第11話

Mirage-11


pm.6:00



彼女のアパートに帰った


料理は出来ないと思ってた沙織だったけど、実は意外と上手くて、てきぱきと作り上げ、テーブルに並べられた


「何だ、出来んじゃん」


「だから、言ったでしょ。しないだけって。

仕事してると、時間も不規則だし、外で食べる方が都合いいのよ」


「そうなんだ……上手そう!」


「どうぞ」


「いただきます」



料理を口いっぱいに頬張って、時折、私の顔を見ては子供みたいに嬉しそうに笑う


その姿はさっき、あんな言葉を語った人とは思えず、何だかとても可愛らしくて、見とれてたしまってた



もうすぐ…会えなくなるんだ



「沙織も食べなよ」


「あっ、うん」


「どした?」


「うううん…何でもない」




淋しそうな顔してる癖に何でもないって笑うから、こっちが余計に淋しくなるじゃん。



テーブルに向かい合わせに座る彼女の方へ椅子を持っていって足でクルリと向きを変え真っ正面に座り、両手で頬を挟んだ



「な、何よ!」


「うーん? ぶっさいくな顔」


「悪かったわね」


「ハハハ、怒んなって」


「泣きそうな顔…してる」


「してないよ」


「意地張んなよ。泣け泣けぇー」


「泣く理由ないでしょ?」


「なくてもいいよ。

泣きたい時は泣くんだよ」



彼女をギュッ抱きしめた



「弘人、あったかくて……泣きそうだよ」


「んっ」



声を殺して泣く沙織


震える細い身体が愛しくて、たまらなかった



「なぁ、沙織、俺のわがまま聞いてくれる?」


「ぅん、どうしたい?」



真っ赤になった目で優しく俺を見上げ

首を傾げた



「もう一度、沙織を抱きたい」



その言葉を告げた瞬間、また彼女の瞳から涙が溢れた

親指で拭うと唇にくっと力を入れて必死で笑うんだ



「いいよ

弘人でいっぱいにして」




どうして、別れなければいけないのか

約束だから?


そんな約束、帳消しにすればいい

何度も思ってた


…けど、言えなかった



Parisの街を眺めながら、話す彼の目が

未来を見ていたから…。

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