06 潜伏と始動

 時は流れ。

 大陸屈指の迷宮都市、ブシェクで栄華を極めていた太守バルトル家が王に糾弾され、その屋敷が焼け跡となってから一ヶ月。


 そのバルトル家の当主は遂に行方が知れず、代わりに屋敷の燃え跡から三貴族家のひとつペイシャ家当主の亡骸が発見されるという、前代未聞の大騒動もようやく落ち着きを見せ始めていた。


 現在ブシェクの太守を務めるのは唯一残った三貴族家のナクラーダル家。大火の前後からその次男の姿が見られないことからナクラーダル家の騒動関与も噂されていたが、全ては多数の貴族が暗躍する権力抗争の深い闇の中である。

 表の歴史に唯一残るのは、大火と共にバルトル家とペイシャ家が次々に取り潰しになったという事実のみ。大陸屈指の大都市ブシェクで、今度はナクラーダル家の大いなる繁栄の時代が始まろうとしていた。




  ◆  ◆  ◆




 今日も今日とて雑多な人混みで賑わう迷宮ブシェクの一等地にある、ひと際目立つ建物。

 思い思いに武装した様々な種族の荒くれ者達がひっきりなしに出入りしているそこは、領主権力の枠外に位置するユニオンと呼ばれる巨大独立組織のブシェク支部である。


 ユニオンには、至るところに跋扈する危険な魔獣を専門に狩るハンターや、対人も含めた荒事全般を請け負う傭兵ウォリアー、ラビリンスの亜空間に潜って一攫千金の稀少魔鉱石を狙う命知らずの迷宮採掘者ディガーなどがこぞって所属している。

 ユニオンは元々は境界線が曖昧なその三者間で、ラビリンス内外の凶悪な魔獣の出現・生息情報を共有する緩やかな互助組織だった。が、その貴族権力に属しない潜在的な武力を王家に見出され、各貴族領主の専横を牽制する為に王から様々な優遇措置を受けてきた歴史を持っている。


 王国とすれば社会からはみ出しがちな荒くれ者達をユニオンという枠で優遇・保護して取り込み、目の届きにくい領地持ちの貴族達と張り合せることで利用している形である。逆にユニオン所属者から見れば、有事の際の兵役義務などはあるものの、王の権威である程度は領主という現地権力者の横暴から保護され、物資の売買税や人頭税などもかなりの割合で優遇されるというメリットの方が大きい。

 双方の利が噛み合って爆発的に所属者が増え、現在では各地の貴族領主も無視できない程の巨大有力組織となっているのだ。


 さて、そのユニオンのブシェク支部にある大きなホールでは。

 ブシェクが誇る巨大ラビリンス、その名もブルザーク大迷宮に潜ることを生業とする迷宮採掘者――ディガー達の間に、ひとつの噂が広まりをみせていた。


「おい、また黒衣の剣士がラビリンス深部で人助けしたらしいぜ」

「ああ今度はラディム達の<連撃の戦矛>だろ?」

「そうそう、六十階層の森林地帯で奴らがドジって決死のトンズラこいてる時に、後ろが静かになったと振り返れば煙のように奴が立ってたらしいぞ。で、その足元には三十を超えるラプトルの群れがこま切れになっていたとか」

「うおう、そいつは凄え。で、例によって礼も受け取らず、折角倒したラプトルも置き去りで、フードを取りもしないでまた煙のように姿を消したんだろ? くーっ、シビレるねえ」

「あたい買取所に持ち込まれたそのラプトル見たよ? あの怖いぐらいに冴えた切り口、背中に震えが走ったね」


 武装した様々な種族のハンターやディガーでごった返すユニオンホールに併設された待合所。

 そこで最近の一番の噂になっているのは、ここ一ヶ月でブルザーク大迷宮に彗星のごとく現れた一人の男の話だ。誰も知らない正体、利益を放棄し人助けする謎めいた行動、そして何よりその圧倒的な強さが荒くれ者達の心を鷲掴みにしているのだ。


「そういえば、六十階層と言えば辺境の姫将軍もそろそろその辺りじゃねえか? あのフーゴを雇ってここのラビリンスコアを狙ってるらしいが、そう上手くいくもんかね」

「無理無理、いくら他のラビリンスで実績があってもこのブルザーク大迷宮はそう簡単に攻略できないっての。姫将軍も婚期逃して焦ってんじゃねえの」


 武装した犬人族の一団から、ガハハ、と粗野な笑い声が上がりかけ――不自然な沈黙が取って代わった。


「……おい、あそこにいる騎士と小娘って姫将軍の連れだろ」

「……見たことあるな。餓鬼の方、元々闇奴隷だったのを姫将軍の仲間が保護したとかじゃなかったっけ」

「……馬鹿、声がでけえぞ。あの騎士は正真正銘、辺境ザヴジェル領の騎士様だ。お貴族様だぞ。今はなんでか街の守備兵たちが殺気立ってるし、余計な騒ぎを起こしてユニオンに面倒かけたくなかったら大人しくしてろって」


 一角だけ妙な静けさが広がったユニオンホールであったが、やがて波のように周囲の喧騒が押し寄せ、いつもの騒々しい光景に戻っていく。


 だが。


「――聞いたか? 例の化け物、今は六十階層にいるようだな。この間は四十七階層だったのに。追いつけるだろうか」

「随分と早いな。追わせるより一度呼び戻して直接六十階層に転移した方が良さそうだ。六十階層に跳べる経験者は手配できるか?」

「そのまま今の先導役が跳べる筈だ、問題ない。王都から犬どもが接近しているようだし、急がせた方がいいだろう」

「くく、そうは言っても<常昼の無限砂漠>がすぐに足止めしてくれるさ。ゾルターンさんなら簡単に捕まえられるだろ。早速報告を入れるとするか」


 ハンターを装った目つきの悪い人族三人組がホールの片隅でひそひそと囁き合い、そのまま姿を消したことは誰の記憶にも残らなかった。




  ◆  ◆  ◆




 そうやって様々な情報が行き交うユニオンのブシェク支部。その奥まった場所にある会議室では。


「――ではナクラーダル家の連中は未だブラディポーションの製法を掴めていない可能性が高い、と」

「それで新太守などと聞いて呆れるわ! おい、もちろん卸売停止への抗議は続けておるんだろうな?」

「は、職員を派手に日参させております。奴らのらりくらりと逃げ続けていますが、こちらとしても実際もう在庫も底が見えてますし」

「一ヶ月になるか。あれだけの騒ぎを引き起こしておいて、いい加減困らせてくれるわ」


 このブシェク支部を統べる人族の幹部達が、連日に渡る議論を繰り広げていた。


「一ヶ月は長すぎるだろう。アレはないと困るものだ。代替品も見つからんのか?」

「は、職員総出で必死になって探しておりますが、あそこまで効果の高いものはなかなか」

「だが、ないとこのブシェク支部の面子が立たんだろうが! もっと発破をかけろ!」


 現在のユニオンの主な役割は三つ。

 一つ目は、ハンターやディガーを中心とした所属者が必要とする、魔獣の分布やラビリンス内の各種情報を収集・交換する場を提供すること。


 二つ目は、戦闘にまつわる重要規制物資を日常的に必要とし、雑多な素材や資源を持ち帰る所属者に向けた、一元化した公正な共同売買窓口を運営すること。


 そう。

 ここまで連日会議が続いているのは、この「売買窓口」の販売に関連し、とある商品の仕入れが止まってしまったからである。


 それは脅威的な回復量を誇る、迷宮都市ブシェクオリジナル「奇跡のブラディポーション」。

 過去百年間に亘って歴代の太守であるバルトル家から直々に独占供給されていたその奇跡の秘薬は、小瓶一本金貨五十枚という驚きの高値を要求されてはいた。


 だが、やっかいな魔獣が多い巨大ラビリンスを抱えるユニオン・ブシェク支部にとって、時にそれは所属者の生命に直結する貴重な回復薬であり、時にそれは他支部や王侯貴族に対する絶対的な交渉カードであり、そして支部の幹部の懐を潤す裏の収入源でもあったのだ。


「そもそもナクラーダルは何様のつもりだ! ブラディポーションを出さない割にはラビリンス入場者への特別課税は続けているではないか! 入場一回一パーティー当たり金貨一枚だぞ? あれは歴代の太守がブラディポーションを供給しているが故の特別措置だった筈、厚顔にも程がある!」

「まあ落ち着けナダル。それよりも問題なのは、あの火事の晩からずっと、露骨に都市内の取締りを強化している事だろう。不審者狩りの名の下に次々と一人歩きのユニオン所属者を検挙し続けていると聞いているぞ」

「単純に考えれば、ブラディポーションの製法と共に姿を消したバルトルの女当主を追っているのだろうが……」


 上座に座る浅黒い男が、十人にも及ぶ出席者の中から、ナダルと呼ばれた小太りの男をちらりと見遣ってため息をついた。


「……検挙しているのは壮年の男ばかり、か。あの火事跡の調査から完全に締め出されたのが痛いな」

「支部長、ここは思い切って揺さぶりをかけてみてはどうでしょう? 正規の理由なく所属員に手を出しているのです。王の剣たるユニオンの力を削ごうとしている、とも言えませんか」

「ほう、召集か!? それはいい! あの新米太守に一度ガツンと思い知らせて――」

「落ち着けナダル、決めるのは私だ。しかし、召集か……」


 ユニオン所属者の緊急招集。

 それは、現在のユニオンの三つの役割のうちの最後のひとつであり、ユニオンが持つ伝家の宝刀である。


 所属者の情報共有、一元化した売買窓口の提供に続く三つ目のユニオンの役割は、有事の際に所属者を召集し、国王直属となる遊撃旅団を形成することなのだ。


 ユニオン所属者は各種優遇措置と引き換えに兵役の義務を負う。魔獣による大規模襲撃時など、王軍が到着するまで現地の国王直属戦力として初期対応を期待されているのだ。それは自分の住む街を守るという意識もあり、所属者達は納得し呼応率も高い。


 だが、その召集と指揮はユニオンの各支部が権限を持っている。そして暗黙の了解として、魔獣だけでなく国に仇なすもの――例えば、王家に仇なす貴族領主など――との戦いについても、彼らは王軍の先鋒としての役割を一任されているのだ。


 ユニオンのブシェク支部がナクラーダル家を叛意ありとして一軍を召集すれば、地方領主に過ぎないナクラーダルは当然無事では済まない。もちろん実際には事後になっても良いが王家の認可が必要となり、ユニオン側の暴走であればそれなりの罰則が生じる。


 だが、元々ユニオンは貴族領主の力を削ぐ為に王家の後押しを受けてきた組織である。既にナクラーダルとの関係は険悪になりつつあるし、王家の裁定がユニオン側に甘いのは過去の判例が証明している。

 太守が変わったこのタイミングで一度伝家の宝刀をちらつかせ、しっかり躾をすることは今後のブシェク支部の運営を考えても間違いとは言い切れない。


「……いや、まだ召集まではしないでいいだろう」


 少しだけ考え込んでいた浅黒い肌の支部長が、ニヤリと笑って身を乗り出した。


「そう。ブラディポーションについては王家も強い関心を示していてな、トゥマ・ルカ――<闇の手>の連中が大挙してこちらへ向かっているとの連絡を受けている」

「なっ、王家直属の隠密部隊がこのブシェクに!?」

「そうだ。王家としてもブラディポーションの製法は喉から手が出るほど欲しいのだろう。途轍もない金の卵だからな」


 思わせぶりに切られた言葉に、ごくり、と生唾を飲む出席者達。


「私としては、ナクラーダルは何らかの事情で製法を手に入れ損なったと見ている。未だ一本も売る気配がないところからそれはもう事実と言っていいだろう。そして、連中はあの太守簒奪劇からこっち、一人歩きの男を必死になって探し続けている。……もしかすると、それが製法を知る錬金術師なのではないかな?」

「おお! ならば我らユニオンが先にそいつを押さえられれば!」

「そういうことだナダル。幸い<闇の手>トゥマ・ルカという頼りになる面々もこちらに向かっている。ここは彼らに協力して、後々のブシェク支部の利権を確保すべきだと思うが、いかがだろうか。各位の協力を期待する」


 支部長の言葉に、会議室に勢揃いした幹部達が一斉に欲深い笑みを浮かべた。反論する者はいない。


 彼らが動員できるユニオンの所属者は数千人規模。情報を伏せつつ手配をかけても、獲物の身柄は早晩確保できるだろう。


 こうして、ブラディポーションの秘密を追う勢力がまたひとつ加わった。莫大な利権が絡むそれを、彼らが諦めることは決してない。




  ◆  ◆  ◆




 そんな遣り取りがあったその日の夕刻。

 大陸屈指のラビリンス、ブルザーク大迷宮の地下六十二階層をひとつの黒い影が駆け抜けていた。


 瞠目するほどの速さで生い茂る大樹を軽やかに躱していく、人間離れした反応速度と足運び。

 深々とかぶった黒いフードの下から垣間見えるのは、鋭く前方を注視するアイスブルーの瞳。


 その男の名はヤーヒム。

 最近は噂を聞くこともなくなった人系種族の捕食者、忌み嫌われる若きヴァンパイアだ。


 百余年に亘って地下に囚われていた彼が遂に脱出を果たし、その傷を癒すために濃厚な魔素が漂う大迷宮深部に忍び込んで一ヶ月。手当たり次第に強力な魔獣の生血を啜り続けたこともあり、脱出の際に追った左脚の魔法傷もすっかり癒えている。


 時おり遭遇するハンターやディガーからは基本的に姿を隠しているものの、魔獣に囲まれ死地にあるクランやパーティーを見つけた時には気まぐれで助けたりもしていた。深い意味はない。ただ、人間の血の匂いをそれ以上嗅ぎたくなかった、それだけのこと。


 ただ、どうやらヴァンパイアが出たという噂は彼らの中には広まっていない様子であり、それには僅かに首を傾げつつも安堵もしている。

 更に、ダーシャと思われる少女が由緒正しい騎士団に保護されているとの噂話をしていた者達もいたりなど、人間達を見かけるとこっそり様子を窺うようにもなっていた。


 そんなヤーヒムであったが、今はひとつの目標を得て動き出している。

 疾風の如き移動速度で目指しているのはこのブルザーク大迷宮の最深部。六十六階層とも九十九階層とも噂されるそこにはラビリンスの心臓コアがあり、傷が完全に癒えた今、それを手に入れてみることにしたのだ。


 ラビリンスコアは巨大な魔鉱石であり、ひとつあれば都市をまるまる運営できる程の動力源になるという。その他にも様々な使い道があるが、ヤーヒムはもちろん都市を運営したい訳ではない。



 ――ッ!



 疾駆するヤーヒムの前方、鬱蒼と茂る森の奥に複数の魔獣の気配が現れた。

 ちょうどいい。喉が渇いてきたころだ。

 ヤーヒムは獰猛な笑みを浮かべると、足を緩めぬままだらりと下げた両手の爪を伸ばした。飛ぶように獲物に迫っていく黒ローブ姿の彼の後ろに、五本二対の青白光の軌跡が伸びていって――



 ヤーヒムが目論んでいるのは己の強化だ。

 魔獣がラビリンスコアをその一部でも体内に取り込むと劇的に強さが跳ね上がるという。人間がそんなことをしても毒にしかならないが、最深部でラビリンスのコアを守るように立ちはだかるラビリンスの守護魔獣はそうやって強化された魔獣だというのが定説だ。

 そしてヴァンパイアは人ならざる闇の種族。ラドミーラとは別の真祖がその方法を取って強大な力を手にしたこともあったらしい。その昔、懐かしのラドミーラがそんなことをちらりと言っていたのを思い出したのだ。

 でもね、真祖と呼ばれるヴァンパイアは今はもう私だけなの――そう寂しげに微笑んでいたことの方が印象には残っていたのだが。


 今のヤーヒムにしてみれば真祖云々はさほど関係はなく、もう二度と囚われの身にならないことこそが重要だ。このラビリンスに入る前の僅かな時間ですらヤーヒムを捕らえようと追ってくる者はいた。ましてや一度捕えられた身である。鬼門である魔法使い達を含め、追ってくる者全てを軽くあしらえる境地まで早急に己を持ち上げないといけない。手っ取り早く強さを手に入れられる方法があるならば大歓迎なのだ。


 そうしてヤーヒムは傷が完全に癒えるなり怒涛の勢いで最下層目指して疾走を始めた。

 ちょうどラビリンスにいる今、かつて聞いたラビリンスコアの話を試してみるには絶好のタイミングだと閃いたからだ。


 そしてそれが終わったら、地上に出て他のヴァンパイアを探して回ろうと考えている。

 ヴァンパイアが絶滅したという言葉がずっと脳裏にこびりついて離れず、けれど、ヴァンパイアとて夜の覇者としてあれだけその力を謳歌していた種族である。そう簡単に滅ぶとはとても思えなかった。


 確かに魔法技術が爆発的に進歩したことによって、それまでの恐怖の反動か人系種族のヴァンパイア狩りにかける情熱は凄まじいものがあった。ヤーヒムが捕えられたのもその煽りを受けてのこと――そして、それから百年。


 当時ヤーヒムがラドミーラに連れられて訪れたコミュニティは幾つもあったし、徒党を組まずに独り人系社会に潜伏するヴァンパイアもいた。彼らの中には真祖でこそないものの、ヤーヒムと同等、真祖の直下世代にあたる高位ヴァンパイアだっていたのだ。

 ラドミーラとは別の真祖に連なる彼らは、ラドミーラに迫るほどの途方もない歳月を重ねていた。その彼らがそうそう簡単に狩られてしまうものだろうか。


 他のヴァンパイアを探し、会ってどうしたいのかははっきりと言葉にはなっていない。

 ラドミーラの消息を尋ねたいのか、それとも……呪われた種族とはいえ、自分と同じ者達の生存を確かめて安堵したいのか。


 だが、いつしかそれはヤーヒムの中で無視できない渇望として大きく頭をもたげ、危険を知りつつも挑戦するべき確固たる目標となっていた。その為には――


 まずは強くなることだ。

 片端から魔獣の血を喰らい、ラビリンスすら喰らっていく。何者にも邪魔されない強さを手に入れるのだ。



 ――ブビャアアアア!



 夕闇迫るブルザーク大迷宮六十二階層の大森林に魔獣の絶叫が響き渡る。

 ヤーヒムが低姿勢で疾風のように駆け抜けながら、一番手前にいた魔獣の腹をその光る爪で斬り裂いたのだ。


 ゴールデンオーク。

 熟練のハンターが犠牲を覚悟しつつ複数パーティーで挑む一攫千金の化け物だ。金色の毛皮は途轍もなく固く、生半可な武器は弾かれてしまう。


 そのゴールデンオークが稲妻のような青白い閃光になす術もなく次々と血煙をあげ、地響きと共に片端から倒れていく。

 そして、最後の一匹――



 ――最後の一匹は背後から首筋に牙を立てられ、その生命が尽きるまで生血を吸い尽くされたのであった。



 待っていろよ、ラビリンスコア。

 ヤーヒムの脳裏では、自分への包囲網が絞られつつあることはもちろん、このブルザーク大迷宮の最深到達記録が第六十四階層止まりであることですら、輝く爪の先ほども意識されていなかった。






―次話『迫り来る敵』―

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