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「…だあぁぁぁっ着い、たっっ…!」


校門の段差を踏み越えるなり美音のシャウトが空気中にこだました。


そのままへなへなと崩れ落ちそうな美音の腕を掴んで私も嘉宮くんもふっと笑みをこぼす。



「お疲れ様ー」と声がして顔を上げると、校舎前に張られたテントでは数名の先生方が微笑んでいる。


脇に置かれた青いアイスボックスには、溶けかけの特大な氷と数十本のドリンクが中で水に浮かべられていた。



「1本ずつ好きなの取ってってね」と先生に促されるまま、アイスボックスに手を突っ込んで各々ペットボトルやら缶やらのジュースを取り出す。



キンキンに冷えた水に触れた腕だけが一気に冷たくなり、歩きっぱなしで大分暑くなった体内の熱の一部を逃がしてくれるみたいだ。



「なんか一瞬生き返った…」

缶の炭酸飲料を片手に私が呟くと、「疲れた、癒しが欲しい、なちゅはどこじゃー」美音が嘆く。





「廣瀬ならそこにいるけど」




予想外の声に顔を上げると、ソラちゃんが「おかえりー」と人懐っこい笑顔を浮かべて立っていた。




ソラちゃんは後方にぞろぞろと人を引き連れている。


自らで集めたと言うよりは、自然と集まってきたんだろう。相も変わらず、大半が女の子だ。


話好きな女子特有の高音と早口が入り交じり、なかなかに賑やかな集まりになっている。その中ににこにこと微笑み聞き手にまわるなっちゃんの姿もあった。



「なっちゅーっ!」


美音は、後方に集まる女子のうち2年生は大半がクラスメイトであることに気付くと、跳ねるような軽い足取りで主になっちゃん目掛けてその群れに突っ込んでいった。


ついでに私の手も引いて。



ガールズトークに花咲いていたタイミングで突然割り込む形になった美音だったが、クラスメイト達はそれを邪険にするでもなく、例えば手に負えないが何故か愛らしいやんちゃ坊主を相手にするみたいに、がしがしと乱暴気味に頭を撫でくりまわした。



美音に連れられるまま輪に入った私にも、彼女等は「おつかれー」と笑顔で歓迎の意を示してくれる。



転校生ならではの中溝を防ぎたい一心で最近じゃ積極的にクラスメイトと話す機会を設けていたのだが、それもなかなかに効果覿面こうかてきめんだったようだ。



「モテ男もここまでくるともはや天然タラシやろ」

美音が皮肉った口調で呟く。




いつもの事ながらソラちゃんを囲むように集まる群れは、学年を見分ける為に体操着や運動靴に入れられた色ラインが赤青緑と勢揃い。ちなみに私達2年生は青ライン。



先輩から後輩まで顔が知れてる上、男女問わず学年問わず人気の高いソラちゃんは、もはや売れっ子のアイドル状態だ。



当の本人はというと、女子の群れに追っかけ回されようが目前で堂々と噂話をされようが全く動じていない。至って通常運転。




「女子皆してお前の話しかしてねぇじゃん、あぁ羨ましい」

芝居がかった口調で、嘉宮くんがソラちゃんの高い肩に手を置く。


へぇ、と分かっているのか分かっていないのか気の抜けた返事をするソラちゃん。


「余裕かって…あぁちくしょっその無駄に高い背ぇオレにも分けてくれや」

「やーなこったー」


ソラちゃんと嘉宮くんが、いつもの部活後と同じく汗だくのままでじゃれ始めた。


底無しの体力で2人鬼ごっこを始める始末。




不意にソラちゃんの眼中から外されてしまった取り巻き達は、「あー」と落胆した様な声を出す。



相棒嘉宮くん優先じゃしょうがないかぁ」

取り巻きの誰かが呟いた。




大空だいそらっ…いややっぱ力量的に空大そらだい…?うむむむ」


男子小学生的ノリではしゃぐソラちゃんと嘉宮くんを、美音は目を細めじっと見つめながらなにやらぶつぶつと考え込んでいる。


理解の追い付かない私を他所に、クラスメイト達は慣れた様子で「まーた始まった」と呆れ顔。


「ん?」


「あーあーこっちの話。分かんないなら分かんないままでいいよ、ってかその方がいい。愛華の心が腐っちゃいかん、うん」

ぺらぺらと言葉を並べる美音。



正直私には何が何やらさっぱりなのだが、脳内に徐々に侵入してきたクエスチョンマークは「大丈夫、本命は空愛そらあいやで」という美音の一言が極めつけとなった。



「う、うん…?」

なおさらよく分かんないや。

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