ボクは自分の耳を疑った。
「えっ?で、弟子?あのっ、彼女とかじゃなくて?」
「はいっ!九重君のあの噂はかねがね聞いています。だから私を弟子にして下さい」
「へっ?あ、は、はい」
細い指でボクの手を握り、その美しい顔を目の前まで近づけ、懇願され続けて断りきれずにやむなく白河 瑞希は九重 晴人の一番弟子となった。
白河さんの柔肌に触れてボクが顔をアイスのようにとろけさせていると、背中にとろけるのを増長させようかと言うほどの熱い視線を感じた。
恐る恐る振り返ると、さっきからたむろしていた屈強な男たちが僕のことを血眼になりながら睨みつけていた。
ボクは背中に冷や汗をドバドバとかきながら、白河さんと連絡先を交換してその場を後にした。
その時ボクはまだ気づいていなかった。彼女の本性に……。
ボクに関しての噂がたった一つだけある。
その噂の内容はこうだ。
九重は女子全員を視姦しているらしい。
どこからか急にそんな噂が出てきて、それは瞬く間に広まった。
そのせいでクラスの男子もそうだが、特に女子からは避けられまくっていた。原因はボクのほうにも少しあるのだが、今はそんなこと気にしないでおこう。
まあでも、おかげで白河さんとなぜかお近づきになれたのだから今更ブーブーいうつもりはないが、一体なぜこんな噂が立ち上ったのか真相は謎のままである。
確かにボクの目はいつも半開きで眠たそうにしているが、そんなに気持ち悪いだろうか?
次の日、噂のことを考えて悶々としながら登校していると、後ろから誰かに強めに背中を叩かれた。
「おいおい、聞いたぞハル。お前、昨日白河さんに校舎裏で告白されたんだって?そんで返事は?もちろんオッケーしたんだろうな?」
朝っぱらからうざいハイテンションで、中学からの友達の桐島 光一がボクに話しかけてきた。
「いや、それがなんか告白とかじゃなかったんだよ」
「はあ?そりゃいったいどういうことだ?」
「白河さんはボクの弟子になりたいっていうんだよ」
「なんだそりゃ?つーかハルってなんか人に教えられる特技とかあったっけ?」
「ないよそんなの……白河さんはボクの噂を聞きつけて呼び出したって言ってたけど……」
「ほーん、っていうことはなにか?白河さんはハルの変態性に引かれったってのか?」
「だからボクは変態じゃないって。……もう何が何だかわかんないよ」
そんな会話をしながら通学路を歩いていると、ボクらの学校が見えてきた。
学校の校門前には、いつもはない大勢の生徒の人だかりができていた。
なんだろうと近づいてみると、その人だかりが突然真っ二つに割れて中から白河さんが出てきた。
「おはよう。九重君」
白河さんは目の前に立ち、小さくてとても柔らかそうな口角を上げて、ボクなんかに慈悲深く微笑みながら挨拶をしてきた。
「はっ、はい。おはようございます」
「あのっ、実は昨日言いそびれちゃったことがあって……」
頬を染め口に手を当て、なにか言いにくそうにしている絶世の美女を目の前にし、緊張して唾を飲み込もうとしていると、
「私、九重君にエッチなことを教えてほしいのっ」
「ゲホッ、ゲホッ」
飲み込もうとした唾が驚きすぎて逆流してきて、ボクは肩を上下させながら激しく咳こんだ。
その場には大勢の人がいたにもかかわらず、彼女の発言で場は木の葉が擦れ合う音が聞こえてくるほど静まり返り、数秒後に困惑の声と予鈴のチャイムが鳴り響いた。
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