ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

第1話告白されるのは誰からでも嬉しいものですね(嬉)


 隣を通り過ぎれば誰もが一度は振り返る、まさに美少女というにふさわしい。

 そんな彼女の名は白河 瑞希。


 容姿端麗。文武両道。眉目秀麗。偉才秀才。エトセトラ。

 美点を上げていけばキリがないほどに、彼女は完璧だった。

 それはもう良い意味の四字熟語は、全て彼女のためにあると言っても過言ではないほどである。


 もちろんそんな人間国宝級の美しさを持つ、彼女のことを世のイケメン達が放っておくはずがない。

 彼女の下駄箱の中はいつもラブレターだらけで、開けた瞬間に溢れ出てくる。

 だが、彼女はそれをもう分かりきっているので、落とさない様にカバンで受け止め、その中に全部着地させていた。


 これはボクらの学校じゃ有名な話なのだが、彼女はあのたくさんのラブレターを全部熟読してから一人一人に返事をしているんだそうだ。

 告白に対する返事は全てNOなのだが、相手を傷つかせない様に優しい言葉で返ってくるって話も聞いたことがある。

 そんなことをするからか余計に文通相手が増え、今では学校中のほとんどの男子と文通しているんだそうだ。噂では教員ともしているらしい。


 まぁそれはそれはご苦労なことだなと、他人事の様に済ましていたのはつい先日までのこと。

 何故か今では、ボクの下駄箱にもたくさんの手紙が乱雑に入っている。


 朝、四方八方からボクの体が溶けそうなくらいの熱い視線を感じながら下駄箱を開けた。

 降ってくる手紙の束を白河さんのようにいけ止められるはずもなく、あえなく地面に落下する。


 彼女いない歴=年齢のボクからしたら手紙をもらえるなんて嬉しい限りなのだが、内容はラブレターのようなメルヘンチックなものではなく、荒れた字で書かれた果し状の山だった。

 ボクが仕方なくそれを拾っていると、不意に後ろから声をかけられる。


「よっ、やっぱりモテる男は違うねぇー!」


 こいつの名は桐島光一。ボクの数少ない理解者で、この状況を人一倍面白がっている。


「お前これの内容わかってるくせに何言ってんだよ」


 ボクは手紙の山の中から一つ取り出し、中を開いて桐島に見せつけた。


『九重晴人。てめぇ俺らの学校のマドンナ瑞希様にちょっとでも触れてみろ、次の日には富士の樹海で永遠にお寝んねすることになるからな』


 桐島はそれを見てまたゲラゲラと爆笑して、ボクはもう何度目になるかわからない深いため息をついた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 一ヶ月前。時期は五月上旬。

 新入生のボクは、やっとこさこの学校やクラスに馴染めてきたところだ。

 友達と呼べるかどうかはわからないが、ある程度喋れる人が多くなってくる。


 そんなみんなと喋る話題といえば、白河 瑞希のことでもちきりだった。

 彼女はもはや、この学校に知らない人などいないと思わせるほどの人気ぶりである。


 ボクはそんな高嶺の花どころか、富士山の山頂に咲く一輪の薔薇のような雲の上の存在の人と関わることなどないのだろうと、そう確信していたのだ。




 その翌日。ボクのもとに一つの手紙が届く。

 凄く綺麗な字で、『放課後に校舎裏へ来てください』とだけ書かれている。

 手紙には名前が書かれておらず誰かのイタズラかとも思ったのだが、そんなことは気にせずにボクのテンションは急上昇していた。


 いつもは真剣に聞いている新任の河合先生(巨乳)の授業も、今日は右耳から左耳へ抜けていく。

 そして刻一刻と時間は過ぎていき、待ちに待った放課後となった。


 ボクは緊張しながらも手紙を手に握り、逸る足取りで校舎裏へ向かう。

 校舎裏はやけに人が多かった。普段はひとりふたりがたまに通るくらいなのだが、今日は男が十人くらいたむろしていた。


 そんなことは気にせず、ボクはラブレターを送ってくれた女の子を探していると……。


「九重 晴人君...だよね?」


 不意に後ろから声をかけられた。


「は、はいっ、そうです」


 この声の主がボクに告白してくれるのかな?と期待に胸を膨らませながら笑顔で振り向き。


「……」


 そのままピシッと音が出そうなほど、ボクの体は全身硬直状態になった。


「急に呼び出したりしてごめんね。私は二年の白河 瑞希っていうんだけど知ってるかな?」


 白河さんの質問にボクは、福島県の郷土玩具赤べこのように首だけを縦にふる。


「私、九重君にお願いがあって呼んだんだ」


 こ、これは、まさか。白河さんはボクなんか告白しようとしているのではなかろうか?

 次の瞬間、白河さんはボクに頭を下げながら言った。


「私を是非弟子にして下さいっ」


「はい!ボクなんかでよかったらもちろんお付き合いを……って、へっ??」


 予想外のお願いにボクの口から間抜けな声が漏れた。

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