07 迫り来る敵

 ラビリンス。

 それは世のことわりから外れた独自の世界。


 このハルバーチュ大陸には知られているだけで五十以上が存在し、その内部には様々な環境が確認されている。

 草原、森林、岩石地帯、洞窟、地下墳墓――驚くべきことに外界を模した環境には本物の空があり、昼夜があり、天候がある。


 一説によるとラビリンスはコアを核とする生物の巨大な「殻」であり、コアは己を守る為に魔獣群を召喚し続け、その魔獣の生態に合わせた環境を階層として殻を纏うように作っていくという。カタツムリが自分を守る為に渦巻き状の殻を作っていくようなものだ。


 その証拠にラビリンス内では魔獣同士は戦わず、侵入者に対してのみ攻撃を行う。

 時に執拗に、特に最奥を脅かす可能性のある異常な侵入者に対しては、それを排除するように。


 ――そう、驚くべき速度で深層をひた走るヤーヒムに、雲霞の如く魔獣が集中していくように。




  ◆  ◆  ◆




 ヤーヒムが六十二階層を走破したその翌日。

 ヤーヒムが走り抜けたまさに同じルートを、異様な構成の一団が足早に進んでいた。


「いやあエリアスの旦那も人使いが荒いぜ。戻ったらすぐに六十に跳べなんて」

「でも奴には近づいてるんだろ? これだけ乱殺してくれてりゃ追いかけるのも楽でいい。通った場所はすぐ判るし、何より寄ってくる筈の魔獣がもうみんな死んでる」


 二十人に及ぶ一団の先頭を行く二人の犬人族コボルトの傭兵が軽口を叩いている。確かにこのルートに乗ってから魔獣とのまともな戦闘は一度もなく、ただただ進めばいいだけの楽な仕事だった。


「うひゃあ、アレ見ろよ。ゴールデンオークが群れごとバッサリ殺られてるぜ。アレ置き去りにするって勿体ねえなあ、拾って帰ってもいいかな?」

「馬鹿言うな。後ろのお客さん達のお仕事が無事達成されりゃ二人で金貨二百枚だぞ? それにあのゴールデンオークは切り刻みすぎだ。毛皮なんて買い叩かれて幾らにもならん」

「違えねえ。エリアスの旦那に恩を売るためにも、きちんと先導のお仕事に集中しますかね。けど、ソロであれだけ刻んじまうってことは黒衣の剣士は噂以上に凄腕だぞ? こんな変な構成で本当に捕まえられるのかね?」


 そう言って振り返る二人。

 そう、先頭の二人こそ前衛の斥候を兼ねた軽戦士だが、後ろに続くのは全員が人相の悪い人族の魔法使いだった。魔法使いは本来前衛に守られつつ後方から強力な魔法を放つ役割であり、こうやってほぼ全員を魔法使いで揃える構成など通常はありえないものなのだ。


「……有名どころが揃ってるけどよ」


 魔法使い達から一斉に剣呑な視線を浴びた二人は、尻尾をぴったりと足の間に隠しつつそうっと前に向き直った。

 実際、彼ら二人が先導の依頼を受けた後ろの魔法使い達はある意味で有名な者ばかりだった。彼ら二人も裏社会に半分入りかけた「脛に傷ある」傭兵だったが、後ろの魔法使い達は揃いも揃って純然たる裏社会の構成員だった。ブシェクの野心溢れる新しき太守、裏社会を牛耳るエリアス=ナクラーダルが集めた彼らは、とある密命を帯びてこの大迷宮に潜っているのだ。


「余計な口を叩くな。万が一奴を見失いでもしたら……どうなるかは分かってるな」


 魔法使いのリーダー格の男が吐き捨てるように言った。男の名はゾルターン、<火炙り>の名で通っている指名手配犯で、新太守エリアス=ナクラーダルの闇の片腕と噂される銀眼のダークエルフだ。


「……それに、どんなに奴が接近戦で強かろうと我らの敵ではない。その為のこの人選だ。まあせいぜい楽しみにしておけ」


 ニヤリ、とその冷薄な口の端を歪めるゾルターン。

 彼とブシェクの新太守、エリアス=ナクラーダルの元には、バルトル家とペイシャ家が失脚した先日の大火の裏情報が全て入っていた。ペイシャ家と一緒に押し入って死亡したイヴァン=ナクラーダルはエリアスの息子なのだから当然といえば当然だ。


 王家とペイシャ家を唆し、邪魔なバルトル家を排除することには成功した。だが、荒れ事への才覚には絶対の信を置いていたイヴァンが呆気なく殺されてしまった。逃げかえってきた部下達から話を聞けば、絶滅した筈のヴァンパイアが現れたという。


 その第一報からどうにも臭かった。

 ありえないほどに効果が高いポーションがあり、その製造元を襲撃してみたら飛び出してきたヴァンパイアというありえない存在。懐柔済だった都市守備兵を捨て駒として捕縛に動かしてみたものの、煙の如く逃げられてしまった。


 その後強欲な貴族達をどうにかねじ伏せ、太守という権力に任せてバルトル家の焼け跡を極秘裏に調査させてみれば、非常に興味深い内容が転がり出てきた。


 悔やまれたのは件のヴァンパイアに逃げられてしまっていたこと。

 ポーションポーションと煩いユニオンには上手く情報を伏せつつ追跡の手を伸ばしてみれば、足元のラビリンスで妙な噂が出てきた。黒衣の剣士の噂だ。

 よくよくその噂を確かめてみると、剣士と言えども剣を持っている様子はなく、着ている黒いローブは大火の際に殺されたペイシャ家私兵のうちの魔法使いの装備品にそっくりだという。


 ――ビンゴ。 


 黒衣の剣士を捕まえれば全ては解決する。

 秘薬を得てナクラーダル家の力は増々高まり、バルトル家がしていたように煩いユニオンを犬のように従わせることもできる。


 もちろん王家を始めとした宮廷貴族達にも一切の情報は漏れていない筈だ。バルトル家の追い落としの為に協力は求めたが、奴らは充分過ぎるほどの見返りをせしめていった。これはこのブシェクの問題、この先の全てはナクラーダルとブシェクの裏社会の利益になるのだ。


 ヴァンパイアに対する調査は済ませ、有効な戦い方も把握した。

 万が一逃げられても、ブシェク市街には守備兵と子飼いの者達が二重の監視網を敷いている。

 後はラビリンス内で奴に追いつき、叩きのめして捕らえれば良いだけだ。


「……明日には追いつくぞ。奴はラビリンスの素人だ。お前達は自分の仕事だけを心配しとけ」

「へいへい旦那、分かってますって。じゃあちょっとこの楽なルートを外れて、まっすぐ次層へのショートカットをしますかね。少し難儀な場所を通りますけど、かなり向こうさんに迫れますって。それに<常昼の無限砂漠>も足止めしてくれるでしょうし。あははは」


 そんな言葉を残し、男達は藪の中へ分け入って姿を消したのだった。




  ◆  ◆  ◆




 ――思いのほか手強いな。


 ブルザーク大迷宮の深部、第六十三階層の終点でヤーヒムは苦笑いと共に宿営の準備を進めていた。

 この前の階層の後半あたりから、尋常ではない数の魔獣がヤーヒム目がけて押し寄せてくるようになっていたのだ。


 前の階層の最後ではゴールデンオークが軍隊かと思わんばかりに、そしてこの階層ではフォレストスパイダーが津波のように。


 フォレストスパイダーは仔牛ほどの大きさの蜘蛛の魔獣だ。

 通常は森に潜み、草むらや頭上の枝から強襲をかける習性を持っている。粘着性が高く強靭な糸を使って相手の動きを封じたり、強烈な劇毒を吹きかけたりもするが、一番厄介なのは八本もの脚を使った接近戦だ。単純な移動速度だけでなく、二本足生物には到底真似できない俊敏な方向転換、それに加えて自らの糸を利用しての空中機動――そんな魔獣が森を呑み込むような大群となって、次から次にヤーヒム目がけて襲いかかってきたのである。


 その大波を凌ぎ切るまでに、おそらく千匹以上は斃したのではないか。

 

 さしものヤーヒムも夜明けまでかかった激戦にその身体能力を限界まで酷使し、終わってからは貪るように何体ものフォレストスパイダーの血を啜った。幸いなことにその後の森は不気味なほど静かなもので、ひょっとしたらこの階層にいた全てのフォレストスパイダーが一気に押し寄せていたのかもしれない。


 そして見つけた次層への転移スフィア。

 曙光差し込む森の中に、それは何事もなかったかのように静かに青い光を放って浮かんでいた。


 階層が浅いうちは一日に何層も進んだものだったが、流石にここまで苦労して辿り着くと――この六十三階層は夜も休まずに丸々一日かかった――非常に感慨深いものがある。通常のハンターやディガーだとフォレストスパイダーの弱点である炎系魔法を多用しつつ、二日か三日かけて攻略する場所であるのだが、それはヤーヒムの与り知らぬこと。人系種族に石もて追われるヴァンパイアのヤーヒムは、苦笑いと共に転移スフィアに触れたのだった。



 ――が。



 次の第六十四階層を見て、ヤーヒムは再び転移してこの層に戻ってきた。

 向こうに転移するなり感じたのは押し寄せる熱気。次いで目に入ってきたのは果てしなく広がる砂の大海、昇って間もないのにじりじりと凶悪なまでに照りつける太陽、蜃気楼揺らめく地平線。……そして彼方の砂丘にゆっくりと潜りゆく巨大なサンドワーム。


 ――次の六十四階層は果ての見えない広大な灼熱の砂漠だったのだ。


 ヤーヒムはヴァンパイアだが、そこまで陽光に弱い訳ではない。

 五千年を超えるヴァンパイアの歴史、その中で能力が劣化した末端世代のヴァンパイアはそれを極端な弱点とする者が多いが、真祖直系の高位ヴァンパイアである彼は通常の陽光であれば殆ど影響はない。人間同様、ただ日焼けをするぐらいか。

 だが、先程の強すぎる陽光は流石に彼の身体を蝕もうとしていた。短時間だったら少し動きが鈍る程度で済むが、半日、一日ずっととなるとかなりのダメージが蓄積されてしまうだろう。


 そして、ちらりと見えた巨大なサンドワームを見て、嫌な予感と共につい先ほどまでの激戦が頭をよぎっていた。


 あの勢いでサンドワームの巨体が群がってきたら非常に厄介だ。ヤーヒムの爪では、十メートルを超える巨体に致命傷を与えるのは困難だろう。斬れる範囲は最大に爪を伸ばしてせいぜい二十センチ、サンドワームからしてみれば表皮一枚のダメージでしかない。


 このように相性の悪い相手には大迷宮をここまで来る間にそれなりに遭遇してきた。空からひたすらブレス攻撃をしてくるワイバーンしかり、斬れば斬るほど分裂する巨大スライムしかり。

 そんな時ヤーヒムが行ってきたのは単純なこと――相手をせずに圧倒的な身体能力に任せて階層を駆け抜けてきたのだ。ヤーヒムは別に全ての魔獣を殲滅するためにラビリンス入りしている訳ではないのだから、それで充分だったのだ。


 だが、次の六十四階層の問題は、急に自分に群がり出した魔獣の動向と、地平線すら蜃気楼ではっきりしない砂漠の広大さだ。身を隠す場所もなく、群がってくるであろう巨大なサンドワームを躱しながら、次層へのスフィアを探してひたすら駆け続けなくてはならない。しかも、少々強すぎる日差しを浴びながら。



 ――身体を休めつつ、夜を待つか。



 ヤーヒムは魔獣の気配がなく静謐な六十三階層に舞い戻り、少し離れた場所に慎重にその身を隠すのだった。





  ◆  ◆  ◆




「うわあ……もう言葉も出ねえ…………」

「これはさすがに異常だろ……」


 六十三階層の中央付近で、魔法使いの一団を引き連れた二人の犬人族の傭兵が青い顔をして立ち止まった。

 目の前の森を埋め尽くすのはブルザーク大迷宮の深部を代表する凶悪な魔獣、フォレストスパイダーの無数の死骸だ。地面に重なり、木々の枝に引っかかり――どれだけ激しい戦いが繰り広げられたのか想像もつかない。


 これだけのフォレストスパイダーを弱点である炎系魔法を一切使わずに斬撃だけで殺している点がまず信じられないし、そもそも奇襲を主とするフォレストスパイダーがこんなに集まっているなんて、見たことも聞いたこともなかった。


 二人の傭兵は自分達の理解の枠を凌駕する光景に慄き、何かとんでもない事態に足を踏み入れているという予感に身を震わせていた。今更ながら分かるのは、自分達が追いかけている存在の危険さと引き受けてはいけない仕事を引き受けてしまったという事実。蒼白な顔の裏側で、二人は激しく後悔をしていた。


「――ほう、さすがに高位のヴァンパイアというべきか」

「ラビリンスも焦っているのか。ここまで形振り構わずに魔獣を集めるとは、なんとも興味深いな」


 そんな二人の傭兵から離れたところでは、<火炙り>のゾルターンが傍らの魔法使いと低く落ち着いた声で話し合っていた。


「この死骸の具合を見るにだいぶ近いな。今頃は次層に入ったあたりか」

「次はいよいよ<常昼の無限砂漠>だ。さしもの奴も突破は無理だろう。何より、高位ヴァンパイアと言えどもあの太陽だ」

「ああ、かなり参ってるだろうな。エリアス様の期待どおり、次で奴を捕える」

「楽しみだな、クククク」


 裏社会の魔法使い達は不敵な笑みを浮かべると、動きの悪い傭兵二人組に声を掛けて先を急がせた。




  ◆  ◆  ◆




 ブルザーク大迷宮の六十三階層に広がる大森林に夕闇が近付く頃。

 ヤーヒムは身を隠していた木のほこらからそっと周囲に視線を走らせた。


 この待機時間の間に、時間を置いて二組の集団が近くを通ったのだ。


 初めの一組は、重装備の人族の戦士五人と一人のケンタウロスからなる六人組の傭兵パーティー。体感時間で正午前ぐらいのことだ。

 うち人族の五人はどこかの騎士団に連なる者かもしれない。豪華な、だが使い込まれた白銀鎧を着た女騎士を中心にした明らかに腕の立つ五人組。それを巨大なハルバードを持ったこれまた鎧姿のケンタウロスが先導している。周囲を十分に警戒しつつ、だが慣れた様子で着実にラビリンス深層の森を進んでいく。

 六十階層を超えてからはハンターもディガーもほとんど見かけていなかったが、あのパーティーなら更なる深層に挑戦するのも頷けた。


 それよりもその六人組の後、二時間ほど挟んだ昼下がりに通り過ぎた二組目の集団が問題だった。

 先頭の二人はよく見かけるコボルト種の傭兵だったが、後ろになんと二十人近くも人族の魔法使いが続いていた。これまで見かけたハンターやディガーは全て数人で前衛後衛のバランス良くパーティーを組んでおり、それを考えるとこの行列は明らかに異質だった。


 ばらばらに歩く魔法使い達は皆フードをかぶっていたので風貌は確かめられなかったものの、まとう雰囲気は熟練者のそれだった。特に中央にいた特徴的なエルフの血の匂いがする者。少なくともあれは要注意だ。

 次の砂漠の階層にいるサンドワームには確かに剣より魔法が有効かもしれないが、魔法使いという存在はそれだけでヤーヒムの警戒心をジクジクと刺激してくる。これまで遭遇した探索者達はヴァンパイアのヴァの字も口にしていなかったが、それは全く追手が追いかけてきていない、ということまでは意味していない。魔法使い中心の構成はかつてのヴァンパイア狩りを彷彿とさせるものであり、もしかすると、昼下がりに通過したあの集団の狩りの獲物はサンドワームではなく――



 ――とはいえ進むしかない、のだろうな。



 ヤーヒムは厳しい顔で息をひとつ吐き出した。

 安全を考えれば慎重を期すべきだ。最悪の事態を想定して彼らの目的が本当に自分だった場合、ここまでに大量の魔獣を屠っては放置してきたし、幾組かのディガーパーティーには己の姿を見せてすらいる。追跡の手掛かりとしては充分だろう。彼らの通過から数時間の時が経っている訳だが、この先は広大な砂漠の階層、果たしてこの時間差が吉と出るか凶と出るか。


 念のために彼らが帰還してくるまでこの場で待機するという手もあるが、これから第二第三の追手が到着して、ますます動きづらくなる可能性もある。いつまでもここに留まっていても未来はない。かといって戻る訳にもいかない。全てを躱して先に進むとしたら、今。


 ラビリンスの深層に潜れば潜るほどついてこれる者は減るし、それにせっかくラビリンスコアにここまで近付いているのだ。いずれこのラビリンスから出るにしても外にはもっと同種の危険が存在するのは自明の理であり、まずはここで早めにコアによる自身の強化を試しておきたい。何より次の階層は砂漠だ。夕暮れ時とはいえ、視界を遮るもののない明るく広大な砂漠は万が一の転移で逃げるのには最高の環境でもある。そして訪れるであろう夜の帳。


 よし。


 ヤーヒムは気持ちを引き締めると、日が完全に落ちつつあることを確認し、フードを深々とかぶって転移スフィアに忍び寄り、そして触れた。

 眩いほどの青光がスフィアから脹れ辺り、全てを包む。


 それはヤーヒムにとってもはやお馴染みとなった光景。視界が青く消散し、ヴァンパイアの短距離転移も似た一瞬の浮遊感がヤーヒムを唐突に遅い、そして。




  ◆  ◆  ◆




 ヤーヒムを包んだ転移の青い光が消えていく。

 万が一を考え即座に回避行動に移れるよう身構えていたヤーヒムは、途方もない違和感に晒されていた。


 ……夕闇になって、いない?


 六十三階層で日没を待って転移してきたのだ。それなのに。


 足元は前回同様に一面の砂なのだが、周囲は眩いばかりに明るく、凶暴な太陽が早くもローブをじりじりと熱してきている。


 思わず空を見上げると、そこは雲一つない青空。

 太陽は先ほど見たとは逆の方角に移動しているものの、依然として充分な高度を保っていた。


 ヤーヒムは知る由もないが、<常昼の無限砂漠>、そうディガー達に呼ばれるこのブルザーク大迷宮第六十四階層に夜が訪れることはない。夕方沈みかけた太陽は反転して再び昇っていき、昼と逆の軌道で空を戻っていく。一説によれば、この階層の魔獣であるサンドワームの為にラビリンスが常に灼熱の環境を維持しているのだとか。

 その過酷さと果てなき広大な砂漠が数多の迷宮採掘者――ディガー達の前に立ちはだかり、何十年もの間、この第六十四階層がブルザーク大迷宮の最深到達階層として君臨しているのだ。


 原因はどうであれ、現状は現状だ。

 太陽に全く沈む気配がないことを見てとると、ヤーヒムはいつでも戦闘に移れるよう重心を落としつつ、鷹のごとき眼光で周囲の砂丘群を見渡した。嫌な予感が彼の中で育ちつつある。


 そして。


「た、助けてくれええ!」


 案の定というべきか、砂丘の向こうから見覚えのある二つの人影が転がり出てきた。






―次話『砂漠の惨劇』―

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