想いの距離感

1

「おはよー」




いつもと変わらない挨拶を交わして、いつも通り自転車の荷台に跨って、ソラちゃんと一緒に登校する。



学校に着いたら美音となっちゃんとお話して、昼休みにはソラちゃんと嘉宮くんも合流して一緒に食堂でランチして。



放課後になったら各々部活して、それが終われば自然と集結して下校する。





気付けばそれが日課になっていた。







3週間程過ぎるのなんて思ったよりあっという間で、5月2日の今日、各々膨らんだリュックサックを担いでおもむろに足を進めていた。




「美音、大丈夫?」

「…おん」


涼しい顔で足取りも軽やかななっちゃんと、ふらふらと前進しながら投げやりな返事をする美音。


その隣に並んで、私はただひたすらこの過酷さを気にしないようにと音楽(脳内再生)で気を紛らわせていた。





「この学校なんで強歩大会なんかあるんじゃー…」嘆く美音。



それに関しては私も是非物申したい。



去年通っていた学校は強歩大会なんてものはなかった。この時期のイベントといえば春の遠足で、クラスの仲を深めるのには絶好の機会だった。






だがこの水羽高校は違うらしい。



春の遠足なんてものはなく、代わりにあるのが今まさに行っている強歩大会。


毎年この時期になると、男子は約30km、女子は約25kmのコースを設けられ、およそ5、6時間(個人差はあるが)ゴールである水羽高校に向かって歩き続ける。


これがなかなか過酷だ。


スタート地点まではバスでの移動となるのだが、その間既に弱音を吐く者も少なくない。


まあ、人気のあるイベントでは決してないようだ。






「え、結構楽しいよ?」

「本当に?体力あるね、なっちゃん…」

「さすが陸上部。ほれ、アメちゃんをやろう」


いつの間にやらリュックサックから取り出した持参の飴を、私となっちゃんに差し出す美音。




「塩レモン味?」いつも持ってるね。と、なっちゃんが笑いながら受け取る。

「おん、塩分補給な」と美音。



「いつも持ってるんだ?」

「うん、いつも美音のポケットから出てくる」

「だってうまいが」



ぽいっと飴を口に放り込んで、「先行っててー」と1歩後ろに下がる美音。



リュックサックを肩から下ろしてポケットに飴のゴミをしまっている。



私となっちゃんは少しペースを落として歩く。すぐに小走りで追い付いてきた美音が、どーんとか叫んで私となっちゃんに飛び付いてきた。





「ねねね、なんかいい感じの話ないー?」

「…恋バナは無しね」

「なんでっ?」

「尋問みたいなんだもん、美音の恋バナ」

ぶぶー、とわざとらしく唇を尖らす美音。目を細めて眉もしかめて全力で顔の原型を崩しにかかる。



「やめなさいよあんた、顔が崩れる」なっちゃんが呆れながら美音の額を叩く。

とは言っても、ぺちっという小さな音が出る程度だが。





「じゃあわかった、いっこだけ質問!」美音は、ひらめいた!とでも言いたげな顔で私のリュックにぶら下がるストラップを指差すと、手作り?と首を傾げた。


「作ったのは私じゃないんだけどね。小学生の時、気に入ってたリボンを友達に加工してもらったんだ」


「へぇ、器用なんやねその人」なっちゃんが感心したように声をあげた。



「加工…」

「どうかした?美音」

「んーなんか聞いた話に似てんなぁと…」

美音は、うーんと唸りながら、ストラップを睨みつけるようにじっくり眺めている。



その横顔がやっぱり妙に懐かしく感じる。



「なんか、似てるなぁ」

「え?」



「昔よく行ってたアイス屋のお姉さんに似てるなぁと思って…」


何気なく言った私の言葉に、面食らったようにぽかんとする美音。

思ったより大きな反応に、むしろこちらが呆気にとられそうだった。




「もしかしてそのリボンって、その人からもらった、とか?」なんて美音は妙に恐る恐る聞いてくる。


「そうだよ、よく分かったね?そのお姉さん、アイス買うと毎回リボンつけてくれるんだけど、それが嬉しくて一時期集めてたんだー。だけど赤いリボンはなかなかもらえなくて、それで……」



「それって…」話についてこれていなかったのか静かに聞くだけだったなっちゃんが、突然反応を示した。



「少女漫画みたい、いいなぁー」



なっちゃんの発言に私は思わず「ん?」と声を漏らす。



これのどこが…



「え?だって…」



なっちゃんが答えようと口を開いた時だった。



「そっち、端の方寄って」と美音。


後方からバタバタと足音が聞こえて咄嗟に状況を察した私は、美音の指さす方へ移動した。



一方、気付いていない様子のなっちゃんは、ワンテンポ程遅れて「え?」と声を漏らした。


美音が急いでなっちゃんの体操着の裾をぐいぐいと引っ張り道の端を空けるように促すと、後方から駆けてきた2人の男子が空けられたスペース通って私達を追い越す。



リュックを背負っていないところを見ると、スタートからゴールまでマラソンの要領で走り切るつもりでいるのだろう。



元気だなーなんて感心していると、一方の男子が「あっ!」と叫んで急ブレーキをかけた。

もう一方もつられて立ち止まると、今度は二人同時にこちらに振り返る。




「あれ、朝倉くんじゃね?」と美音。

先に急ブレーキをかけた方がソラちゃんで、その隣にいるのは恐らく嘉宮くん。



「愛華っ!」ソラちゃんは私を見るなり満面の笑みで引き返してくる。


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