第2話 「私いろんな※¥で▼%□してたんですよ」

 僕たちはとりあえず意味もないまま歩いていた。

[これ、聞こえるか?]

「わあ!喋ったように見えないのに声が聞こえます!腹話術ですか!?」

[いや、一応神代の力だよ]

 死者とだけ念じれば言葉が伝わる、いわゆる『念話』ができる無駄な能力、必要のない能力。使うことなんてないと思っていたがこんな風に使うとは……。

[外で君と話すと周りの人の目が痛いからね……聞こえているならよかった。]

「ぬぬぬーーん」

[え、なに唸ってるの?]

「いや私も念じれば伝わるのかなーと思って!」

[君は他の人に聞こえないんだからその必要もないし……]

「は!そうでした」

なんの茶番なのだろうか彼女はよくおどける。

「あの、神代さん?」

[……神代はやめてくれ。僕は神代 白(かみしろ はく)。呼ぶなら名前にしてくれ]

「ハク……さま?」

[さっきまでさん付けだったじゃないか]

「あはは~何となく言ってみたかっただけですよー。それで白さん、これからどちらに?」

[………………]

「えっと、もしかしてノープランですか?」

[はぁ、仕方ないだろ、特に君のことも知らないし]

「えぇー!なんで歩いてるんですか!疲れるじゃないですか!私休憩したいです!」

[君は疲れないだろう……]

「ゴーストジョークですよ~ジョーク~」

あいにく紺を探すことで体力がついたのか歩くことに疲れは感じないが、ユウキハルのテンションの高さには疲れが生じる。

[君は……いつもそうだったのか?]

「ん?なにがですか?」 

[いや、なんでもない]

[……しょうがないからカフェでも入って話を聞いてやるよ]

「わーい、カフェですか!かみし……白さんからそんな単語が出てくるとは思いませんでした!なるほど、白さんの奢りですね!」

こいつは本当に馬鹿なのか、もしくは僕が馬鹿にされているのか定かではないが反応するのも面倒くさいのでこの後カフェに入るまで僕は黙りを決め込んだ。


 どこにでもある全国チェーンのカフェ。まだ午前中だからか手持ちとしてコーヒーを買う人が多い。僕はホットカフェオレをひとつ頼み二人用のテーブル席に座る。向かいにはユウキハルが座ってにこにこしている。

「死んでからこんなところに来るとは思っていませんでした!」

[そりゃ、そうだろうね……カフェ自体の地縛霊でなきゃこないよ……]

「へぇ、幽霊にも種類があるんですね!私はなんだろう……?」

[動けてるから浮遊霊じゃないの?]

「なるほどー」

 少しの間。けれど僕は早く彼女の死因を探さなければいけない。紺の情報を少しでも手にいれるためだ。彼女の気持ちなど考えている余裕もない。

[ユウキさんが覚えてることってどのくらいなの?]

「は!る!です!」

[え、春までってこと?]

「ちーがーいーまーすー!ユウキさん、じゃなくてハルです!」 

[えー]

「私が白さんと呼んでいるのですから、白さんも私のこと下の名前で呼ばないと不公平です!」

[はぁ、分かったよ。じゃあハル、覚えてることってある?]

「白華女子高等学校1年A組……」

[それから?]

「なんか、夏服ですね!これ!」

ハルは自分の格好を確認するために制服をつまんだりヒラヒラ動かしている。

[……それから?]

「えぇっと、友達の友に希望の希、季節の春、で友希春……です?」

はぁーっと僕は深いため息をついた。

[もしかして、それ以外の情報は何もないの?]

自己紹介と何ら変わりない情報はこれから先の苦労が見えるようだった。

(紺の手がかりの為とはいえ、これは外れか?)

「えっと、ごめんなさい。」

彼女は表情によく感情が出る少女らしい。申し訳なさが全面に出ていた。

「あの、でも、私、自分以外の情報ならたくさんありますよ!」

[それはどういう……]

自分のこともわからないのに他の知識なんて、と聞きながらカフェオレを口にした。

「私、いろんな場所で自殺してきたんです!」

「は?」

意味のわからなさに声に出てしまったし、持っていた飲み物を危うくこぼしかけた。

(あぶない…….)

僕は一人なんだ。誰とも一緒にいない。一人でカフェオレを買い、一人でそれを飲んでいるだけの学生だ。それを忘れちゃいけない。

[で、なに?もう一回言って]

「私いろんな場所で自殺してたんですよ」

[へぇー自殺。それはまた大層な]

ハルの言っていることが破綻しすぎていて僕は流すことを優先した。それでもハルはお構いなしに自分の話を続けた。

「私、自分の死んだ理由わからないじゃないですか。だから再現しようと思いましてー、ある日は走行中のトラックに突っ込んでみたり、ビルの屋上から命綱無しのスカイダイビングしてみたり、橋の上から飛び込みをしてみたり……」

それからそれから、と自分がしてきた経験をひたすら語っている。まるで子供が遊園地の帰りに面白かったアトラクションを言い連ねるように……

「まぁそのような感じでそれらをいろんな街で試したわけですよ!」

彼女は武勇伝かのように話すが何も尊敬や素晴らしいなどという感想も湧かない。まぁ彼女も望んではいないだろうが。それよりもそんなことを繰り返してきた彼女の精神力はタフさをも感じる。

[それで、自分以外の情報とは?]

「行く先々でさっき白さんが言っていたその場にいる地縛霊……?の方たちとお友達になったんです!ですので、自分のこと以外なら大体は知っていると言いますか……」

幽霊同士で友達になんかなれるものなのか……と新たな発見もあったが、この情報量が確かなら紺の手がかりも見つかる可能性が高い気がした。

「あ、ちなみに白さんとは人身事故を起こそうとした矢先に痴漢されました。」

[……痴漢じゃないからね。]

「えぇー!そうだったんですか!てっきり痴漢かと……」

人身事故を起こそうとした犯人に痴漢呼ばわりされたくない。というか突っ込みがままならない会話をしている気がする。幽霊と関わると頭がおかしくなるのか。

正気に返り、本題に戻る。

[君の情報量が確かなら、紺のことも知っているのか?]

「さぁ、それは……私、自分のこともわからないので他人のことまで教えることはできません。」

あくまで自分のことがわからない限りは答えないつもりを貫くらしい。しょうがない。

[……じゃあ、君のことを正式に調べるよ。条件はそれでいいかい?]

「はい、ありがとうございます!」

笑顔でハルは礼を言う。

[まず、君がわかってることしかわからないから、その学校にいこうと思うんだけど……]

「道案内はできますよ!お任せください!ですが……」

[?]

「うちの学校は女子高なので、たぶんなんの許可もないしかも男性の白さんは簡単に入れるとは思いません……」

確かに。しかも白華女子高等学校だと僕ですら名前を聞いたことがある。ということはお嬢様学校の可能性が高い……。ガードは堅いはずだ。しかし、

[そこは、たぶん心配ないよ]

「え?」

ハルは驚いた顔をしていたが、僕の意見を聞き、「じゃあ問題ないですね!行きましょう!」と僕のことを少しの疑いもしないで通っていた高校に案内した。

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君の理由、僕の解答。 散花 @sanka_sweera

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