第7話
強い刺激。揺れる視界。零れ落ちる声は自分ではどうしようもなく、縫い留められた手は自らの掌に爪を立てる事しか出来ない。
見下ろす彼の瞳は爛々と薄闇で輝き、目の奥が焦げてしまいそうな程に視線が熱い。
ぞんざいな、感情の消えた手が目尻に触れる。
「俺を好きになった事、後悔した?」
まるでそうして欲しいような自嘲げな口ぶりに、自然と潤んだ目で光を見つめ返す。張力の限界を迎えて溢れた涙を双方親指で拭いながら、彼は苦しげに笑った。私は浅い呼吸を繰り返しながら、自由になった手を伸ばす。引き締まった頬を両手で包み、笑う。
彼が息を飲んだのがわかった。続けて微かに唾を飲む音が聞こえる。
「……余裕そうだね」
「っ……まさか」
目の光が和らいだ。打って変わって壊れ物を扱う様な躊躇いの混ざった手が頬に降りてくる。存在を確かめるように撫で動く手は、頬や瞼、耳、首などを這ってから頭を抱えるように後頭部に回った。
痺れるような感覚に、薄闇には星がチカチカと見え、その中で変わらず燦々と輝く双眼と相まって宇宙のようだった。
「もう、離せないよ」
キラキラと輝くふたつの星はグラグラと揺れてから悲しげな色に変わったように見えた。
ゆっくり頭を持ち上げ、首を伸ばして彼に口付けると、暫くして微かに彼の笑う息遣いがした。
水弱る 蒼野海 @paleblue_sea
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