54 凱旋

「……なあ姫さん、天人族なんて聞いたことないぞ?」

「……奇遇だな、私も聞いたことがない。なにせあの場で私がでっち上げたものだからな」

「……ちょっとマーレなにそれ? どういうこと?」

「……くくく、ヤーヒムの翼が全てを救ってくれた。まあ任せておけ」


 アマーリエの衝撃の発言から場は流れ。

 今、彼らは砦に向け、二千の重装騎兵からなる<戦槌>騎士団の前をひと固まりになって移動している。


 先頭を行くのはマクシムとダヴィット、テオドルの騎士三人組だ。

 その後ろに、ひそひそと内緒話をしながらアマーリエやフーゴ、リーディアといった面々が続いている。そして僅かに離れたところにヤーヒムとダーシャ。


 全員が<戦槌>騎士団から融通された軍馬に騎乗しており、それはなんだかんだで妹姫に甘い<戦槌>騎士団長アレクセイの鶴の一声のお陰であった。馬を提供した騎兵は同僚の後ろに相乗りすることとなったが、それはさておき。


 ヤーヒムはアマーリエの強い要望どおり、背中に翼を出したまま、ダーシャを鞍の前に同乗させている。


 隣で愛馬を進ませるアレクセイは何やら難しい顔で胃を押さえており、簡単な自己紹介以外はほとんど会話がない。

 元が無口で、しかも百年に亘って孤独な地下牢に囚われていたヤーヒムに、そこを打開する闊達な話術などあろうはずもない。


 時おり逃げ散ったキマイラを発見した騎兵達がアレクセイの短い指示の下に小隊単位で追撃に入っていくが、それ以外は至って静かな行軍だった。


「……わ、そういうことね。ふふ、なら私も協力するわ」

「……うむ。リーナがそっちで口裏を合わせてくれれば完璧だ」


 ヤーヒムの鋭い聴覚は、前を行く仲間達のひそひそ声をそのまま拾っている。

 ちらりと振り返ったアマーリエとリーディアに小さく頷きを返し、状況が掴めず不安そうに見上げるダーシャにもひとつ頷いてみせるヤーヒム。


 だいたいの意図は理解した。予想外の展開ではあるが、先日のツィガーネク子爵との面談と同じだ。

 あの時も良い結果となった。アマーリエとリーディアは何やら自信がありそうだし、この手のやり取りは任せるべきところなのだろう――そう心を決め、ヤーヒムは借り物の馬に刺激を与え過ぎないよう、最低限の動きで馬を馭していく。


 なにせ背中に翼を召喚し続けているお陰で馬が非常に怯えているのだ。スレイプニルのフラウの時もそうだったが、なぜか馬を自然と従えているダーシャがいなければ、おそらくヤーヒムは近づく事すら出来なかったであろう。


 背中の翼はヤーヒムの一部、擬似的な守護魔獣のようなものとして定着しているとはいえ、素体は禁呪で顕現した存在の残滓そのものである。動物に怯えられるのは当然と言えば当然のことだった。


 ちらりと自分の翼を振り返り、さらに小さく畳んだヤーヒムは、隣からの視線に気が付いて顔を戻した。


「……それ、出してないと駄目かな」

「……ああ、アマーリエ――妹君がそうしておけと」

「……ウチの妹が迷惑かける。すまん」

「…………」


 アレクセイとの何度目かの短い会話。

 天人族などと紹介されたヤーヒムを、どうやら受け入れてくれてはいるらしい。


 それがアマーリエやリーディアの介在によるものなのか、ダーシャのような少女を家族として連れているからなのか、同じ戦場で友軍として共に凱旋しているからなのか、その辺りはヤーヒムには分からない。

 若しくは、アマーリエが大袈裟に伝えたヤーヒムの功績も少しは影響しているのかもしれない。


 言葉少なに会話を途切れさせたヤーヒムに、アレクセイの瞳に奇妙な理解と共感の色が浮かんでいる。

 今の会話がきっかけのようだが、なにやらその琥珀色の瞳には仲間意識のようなものすら感じられる。


「なあ」


 アレクセイが遠慮気味に声をかけてきた。今回は会話がもう少し続くらしい。


「今度、酒でも飲まないか」

「…………?」

「きっと話が合うと思う。落ち着いたらぜひ声をかけさせてくれ」

「……ああ」


 なぜか勢いづいてきたアレクセイが、ヤーヒムの同意を得るなりその男前な顔にパアアっと笑顔を浮かべた。


「ああもう、絶対盛り上がるぞ。親父やおっさん達との軍議はとっとと終わらせて、派手に飲み散らかそうな。どうせあのお転婆娘アマーリエが何か企んでるに違いないし、憂さ晴らしは絶対に必要だぞ。そうそう、ヤーヒムお前、酒じゃない方もかなり強いだろ? 俺もちょっと自信あるからよ、軽く手合せもしようぜ。あ、その翼は仕舞ってくれよな。空を飛ばれたらさすがに俺も――」


 一気に喋りだした若き騎士団長にダーシャが目を丸くしている。


 ヤーヒムはもちろん口を挟む余裕すらない。もしかしたら少し人見知りするだけで、これがこのアレクセイという男の素なのかもしれない、そんなことが頭をよぎっていくだけだ。

 そこにはどこかフーゴに似たさっぱりした匂いが感じられ、やはり武人なのだなと冷静な解釈をしていたりする。


「――ということで俺も応援するからさ、馬鹿な妹だけどよろしく頼むわ。時々とんでもない無茶するだけで悪い女じゃないんだぜ?」


 ヤーヒムが言葉を返せずにいるうちに、身振り手振りのアレクセイの話題はあさっての方向に飛んでいる。


 何が「ということで」なのかさっぱり分からないが、アマーリエは信頼する仲間だ。その点は全面的に同意する内容なので、様子を窺うようにこっそり振り向いたダーシャに小さく頷きつつ、ヤーヒムは曖昧な返事をするに留めた。


 周囲に大人しかいないせいか、ダーシャは未だに遠慮が多い。

 あまり甘やかしすぎるのもどうかとは思っているのだが――


「小さい頃はホント可愛くてな、今はちょっとだけ魔獣の首をすぱんすぱん斬り飛ばすのが趣味になってるけど、昔は可哀想って泣いて庇ったりして――げ。何でもない、何でもないぞアマーリエ」

「ほう、何を話しているのかな? なあアレクセイ兄上殿?」


 大声でまくし立てていたアレクセイの眼前に、いつしか話題の当人が下がってきていた。

 二人の間に凍えるような緊迫した空気が張り詰めているが、背後の騎兵達から一斉に漏れたため息から察するに、実はよくある光景なのかもしれない。


「人のことより自分の心配をしたらどうだ? まずはほら」


 燃え盛る怒りをたたえた琥珀色の瞳で実の兄を見据えながら、すっきりと美しいラインを描く顎でくいっと前方を示すアマーリエ。


「もう砦に着くぞ。か弱い妹に戦果を横取りされた言い訳は考えてあるのか?」

「お、いや、まあ適当に何か言うさ。なんかあっという間に着いちまったな」

「ふ、ならば凱旋の口上はこちらで戴こう。ヤーヒムも来い――ハイヤ!」


 気合と共に乗馬に拍車をかけ、アマーリエが一散に砦目掛けて飛び出していく。

 慌てて後に続くヤーヒム。それに気付いたマクシムたち直属の騎士三騎が、フーゴが、リーディアが一緒に駆けていく。


「カラミタは我ら特務部隊、<ザヴジェルの刺剣>が討ち取ったぞ! 魔獣も壊滅、ザヴジェルに平和が戻ったのだ! 開門、開門ーッ!」


 大音声で叫ぶアマーリエがいつの間にか頭上に高々と掲げているのはエヴェリーナのラビリンスコアだ。

 久方ぶりに落ちてきた日差しにきらきらと輝き、いやがうえにも守備兵達の注目を集めている。


 砦の方々から歓声が上がり始め、騎兵達の帰還を見て準備はしてあったのだろう、砦の城門が大きく開かれていく。


「――だが、我ら<ザヴジェルの刺剣>は単独でカラミタを討ち果たしたのではない! 称えよ、獅子奮迅の働きをした協力者を! まずはリーディア=シェダ、言わずと知れたシェダの姫だ!」


 防壁前の広場で乗馬の脚を止めたアマーリエがリーディアを指し示すと、割れんばかりの大歓声が砦中から沸き起こった。


 防壁の上には様々な種族の兵達が鈴なりに集まり、どこからか持ち出されたザヴジェル辺境伯家の軍旗までが大きく振られ始めている。

 知名度があり、すみれ姫の名で親しまれているリーディアならではの大反響だ。


「そして高名な傭兵、<暴れ馬>のフーゴ!」


 ノリ良く長大なハルバードを振りまわしてみせるケンタウロスに、オオオとうねるような歓声が返ってくる。


 フーゴの<暴れ馬>という通称は夙に有名だ。そんな高名な傭兵がザヴジェル防衛に手を貸してくれたと、大勢の兵達が口々に感謝と賞賛の言葉を叫んでいる。


「そして最後に! 天人族のヤーヒム=シュナイドル!」


 大歓声が当惑に変わり、尻すぼみに小さくなっていく。


 彼らがまず感じたのは戸惑いと、どこか恐れにも似た畏怖。誇らしげに彼らの姫将軍が指し示しているのは、人ならざる大きな漆黒の翼を持った男だったのだ。


 誰もが自分の目を疑っている。人系種族に有翼のものなどあったのかと。そして、当たり前のように告げられた「天人族」の名も聞いたことがない。確かに翼を持ち、天を舞う人族らしき名前ではあるのだが――


 いつしか沈黙に包まれた防壁前の広場に、それを待っていたようにアマーリエが高らかに声をこだまさせた。


「天人族は伝承の彼方にその身を潜めた類稀なる種族! その天人族が再びこの地上に舞い降り、災厄に苦しむ我らがザヴジェルに手を差し伸べ、カラミタをその手で討伐してくれたのだ! さらに諸君も知っている、禁呪に使用されたラビリンスコアは何を隠そう彼らが提供してくれたもの! カラミタ討伐の功と併せ、まさにこの戦いの最大の立役者なのだ! 称えよ我らが恩人を! 称えよヤーヒム=シュナイドルを! 称えよザヴジェルの友、天人族を!」


 ヤーヒムからしてみれば正直なところこの場から逃げ出したいほどではあるのだが、翼を持った人系種族など前代未聞の種族。誰一人としてアマーリエの言葉を否定できる者はいないのだ。そして。


 始まりは小さな声だった。

 アマーリエの言葉が連なるにつれ、目の前にいる翼の男の種族と正体、功績が明らかにされるにつれて、徐々に徐々に兵士達の歓声が増えていく。恐れにも似た畏怖を初めに感じていただけに、その相手が頼れる味方だと知った反動は大きい。


 最後にアマーリエが天人族の名を謳い上げた時、それらは耳をつんざかんばかりの大歓声となって馬上のヤーヒムとダーシャを包み込んだ。砦にいる万を超えるザヴジェルの戦士たちが防壁の上から両手を振り上げ、声の限りに天人族とヤーヒムの名を叫んでいる。


 収まる気配を見せない、うねるような大歓声。

 見たこともない有翼の人族ではあったが、彼らの姫将軍と共に凱旋したその人物は、今回の戦いの最大の立役者だという。万を超える魔獣が押し寄せる未曾有の災厄を打ち払った勝利の興奮と喜び、その厳しい戦いに助力してくれた者への感謝の想い。


 その感謝と、そこに込められた歓迎の念がヤーヒムに伝わらないわけがない。

 天人族などアマーリエの大風呂敷に過ぎず、戸惑いも大きいが、歓声に込められた熱意は本物だ。


 忌み嫌われ石持て追われてきた彼にとって、このような大歓声をもって迎えられるなど、これまでヴァンパイアとして生きてきた長い歳月を振り返っても初めてのこと。惜しげもない大歓声が、馬上のヤーヒムとダーシャに向けられている。


 少しずつ融け始めてきたヤーヒムの凍った心が、ここに来てまた大きく揺さぶられていく。

 アマーリエが宣言した戦果自体は嘘ではない。それに対するこの大歓声を、少しは信じてみても良いのではないか。ダーシャを娘と思うようになってから求めてやまなかった安住の地、それをこのザヴジェルに期待しても良いのではないか。


 いつしか胸の奥に泣きたいほどに震える熱い何かが灯り、奥歯が強く噛みしめられる。


 ザヴジェル、種族にとらわれず本人の能力が評価される地――


 ヤーヒムは衝動のままにひらりと乗馬を飛び降り、美しく典雅な騎士礼を彼らに返した。

 それは古典床しい、けれど誰が見ても最大限の敬意が込められたもの。


 大歓声がぴたりと止み、兵達も一斉に敬礼を返してきた。

 ここにいるのは規律正しく、武名名高きザヴジェル辺境伯軍なのだ。騎士団に所属するものは己に許された最高の答礼を、そうでない一般の兵士は左胸を叩いて直立不動の姿勢を。


 大観衆の心がひとつになった一瞬の沈黙の中、ダーシャも馬から降りてヤーヒムの隣に並んだ。

 そして艶やかな黒絹の髪を微かに揺らして行われた、優美な乙女の立礼。まさしく夜の姫君のごときその佇まいと挙措に、今度は盛大な拍手と暖かい声援が一斉に降り注いだ。


 ヤーヒムがふと周囲を見回せば、仲間達が彼ら二人を見詰めている。


 誇らしげな紫水晶の瞳にじんわりと嬉し涙を浮かべたリーディア、言いたいことはあるがお前さん達にはそれだけの価値があると言わんばかりに頷いているフーゴ、騎士礼を取りつつ目にあたたかい光を浮かべているマクシム達騎士三人、そして――してやったりという顔で満足気に笑っているアマーリエ。


 やがてアマーリエが大観衆に向かって手を上げ、鳴りやまない歓呼の声を鎮めた。


「諸君らの感謝の念、それは確かに我が友、尊き天人族の親子に伝わった! これより我らは軍議に向かい、詳細な報告を行う。各自、持ち場に戻れ!」


 凛と宣言するアマーリエに従い、再び馬上の人となったヤーヒムとダーシャ。

 右にリーディアが、左にフーゴが馬身をぴたりと寄せ、言葉にできない想いを胸に城門へ向かって皆で駒を進めていく。


 そして、人の目が散らばったのを見計らったアマーリエが、まるで悪戯を大成功させた童女のような満面の笑みでヤーヒムを振り返った。


「――どうだ? これで二人は今日から天人族だぞ。人の血さえ飲まねば、能力も体質も何一つ隠さなくていい。何か言われたら翼を見せ、それが天人族だとうそぶいておけばいいのだ。その大いなる名に……くくっ……伝承の彼方にその身を潜めた、だったか。とにかくその天人族の名さえ出しておけばいい」


 振り向いたアマーリエの顔に浮かぶのは、会心の笑み。


 そう。

 彼女のたった数言のお膳立てにより、天人族という眉唾物ものの欺瞞が、多数の記憶に現実として刻み込まれた。これで少なくともここザヴジェルにおいて、ヤーヒムとダーシャはヴァンパイアという忌み名から解放されたと言っても過言ではない。


 二人がヴァンパイアという偏見で見られそうになれば、ヤーヒムが翼を出して「天人族を知らないのか」と言えばいいのだ。

 ヴァンパイアにはあり得ない翼、そして誰もが詳細を知らない天人族という種族。似ている点もあるがあくまで別種族、その証拠に翼を見ろ、と。


 ダーシャについても同様だ。

 二人は親子。年齢の関係で翼はないが、父さんの翼を見て、と言えばそれでいい。アマーリエが口にしたのはそういうことだ。


 ある意味において、アマーリエは天人族という新種族の概念を今の場で人系社会に打ち立てたに等しい。

 どの人系種族も持っていないはずの翼、ヤーヒムの背にそんな翼を見た瞬間に彼女の中で組み上げられた大芝居。突拍子もないが、鮮やかな手並みだった。


「そしてどうだヤーヒム? 見てのとおり、ザヴジェルに二人を歓迎する用意が出来たぞ」


 何の言葉も返せないでいるヤーヒムに、アマーリエが二度目となる真摯な瞳を向ける。

 それはかつてブルザーク大迷宮で声をかけた時と同じ、ヤーヒムにザヴジェルへ来いと真っ直ぐに誘う瞳だ。彼女はこの世界に行き場のないヤーヒムとダーシャにとって、実に得難き理解者でもあった。


「……感謝する」


 ヤーヒムに言えたのはそれだけだ。

 正直なところ、やはり戸惑いはある。天人族、それはこの場で作られた名前だけの欺瞞にすぎない。


 けれども。


 ヤーヒムが普通のヴァンパイアではないことは事実だ。

 普通のヴァンパイアのように人の血を啜るつもりはさらさらなく、その身に青の力を宿した新世代のヴァンパイアである。ダーシャもナイトウルフの姿を持つ特異な存在であり、そういった意味では――


 ……似合いの呼称、なのか。


 これから先、人を餌や物としか見ない既存の「ヴァンパイア」とは一線を画し、ダーシャと二人、名実ともに新たな種族となったつもりで生きて行ってもいいのかもしれない。辺境伯家長女、アマーリエ=ザヴジェル。彼女がこの一幕でそこまで道をつけてくれたのだ。


 ヤーヒムの目に宿る感謝と畏敬の想いは充分に伝わったのだろう。アマーリエは満足そうに頷くと、その美しい顔に再び挑発するような笑みをまとわせ、列の先頭へと戻っていく。


 兵士達の心をまずは手中に収め、彼女の視線は次なる標的――ザヴジェル領首脳陣――に向いている。その背に漂うのは強烈な指導力カリスマ。天性の知略で突撃する辺境の姫将軍に、敗北という過去はない。







 ……やっぱりこうなったか。


 彼らの後ろには、盛大に顔をしかめた<戦槌>騎士団長アレクセイ=ザヴジェルが、がっくりと肩を落として二千の騎兵の先頭に立っている。


 妹と共に難敵と戦ってくれたあの親子を疑うつもりは初めからなかった。

 それにシェダ家のすみれ姫やザヴジェル筆頭上級騎士、<鉄壁>のマクシムですら信頼している相手のようでもある。そして初めて青い閃光と共に空から舞い降りてきた時の、あの絶対的強者の威圧感。彼ら親子と同行している<暴れ馬>フーゴと一緒にザヴジェル領に引き入れられれば、この魔の森と接する厳しい辺境の地にとって、途轍もなく大きな益となるだろう。


 砦を見上げれば、未だお祭り騒ぎのような興奮に包まれているのが分かる。

 兵達が口々に語り合っているのは、もちろんアマーリエ達一行のことだ。こうなってしまえば、これから彼らがザヴジェルを救った英雄として大々的に迎え入れられていくのは確定事項だ。その功績は本当のことだし、けして悪いことではない。むしろそれで彼らがザヴジェルに帰属してくれるならば、それ以上の利益はない。だが――


 ……やり方が、派手すぎるだろ。


 確かに絶好のお披露目の機会ではあったが、いかんせん派手すぎるし急すぎる。この先しばらく大騒ぎになるのは確実だった。


 ……政治とか、苦手なんだよ。


 肩を落としつつ、陰で出来るだけ妹の手助けをしてやろうと溜息をつくアレクセイ。

 おそらくこのままでも、妹はどうにかしてしまうとは思う。けれど、ザヴジェルは大領だ。変化を嫌う勢力はいるし、見ず知らずの者をいきなり騎士団で急速に取り立てるのも角が立つ。


 ……やっぱり、俺も裏で手を回した方がいいよなあ。


 大きく開かれた砦の門に向かい、整然と帰還していく二千の<戦槌>騎士団の精鋭達。

 獰猛な守護魔獣を討ち果たすという戦果を上げた彼らの凱旋は、先の大歓声に比べるといささか静かなものとなったのだった。






―次話『神の翼(前)』―

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