第3話お昼ご飯を屋上で食べるとか憧れなんですよね(幸)


 昨日の放課後、なぜか誰しもが憧れる大和撫子の白河さんに呼び出され、あれよあれよいう間にボクに弟子入りした。


 そんなよくわからない出来事を桐島に話しながら登校していると、校門の前に人だかりを見つけた。

 ボクはそれを野次馬気分でのぞいてみると、その中心から白河さんが現れた。


「おはよう。九重君」


 周りからは「瑞希様がなんであんなやつと……」とか「ちくしょう。俺だって瑞希様に名前呼ばれてぇのによう」など、嫉妬の声が漏れ聞こえた。


「はっ、はい。おはようございます」


「あのっ、実は昨日言いそびれちゃったことがあって……」


 少し間を空けてから、白河さんは覚悟を決めて言い放った。


「私、九重君にエッチなことを教えてほしいのっ」


 そんな爆弾発言に、場が理解不能で一瞬静まり返った後、一気に騒然となった。


「えっ?いやっ、その、エ、エッチなことって具体的にどういうことですか?」


 白河さんは恥ずかしそうにモジモジとしながら答えた。


「学校の保健の授業では教えてくれないこととか……」


 そう言いながら、熟したリンゴのように顔を真っ赤にしていた。

 すると、


「コラッ!予鈴のチャイムが聞こえとらんのかお前ら。さっさと教室に入れ」


 この大騒ぎを聞きつけて、一年の学年指導で筋骨隆々の平先生(ハゲ頭)が生徒をかき分けて割り込んできた。

 そして白河さんを見つけ、


「ムッ、し、白河。よしっ、お前が何故こんな騒ぎになったのか後で私のところに報告しにきなさい」


 と、自身のでかっ鼻の下を伸ばしながら言い、白河さんは「わかりました」と、嫌な顔一つもせずに了承した。


 それから白河さんは平先生に誘導されながら校舎の中に入って行き、ボクはまだポケーっとその場に立ち尽くしていた。

 桐島に「おい、ハル!お前の話マジでほんとだったんだな。俺は妄想かなんかの類かと思ってたよ」と、言いながら頭をバンバン叩かれてやっと正気に戻った。




 午前中の授業を上の空で聞き流して昼休みになると、クラスの委員長がボクの名前を嫌悪感をあらわにしながら呼んだ。

 あの噂のおかげで大抵の女子からはいつもこんな扱いだった。


「九重君。呼んでる」


「えっ?う、うん」


 いったい誰だろうと教室のドアをガラリと開けると、目の前には白河さんが小さく可愛らしいお弁当箱を持って立っていた。


 至近距離で白河さんの顔を見ると、普段と違った感想が頭に浮かぶ。

 サラサラで綺麗な前髪、大きくぱっちりとして汚れを知らなさそうな目、細い眉にすらっと通った鼻筋、桜色のとても柔らかそうな唇、顔のどの部分をあげても一級品であった。


 目があったままずっとマネキンのように固まっている僕に、白河さんは小首を傾げながら手を振ってきた。


「九重君?おーい」


「はっ、はい。な、なんでしょうか」


 緊張しすぎて敬礼でもしそうな勢いのボクを見て、クスクスとエクボを作りながら微笑んだ後、手に持っていたお弁当を見せながら言った。


「お昼ご飯もう食べちゃった?」


「いや、まだですけど……」


「じゃあ一緒に食べない?」


「えっ、はい。ぜっ、是非」


 そんなやりとりをクラスのみんなが純粋な羨みや殺意のこもった嫉妬の目で見てきた。

 この教室の中で食べても、色々な視線がボクの胸に刺さりまくるので、ボクは人気のない場所にしようと提案して白河さんもそれに賛成してくれたので、ボクらは屋上へと向かった。


 ボクがお弁当と缶のポカリス○ットをカバンの中から取り出すと、白河さんが何かを察してまた顔を赤くしていた。




 天候はあいにくのどんよりとした鼠色の曇り空だったが、ボクの心の中は晴れ渡っていた。

 そりゃそうだろう、だってボクは今学校一の美少女と二人きりなんだぞ。


 ボクがそんなことを考えながらお弁当箱を開いていると、白河さんはなぜか急に制服を脱ぎ始めた。


「こ、九重君も早く脱いでよ。私だけ恥ずかしいじゃない」


 ボクは驚きながら慌てて視線を反らすと、白河さんは僕にも服を脱ぐように強要してきた。


「へっ?いやっ、ちょ、ちょっと。なんでいきなり脱ぎ出してるんですか?」


「そ、それは九重君がそれを持ってきたから……」


 と、言いながらポカリス○ットを指差した。


「これでどうして服を脱ぐことになるんですか?」


「だってそれ青い缶だから……あ、青姦をするのかなって」


 最後の方は消えてしまいそうな小さな声で言った。


「いやいやいやいや、そっ、そんなわけないでしょう」


 青い缶、青い缶、青い缶、青缶、青缶、青缶、青姦、ってならないだろ普通。


「と、とりあえず早く服を着てください」


 ボクは白河さんの方を見ないようにしながら、着ていたブレザーを手渡した。


「ご、ごめん。ありがと」


 白河さんは勘違いがよほど恥ずかしかったらしく、顔をゆでダコのように真っ赤にしていた。


 そんなハプニングがありながら、ボクたちは昼食を再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る