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県内で唯一学食のある県立高校はこの水羽みずわ高校のみだ。


3限目までにあらかじめ券売機で学食の券を買い食堂のおばちゃんに渡しておくと、4限後の昼休みには出来たての学食を受け取ることができる、それがここのシステムらしい。




「3限目までに券買えんかったら、ここの購買でパンとかおにぎり買うって手もあるでな」


私にこの食堂のシステムを説明しながら、美音は白衣を着たおばちゃんから美味しそうな親子丼の乗ったトレーを受け取り、代わりに番号の書かれた半券を手渡した。




美音曰く昼食のとり方は、弁当を持参する者、学食や購買を利用する者、両者五分五分らしい。


普段は弁当派らしい美音も、今日は私との約束のために学食を利用することにしたんだそうだ。









トレーを手に私と美音が席に向かうと、すでに待機していたのはソラちゃん、なっちゃん。それから昨日ソラちゃんと一番仲良さそうに話していたメガネ男子、嘉宮かみや大貴だいきくんの3人。



ありがとー、とお礼を言いながら、私達はなっちゃんの隣に腰掛ける。


大きめのテーブルを、男1列と女1列で挟む形になった。



「…て、ソラちゃんそんなに食べるの!?」


椅子に座った途端に出てしまった私の声に、ソラちゃんは焼きそばパンを頬張りながら頷いた。


恐らく購買で入手したであろうパンが5個も机の上に置かれている。

そして食べかけのパンも合わせて6個…いや、それよりも。



「それは…」

その、既に完食済みのどんぶり鉢は…



「ん?ラーメン」



「あははコイツ大食いやからな」

絶句する私に、嘉宮くんがそう言う。


食べかけを丸々口に放り込んだソラちゃんを見て、なっちゃんも笑いながらうんうんと頷いている。



「まー朝倉くんよく動くかんね…」

「放っておくといつまでもバスケしてるし」

「体力が尋常じゃないんやってな。ちょっとした空き時間は筋トレか走り込みやぞ」


美音、なっちゃん、嘉宮くんの3人が、口々にソラちゃんについて話し出す。

主に、ソラちゃんはいかに体力馬鹿で食欲旺盛なのか、について。



なるほど

「ソラちゃんの筋肉はそこからきてるわけなんだね…」

肘下まで捲られた制服から伸びるソラちゃんの筋肉質な腕を見て、私は一人納得していた。



「へもはんむぐぁもぐ…」


何か言おうとしてもごもごとこもった声を出すソラちゃんを、ちゃんと飲み込んでからね、となだめる。

すると、彼は手元のペットボトル(中身はコーラ)でパンを一気に流し込んだ。


栄養が心配…



心配そうに眺めていたのは私だけではなく、美音やなっちゃんも同様だった。


嘉宮くんは何故か楽しげに笑っているけれど…




「チョコパンがない!!」



突然目をかっと見開いて叫んだソラちゃんに、私は驚いて彼の倍ほど目を見開いてしまった。



何故にいきなり

「ち、ちょこぱん…?」


「俺の原動力!やけど今日は売り切れてた…」

むすっと不機嫌そうな顔で、ソラちゃんは一番手前にあったおかずパンの封をべりっと開く。



「購買で一番人気やしなー。なんやったっけ、なんとかデラックス?ってやつ」と嘉宮くん。


「え、なんじゃそら」美音が驚いた声を上げる。




「あかん今日は放課後持たんわ…」

「いやいや頑張れや、次期部長候補」

嘉宮くんはやれやれと苦笑いを浮かべながら、おかずパンを持ったまま脱力するソラちゃんの肩を小突いた。



あ、そや。と嘉宮くんがこちらを見る。

「よかったら放課後バスケ部見に来ん?望月が来ればコイツもやる気に…」



そう言えばさっきちょうどバスケ部の話が出たところだったな。

「んー、じゃあ行ってみよっかなー」



「えっ、愛華が来るなら頑張る!」

突然大きな声を出し、やった!と目を輝かせる仔犬ソラちゃん。



な、何このかわいい生き物…



さっきまでの気だるげな態度はどこへやら、途端に元気を取り戻した仔犬は再び手元のおかずパンをもぐもぐと頬張り始めた。

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