第9話

Mirage-9


am.9:00



寝返りをうつと彼女の温もりが消えてた


「さお…り?沙織!」


「あっ、起きた?」


ニコリと笑って、俺の横に腰かけた彼女の手首を引っ張ってしがみつくように抱きしめた


「どうしたぁ?大きな声で」


「焦ったぁ、俺ずっと眠ってて

もう時間が来て…沙織がいなくなっんじゃないかって」


「勝手に消えないよ。

私って、シンデレラみたいだね

魔法が…とけてしまったら……

んんっ」


それ以上聞きたくなくて、俺は彼女の口を塞いだ

もう一度、腕の中に閉じ込めると



「不思議だね。私も…弘人の匂い…落ち着くんだ」


そう弱々しく呟いて胸に顔を押し当てた



頭を撫でようと手を伸ばすと

急に顔を上げる


「ねぇ、お腹空かない? 」


精一杯の笑顔を見せる彼女に俺も答えた


「あー、そう言えば、ペコペコ」


「フフフ、そうよね」


「マルシェ、行こっか」


「外に?」


「そうよ」


「作ってくんないの?」


「甘えなぁーい」


「料理出来ないんだ~?」


「うるさいわね、出来ないんじゃなくて、しないだけぇ」


「ふっ、そういうことにしとくよ」


「じゃ、早くっ」




2人で賑わうParisの街を歩いた

嬉しそうに案内してくれる彼女はまた昨夜の顔とは別人



沙織はいったい、どれだけの顔を持ってるんだろう


腕を絡め、上目遣いに見つめる目があまりにも魅力的でわざとよそ見すると

聞いてるのー?と顔を近付ける


だから、そういうのやめてよ

マジで離れたくなくなるから


心の声が彼女に伝わるじゃないかって、

バカみたいにドキドキしてた




男と女の愛情が過ごした時間に比例するとは限らない



“赤い糸”なんてものはあるはずがないって思っていたけど、もしかして、俺と沙織にはずっと前から見えない糸で繋がっていたのかもしれない



そんなことを思ってた


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る