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ソラちゃん曰く、『自称進学校』。
一学年あたり生徒数300人以上(10クラス)の、この辺じゃ結構なマンモス校らしい。3学年足すと1000人を超えるか超えないかで、転入生の私にとっては初対面揃いの場所だ。
小学生だった頃の顔見知りが校内に十数人いるかもしれないが、この多い教室の数では自分のクラスに1人いれば上等な方だろう。
だが。こんな偶然ってあるだろうか。
「まさかソラちゃんと同じクラスになるとは…」
「俺やっぱ運いいわ」
嬉しそうに呟いたソラちゃんは、鼻歌混じりに新2-1教室の扉をガラガラと開けた。
教室を覗いてみると、まあ当然だけど知らない顔ぶればかり。
教室内にはところどころグループが出来ているようだ。
もうすでに新しいクラスに馴染んでいる人もいれば、緊張してるのかそわそわと落ち着きがない人もいる。
ソラちゃんは多分前者だ。
「よお朝倉っ!今年も同じクラスやぞ」
程よく制服を着崩したメガネの男子が駆け寄るのを皮切りに、教卓側で固まって話していた男女4、5人のグループが早々にソラちゃんの周りを囲んだ。
「えーっ!またか勘弁してやぁー」
冗談っぽくあしらいつつも楽しそうに返すソラちゃん。
グループのメンバー以外に、近くにいたクラスメイトや廊下を歩く生徒からも「おはよー」と声をかけられ、ソラちゃんはそれに笑顔で応えている。
女子の一人が、不安げに私の顔を見つめていた。いや、正しくは私とソラちゃんの顔を交互に見比べていた。
周囲の女子のなかで一際目立つ高身長。後ろで高く結われた短めのポニーテールがふわっと揺れる。
その視線に気付いたソラちゃんが、「俺の幼馴染み」と言って私を軽く前に突き出した。
「あ、幼馴染み…」
ふっと安堵の息を漏らすように彼女が呟くと、「あー、その子が転校生ちゃん!」と今度は別の誰かが叫んだ。
転校生。
そう聞いた途端、周囲にいたクラスメイト達が物珍しそうに私に注目する。
「どこから来たのー?」とか、「なんでー?」とか、ありきたりな質問攻めが始まる。
そういえば、前に一度同じような状況になったことがあったなー。と、5年程前に体験した小学校の転校について思い出した。
あれは酷かった、ほんとに。
好きな〇〇は?嫌いな〇〇は?なんて、終わりが見えない質問のオンパレードで…
「2人付き合ってるんけ?」
「…ん?」
一番ぶっ込んだ質問が飛んできた。
ガヤガヤと責め立てるかのように騒がしかった教室が、その一言でしんと静まり返った。
「あ、違った?」
恐らく声の主である女子が、腰まであるほんのり茶髪のストレートヘアを揺らしながらくいと首を傾げた。
お人形さんのように整った顔つきが愛らしい彼女は、身体付きが華奢なせいか、はたまた高身長のポニーテールちゃんと並んでいるせいか、実際よりやけに小柄に見える。
「今朝、朝倉くんが登校してくるのたまたま見かけて。あれ絶対2ケツしてるわって思って見てたんやけど。その後ろに乗ってたのって多分…」
ゆっくり、ゆっくりと結構な間を空けながら話す茶髪ちゃん。
「それ、間違いなく私だよ…」
「あ、やっぱりかー」
茶髪ちゃんが安心したようにそう言うと、再びざわざわと会話が飛び交い始める教室内。
たださっきと違うのが、明らかに私とソラちゃんの関係について話し合う声が多いということ。
しばらくして「あーやっぱりそう見える?」なんてソラちゃんがふざけて言い出したもんだから、ますますヒートアップしていく噂話。私はただひたすら「ただの幼馴染だよ」と返答していくものの、勝手に盛り上がっていくクラス内の誤解は晴れない…
「はよ席着けー」
教室の前方の扉から入ってきた若い男性教師が、主に教卓近くで群がる私達に注意を呼びかけた。
そして私を見るなり「おっ、望月さんか?既にだいぶ馴染んでるみたいやな、よかった」なんて言って微笑んだ。なんだか親しみやすそうな先生だ。
「ほれほれ、出席番号順に座れっ」
先生の2度目の呼びかけで、ようやくぞろぞろと各々の席に座り始めるクラスメイト達。
「勝っちゃんせんせー、今から何かするんですかー?」なかなかな軽口調でクラスの誰かが言った。
「そや。取り敢えず、出席番号順に自己紹介タイム設けます」
初対面の人もいるやろしな、と先生が付け足す。
私の席は、ちょうど一番廊下側の先頭の席。
なんて端っこな…
当分自分の順番は回ってこないだろう。
ちらっと左側に視線を寄越すと、同じ列の一番窓側にソラちゃんの姿がある。
出席番号1番。
そっか、〝あさくら〟だもんね。
「元1-5の
バスケ部所属、趣味はバスケ、三度の飯よりバスケが好きです。あ、でも、三度の飯もめっちゃ好きなんやけど…」
どっと笑いが起こった。
なんじゃそりゃー、とか、いいぞ朝倉おもしれー、とか、クラス中からソラちゃんへのツッコミが入る。
「そんでもって、あとは愛華も好きで」
ざわ…クラス内がどよめいた。
愛華って誰?とか、芸能人の名前とかじゃないん?とか、至る所から声が上がる。
「ソラちゃんっ!?」
思わず大声でツッコミを入れてしまった私に、一気に視線が集まる。
声をあげなきゃよかった、なんて後悔の念を抱くも、既にざわざわと収集がつかなくなった教室内。
見兼ねた先生の呼びかけで一旦静かになるが、その後もちらちらと視線を浴びているようでなんだか落ち着かない。
そっと後ろを振り返ると、こちらに注目するクラスメイトの中に先程のポニテちゃんを発見する。
そわそわと落ち着きがない様子の彼女は、斜めの席に座る私と目が合うなりハッと我に返ったように視線を逸らした。
何事も無かったかのように着席するソラちゃんを横目に、これは一刻も早くクラスの誤解を解かなければと悟るしかなかった。
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