第12話
Mirage-12
pm.8:00
目の前に座る彼に手を伸ばして額にかかった髪をそっと分けた
「ふっ、くすぐったいよ。
沙織、おいで」
彼の膝の上に跨がって座ると隙間がない程に抱きしめられる
「くる…しぃ」
彼は黙って力を緩め、頬にチュッと口づけ、そのまま立ち上がった
「きゃっ、おろして、重いでしょ?」
「平気」
「ダメだって、おろしてよ~」
「沙織からキスしてくれたら、おろしてやるよ」
「わ、わかった。いいわよ」
彼女の柔らかい唇がそっと触れた瞬間、今まで、余裕ぶってた自分がバカらしくなった
一気にベッドに押し倒して、焦るように服を脱がしていく
「弘人?ちょっ…」
露になった白い肌に吸い付くようにキスをして、胸を乱暴に刺激する
「んんんっ、やっ」
俺の首にしがみつき、歪んだ顔で身体をくねらせる彼女を一心不乱に抱いた
「弘人…」
彼女が俺の手を握った瞬間、ハッと我に返って動きを止めた
「ごめん、ごめんな、沙織」
「うううん、いいの」
「俺は身勝手だよな」
「違うの。
顔…見せて
弘人をちゃんと見ておきたい」
「うん」
横向きになって見つめ合うと
彼女は人差し指で鼻をツーっとなぞりながら言った
「弘人、イケメンだね。
ここにホクロあるんだ」
確かめるように
ゆっくりと俺の顔、肩、腕を順に触れていく
落ち着いた沙織の声が耳の奥に響く
こみあげてくる思いを抑えられなくて
「沙織、もういいだろ?」
「嫌っ」
「…沙織」
俺は無理矢理彼女の腕を束ねて、長いキスをした
「ずるいよ、弘人って、優しいんだか、冷たいんだか、わかんない」
「俺は冷たい酷い男だよ。そう思っとけ」
淋しい顔で吐き捨てるように言った言葉が不思議と温かくて…
奥深く繋がるとまるで、夢の中にいるようで涙が止まらなかった
ベッドの軋む音
彼の呻く声、荒い息遣い
「さお…り、好きだよ」
身体がフワリと宙に浮いた感覚になった時、私の額に滴が落ちた
弘人の汗なのか?
涙なのか?
彼の腕の中で眠りにつくことは出来ない
せめて、
最後に彼にお願いをした
「ねぇ、私のわがままも聞いてくれる?」
「いいよ」
顔の横に肘をついて微笑む彼
「歌ってほしい。弘人の歌聞いてみたい」
「歌かぁ」
「そうよ、ダメ?」
「わかった。
恥ずかしいから、顔見んなよ」
私の向きを変えて背中から包んで耳元に唇を寄せた
優しい…歌声
知らない歌なのに何でだろう、
とても懐かしくて涙が溢れた
彼の声が鼓膜に響く感覚が切なくてたまらなかった
「ずるいよ、
やっぱり弘人は…
……酷い男だよ」
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