第10話

Mirage-10


p.m.3:00



セーヌ川沿いに並んで座った


川上から吹いてくる風が気持ちよくて

思いっきり伸びをした



「うーん…はぁ~、ここ、いいね」


「そうでしょ?」


ちょぴり、自慢気に微笑んだ彼女がゆっくりと自分のことを話始めた



ファッションの勉強をしにParisに来たこと

そして、そのままこっちで仕事を始め、どうやら、業界ではなかなかの名の通った人らしい


「そうなんだ、すげぇなぁ~、沙織」


「まだまだよっ

ねぇ、弘人のことも教えてよ」


「俺のこと?」


「うん」


「俺かぁ」


「嫌だったらいいけど」


「嫌じゃないけどそんな、大したことないよ」


「そうなの?

芸能人なんでしょ?」


「まぁ、一応ね。歌を…やってる

けど、俺もまだまだだよ

……最近…ふと思うことがあるんだ。

5年後

10年後

その先…

俺は何処をどう歩いているんだろうって」



彼女は真っ直ぐ前を見て話す俺の横顔を体の向きを変えてしっかりと見つめてた


俺はそんな沙織の方を向かず、話を続けた



「でもさ…それは誰にもわからないし、

きっと、神様にだってわからないのかも…。

わかってしまうと進めないし、

わかろうとする必要もないんだと思う」



そう…言って彼女の方を向くと、

今度は彼女が前を向いて、大きく息を吸い込んで言った



「そうかもしれないねぇ

…うん、きっと、そうだよ」



ゆったりと流れるセーヌ川を眺めながら、俺は沙織の肩を抱き寄せた



「この街…何かいいね」


「でしょ?」



また、自慢気に笑う彼女が見上げた時、お互いどちらともなく、口づけた



唇が離れる度、物足りなくて、何度も何度も繰り返されるキスに心が震えた



急き立てられるように流れてた時間が

ここでは一瞬一瞬をちゃんと見ていられる



風が冷たいのか、温かいのか


雲がどんな形なのか


隣にいる人がどんな風に笑ってるのか



当たり前のことだけど、

今の俺には幸せな時間だった








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