第7章「ばんだあすなっち(前編)」

(1)


『こっちも今ちょうど自宅に着いたところだ。

 …そっちのほうは大丈夫か、鳴鐘さん?』


電話越しの八飛の言葉に、

鳴鐘はちらりと事務所のソファを見やる。

そこには塞杖が横になっていて、今も毛布で包まっていた。


「ああ、俺は大丈夫。塞杖も今は休んでいる。

 それより…そっちの弟さんはどうだ?」


鳴鐘は内心、九条の身を案じていた。

何しろ死体の浮かぶ水の中にいちど落ちているのだ、

どこかで感染症にかかっている可能性もなくはない。


それを察したのか八飛は「大丈夫だ。」と

先に言ってからこう続けた。


『…何とか自宅に着くまでは意識を取り戻したよ。

 多少ぼうっとしているが、健康上問題はなさそうだ。

 …だが万が一ってこともあるからな。

 もうちょっとして落ち着いたら病院に連れて行く。

 それから警察に届け出を出そうと思っているから、悪いが

 そっちへの経過報告はもう少し遅れると考えてくれ。』


鳴鐘は、「わかった」と言いつつも一応聞いてみる。


「…でも、警察にもろもろの処理を頼むのは当初の予定通り

 そっちまかせになるはずだが…本当にいいのか?」


その問いに八飛は「ああ」とつぶやく。


『もちろんだ。その為に俺たちがいたんだからな。

 …もっとも一人は役立たずだったが…。』


鳴鐘はその言葉には首をふって答えた。


「…そんなこといってやるな、労ってやれ。

 あんたの弟さんじゃないか…ところで…。」


そして、鳴鐘は尋ねようとする。


防空壕内で八飛が持ち出した一丁のリボルバー。

自分たちが逃げた後、もう一発撃ったあの音。

あれは一体何なのか。


それを…鳴鐘は聞こうとした。


しかし、同時に思う。

彼の機転が無ければ自分たちの身が危なかったのも確かだ。

ゆえに今後の関係を保つためにもここで水をさすような質問は

控えた方が良いのかもしれない。


そして鳴鐘はしばらく考え…


「いや、ありがとう。また明日都合の良いときに電話してくれ。

 俺たちは明日も常時、事務所にいるから…。」


そう言って、電話を切った。


その十分後、鳴鐘はコンロの火を消すと

あらかじめミルクを注いだカップに

お茶をいれミルクティーにする。


そしてソファに近寄り、眠っているはずの塞杖に話しかけた。


「大丈夫か?塞杖…まだ、鼻につくか?」


「…うん。」


そうしてむくりと起き上がった塞杖は、不安そうな様子で

毛布をブランケットがわりに両肩にかけ鳴鐘のほうを見る。


「…どうしよう、まだあの匂いがするよ。

 お腹もひどくすくし…これ、何かの病気かな。

 あの場所に行ったせいで、

 あたし…おかしくなっちゃったのかな?」


それを聞いて鳴鐘はミルクティーの入ったマグカップを渡す。


それを受け取った塞杖はこわごわと匂いを嗅ぎ、

おそるおそるミルクティーを口にする。


「…うん、わかる。茶葉はアッサムでしょう。美味しいもんね。

 でも、やっぱ何か味が二分割されてるみたい…気味が悪い。」


そうして、困ったように両手の中でカップを弄ぶ。

その様子を見つめながら鳴鐘も同じくミルクティーを口にする。


…確かに、味が分断された気がする。


死体浮かぶ、あの空間の中で嗅いだ匂いと

今飲んでいるミルクティーの味。


なぜだかわからない。

だが、それが同時に再生される。


…本来、嗅覚は同時に二つの匂いを嗅ぎわける事はできない。

過去と今の匂いならなおさらだ…なのに、分断されたかのように

鳴鐘の鼻腔と舌の上を今現在と過去がまとわりつく。


…これは、いったいなんなのか…。


そう、塞杖も鳴鐘でさえも、

あの場から逃げたあと得体のしれない

この匂いに悩まされた。


…もしかして、これが菜飯が言う『すなあく』の匂いなのか?


鳴鐘は日記を思い出す。

あれも確か数日間は匂いに悩まされた事が書かれていた。


魅力的なこうばしい香り。

しかしそれだけに空腹感が否応無く増し、

他の飲食物では物足りないように感じる。


その事実に、その悪夢のような自己の欲求に

鳴鐘は少なからずショックを受けていた。


そして鳴鐘は今もカップを持て余し気味の塞杖を見る。


彼女はもっとひどかった。

匂いがまとわりつくと訴え、夕食を食べても落ち着かず、

常に不安げに周囲を見渡していた。


「目をつむると、あの防空壕の中の水の部屋を思い出すんだよ。

 そこであの匂いが充満している。死体の浮かぶ部屋なのに。

 そして、空腹がもっとひどくなる…なんでこうなるのか、

 ホントわかんない…。」


そう言うと、塞杖は今にも泣きだしそうな顔で

ブランケットをぎゅっと握りしめた。


その様子を見て鳴鐘は考える。


…菜飯の日記では時間とともに落ち着いてくると書いてあった。

となれば時間に任せて自然と消えるのを待つしか無いのだろうな…。


そんなことを思っていると、ふいに塞杖が言った。


「…でもさ、八飛さんと九条だっけ…?

 あの二人はよく我慢出来てるよね。この匂い。」


そのことに、鳴鐘は首をふる。


「さあな、もしかしたら人によって差があるのかもしれないな。

 よく考えたら、俺たちはあの死体の一番側にいたわけだし、

 それだけ現場の近くにいた訳だからよけいに匂いが…。」


と、そこまで言ったところで気がつく。


…より多くの匂いを吸い込む?


そして、九条は思い出す。

老人ホームで見た菜飯のメモ。

「匂う」と大量に書かれたメモのことを。


「そうか、『匂い』だ。」


その言葉に塞杖は顔を上げる。


「匂い?」


首を傾げる塞杖に鳴鐘は問う。


「なあ、えみり。お前は匂いの仕組みって知っているか?」


「えっと…。」


塞杖は戸惑いながらも答える。


「確か大学の授業で習ったときには、物質から発生する

 小さな粒子が鼻腔に入って、その粒子が鼻腔内の感覚器官に

 伝わることによって匂いってわかるんじゃなかったっけ?」


それに対し、鳴鐘はマグカップを机の上に置くと

パシンと両手を合わせた。


「その通り。粒子が体内に入ることによって俺たちは匂いを感じ取る。

 …つまり今、どうして俺たちがこの匂いに苦しんでいるかと言ったら、

 俺たちは無意識のうちに『すなあく』の匂いを…つまり『すなあく』の

 一部を体内に取り入れてしまっていたという事に他ならないんだよ。」


「えっと…原理はわかったよ。つまりあたしたちは、

 その『匂い』に悩んでいるのか…『すなあく』の匂いに…。」


そうひとりごちる塞杖に鳴鐘は続ける。


「そう、しかもそれだけじゃあない。日記に書かれていただろう?

 白金あづねが『すなあく』を気絶するまで食べ続けたと。

 つまり『すなあく』というものは非常に中毒性が高い。

 何年経ってもその『匂い』は長い年月を経ようとも絶対にわかる

 …そして菜飯は気づいたんだ。」


そして鳴鐘は資料を入れたファイルの中から

菜飯の書いたメモを取り出す。


「ここに大量に書かれた『匂う』の文字。

 そして壁には『すなあく』の名が書かれていた。

 …おそらく一度嗅いだ事のある菜飯は気づいたんだろうな。

 施設の近くに『すなあく』がいるということを…。」


その言葉に、塞杖は目を白黒させる。


「え?あの『すなあく』って

 集落の中にしか生息していないんじゃないの?」


それに対し鳴鐘は首をふる。


「…断言はできないない。生物か現象なのかもあいまいだしな。

 ともかくそれはこの場所に迷い込んできたのかもしれないし

 生息場所を移したのかもしれない…だが菜飯がこうしてメモを

 残した以上、ここにいるのは確かなんだ。…よし、いったん

 この情報を玉串の兄に報せよう…。」


そして鳴鐘はすばやくスマホを操作し、八飛の番号に再びかける。

…しかし、コール音が何度かするだけで八飛はいっこうに出ない。


「…おかしいな。さっき電話を切ったはずなのに…。」


そうしてスマホを切ろうとした鳴鐘の耳に、

つんざくようなサイレンの音が聞こえて来た。


「…ん?火事か?消防車のようだが…。」


それを受けて塞杖がテレビのリモコンを手に取り

ローカル局の速報ニュースをつける。


「…うん、火事だね。この近くで車が炎上しているみたい。

 あ、消防のツイッターでも速報入ったよ。

 現場は近所にある川沿いの土手で燃えてるのは

 灰色のワゴン車って…え?やっくん、出るの?」


途端、鳴鐘は大急ぎで塞杖に上着をよこす。


「えみり、もう忘れたのか!

 あいつらが乗っていたのは灰色のワゴン車だ!」


「え?でも、二人とも家に着いたって…。」


「…嘘をついていたかもしれない、ともかく行くぞ!」


そうして鳴鐘は事務所のドアを開け、時間のかかる

エレベーターよりも非常階段の方を選択する。


…嘘だ。嘘だと言ってくれ。

鳴鐘は内心そんな思いで階段を駆け下りていた。


鳴鐘の中でうごめく不安。

電話越しに話す際に抱いていた不安。


…そう、拳銃だけではなかった。

八飛はあの防空壕から出る際にリュックサックを手に持っていた。

重そうなリュック。何が入っているかも言わなかったリュック。


帰りの際にも車まで弟をおぶうようにお願いをしてきたが、

果たしてあれは単に疲れからくるものであったか?

何かを隠していたのではないか?…そう、例えば…。


「…なあ、えみり。お前、あの森を抜けているときに

 すでに『すなあく』の匂いが鼻についていなかったか?」


鳴鐘の投げかけたその質問に、塞杖は短く「うん」と答える。


「…確かに、あのときにもひどかったよ。

 なんか、すぐ近くにあるくらい…ちょうど、あの防空壕の

 水辺にいたときと同じくらいの匂いはしたし…もしかして、

 『すなあく』があたしたちを追って来ていたのかな?」


「…いや、違う。」


鳴鐘は即答すると事務所ビルのドアを開ける。

外は深夜にも関わらず繁華街から溢れる光できらびやかに見えた。


「…たぶん、あれは近くに『現物』があったからだ…。」


鳴鐘は素早くスマホをつけ、

ネットの消防板で火事の現場の位置を確かめる。


「…『現物』?」


そう問う塞杖に対し、鳴鐘は声が震えないように、こう言った。


「…たぶん、八飛は持っていたんだよ。

 剥いだ肉片…『すなあく』から剥いだ肉片を…。」


そうして鳴鐘は駆けて行く。


火事の現場へと。おそらく、八飛と九条のいるであろう

夜空に浮かぶ灰色の煙へと鳴鐘は駆けて行った…。


(2)


…それと同じ頃、八飛も走っていた。

しかし、どこをどう走っているかというとあいまいだ。


何しろいきあたりばったり。

とかく人ごみの多いところをさけて走っていた。

炎上した車は体感的にもうずいぶんと遠くなっているように思えた。

周囲はすでに閑静な住宅街へと変わり、暗い道が続いている。

しかし八飛は振り返らない。いや、振り返れない。


背に担いだ弟が重い。

しかし弟に降りろとは言わない。

いや、言えない。

八飛にはもうわかっていた。

背に担いだ弟が、もうすでに死んでいる事を。


…時間は鳴鐘との電話を切った直後に戻る。


そのとき、八飛は自宅になどついていなかった。

あの場所から戻った後、未だぐったりと後部座席で気絶した弟を

置いたまま、八飛は川沿いの橋の下に車を停めていた。


その両手には証拠品である『すなあく』の入ったリュックがあり、

八飛は、脂汗をかきつつ自分に対し必死にこうつぶやいた。


「…ダメだ。俺はすぐにでもこれを科研に持って行かねばならない。

 俺が剥いだんだ。証拠の肉だ。決して喰いたい訳じゃあ無い。

 そう、喰いたいんじゃないんだ。」


そうして、車内にいる八飛は助手席を見る。

そこには以前からアウトドア用に積んであった簡易コンロとフライパン。

隣には酒…あの集落の床下で九条が偶然見つけだした透明な酒があった。

車窓には外から見えないように黒いビニールシートを貼り、中の行動を

見られないようにもしてあった。


「なんで、なんで…俺は、こんなことしている…。」


そのとき、八飛の腹がぐるると鳴った。


…そう、本当はわかっていた。

あの防空壕の水の部屋で、あの生き物を撃った時から気づいていた。

あれを喰いたいと。こいつの皮をはいで喰いたいという欲求を。


気がつくと、八飛はサバイバルナイフを取り出し、

肉を細かく切っていた…そう、あの生き物の皮を剥いだ時のように。


…不可視であるにもかかわらず、奴がどこにいるかはわかった。

手探りでそのぶよぶよとした皮をつかみ、ナイフで切り込みを入れた。


皮は簡単にはがれ、中から芳醇な香りのする肉が飛び出した。

それは幾重にも層の重なった豚とも牛ともつかないものであったが、

霜降りの限りなく上等な肉であることは八飛にもわかっていた。


…それを今、俺は焼いている…。


気がつくと、八飛はそれに持って来た酒を浴びせ、

軽く火をつけフランペにしていた。


車内に立ちこめる匂いは酒によるものかどこか青味をおびて、

そこからあふれる肉汁と混ざった香りは八飛の胃をひどく刺激した。


…おかしいだろ、俺は何をしているんだ?

これじゃあまるで、俺があの防空壕の中でした行為は、

ただ肉を盗もうとしたこそ泥に対し、銃をぶっぱなして

追い出したことになってしまうじゃないか。


…そう、あのとき確かに防空壕内に自分たち以外の

人間の気配があることに八飛は気づいていた。


何しろ別荘の草むらにあったタイヤ痕はまだ新しかったし、

集落の中を見回ったときに木々の中に隠れた無人トラックを

八飛はこっそり見つけていたからだ。


しかし、一番損傷の低いと感じられた家の中には人の気配は無く、

あったのは床下の酒と何枚もの衣類や靴の入った段ボール。

そして、ひとつの弁護士バッジだけだった…。


…そう、鳳来…あいつ以前、この集落に来ていたんだ。

衣服こそなかったが、あいつのお気に入りの靴が中にあった。

きっと、誰かがあの集落に鳳来を誘いだし何かしたに違いない。


だからこそ、何か武器になるものはないかと探した。

菜飯の話を完全に信じた訳ではなかったが、何かがいると

分かった以上、丸腰で現場を探索するのは危険との

判断からであった。


…ゆえに、リボルバーの拳銃を引き出しから引き当てた時、

八飛はこれは運命だと思った。


そしてあの水の部屋の大量の死体を見つけた瞬間、

八飛は悟った。


石鹸…鹸化。死後、水に浮かべられ、鹸化された死体たち。


菜飯の日記の言葉、『おまえら、石鹸だったのか』という言葉。


それはおそらくこういうこと。

ここにあるのは連れてこられた外部の人間の末路…。


…おそらく、鳳来はここに連れてこられ、そして…。


そう考えているうちに、

いつしか水中の死体がまるで食べられるかのように

削れていくのを八飛は目にし、迷わず撃った。


…それは、一種の敵討ち。

弁護士、鳳来のための仇討ち。


そのとき確かに八飛は見た。

水中の反対岸からのびる通路。

そこに人の影があったことを。


八飛はさらに撃った。


距離的にみても残り二発しか無い銃弾を

無駄にする事はわかっていたが、

それでも八飛は撃っていた。


そして、対岸の方へと渡ろうとし…

…気がつくと、サバイバルナイフを取り出し、

件の化け物の皮を剥いでいる自分に気がついた…。


自分は、何をしているんだ…?

すでに肉はこんがりと焼け、

食欲をそそる匂いが一層強くなった。


…俺は、これを喰いたいのか?

証拠品だぞ?逃げようの無い証拠品だぞ?


…いや、それよりも。

なぜあのとき相手を追わなかった?

なぜあのとき肉を剥いだ。

なぜあのときそのまま持ち帰った。


…俺は、今、何をしているんだ…。


『なあ、兄貴。俺腹が減ったよ。』


…気がつくと、後部座席にいた弟の九条が起き上がる。


『…それ、兄貴の買って来た肉か?すげえいい匂いだな。

 ひとつつまませてくれよ。』


止める間もない、説明する間もない。

弟は…この愚弟はすばやく肉をつかむとその口の中に

ほうりこんでいた。


『うお!うめえ。兄貴も一緒に…ってもう喰ってんじゃん。

 なんだよ抜けがけして、ずりいぞ!』


気がつくと、八飛は気がつく。

自分の指が脂で汚れていることに。

口内に、何か美味いものを食べたような感覚が残っている事に。


『ちょっと、兄貴なんだよ。そんな怖いカオして、

 それにコンロも消してないし、このままじゃあ火事に…あれ?』


そう言うと、弟の体がぐらりと崩れる。

それは、八飛も同じ。意識が反転し、周囲の景色が黒に染まる。


そして、その心は後悔に沈んでいく…。


…どうしてだろう。どこで間違えた。

確かに水の部屋に入るまでの自分は正気であった。

しかし、あの部屋に入った途端、自分の中の何かが崩れた。


原因は、死体の山か?あの植物か?


…いいや、違う。あの化け物だ。

あの『すなあく』という化け物だ。


アレによって、自分は狂わされた。

あの匂いによって自分は崩された。


アレが石鹸となった人間を剥いで食べるように、俺の理性をはぎ取り、

食欲という欲望を剥き出しにしたのだ…。


八飛の意識はしばらくのあいだ暗い水底のなかに沈んでいた。


そして、妙な煙さと熱さに気がつき…知る。


コンロがひっくり返り、車内を燃やしていた。

火は座席をなめ、車内は煙で満たされている。


だが、それ以上にむごいことを知った。

後部座席からはみだす弟…その弟が死んでいるという事実に。


その死に様は惨かった。


…こちらに向けた顔は紫に変色し、

だらりとした舌は口外から垂れ下がっていた。


そして、八飛は悟った。

これは自分の不始末だと。

自分が引き起こした悪夢だと…。


…気がつくと八飛は車から脱出し、走っていた。

背にすでに死んだ弟を抱え、人気の無い場所まで逃げていた。

自分は何をしているのか、自分は何をしたいのか。

わからない。だが、とにかく逃げなければ…。


八飛は半ば混乱する頭で走っていた。

そこにはもはや己の信念のために動く男の姿はなかった。

ただの惑う男の顔でしかなかった。


そして、疲れも忘れただ走っていた八飛は足を止める。


…目の前に、二人の人間が立っていた。


一人は男、一人は女だった。

そして、男は口を開くとこう言った。


「…玉串さん、あんた何やってんだ?」


…それは、数時間前まで一緒に行動していた相手。

…探偵である鳴鐘矢付と塞杖海狸の姿で間違いなかった…。

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