03 地上へ

 ヤーヒムが階段を昇りきると、そこは厚手の扉で閉ざされていた。

 その向こうからは焼ける匂いが漏れ出てきており、魔法らしき爆発音こそ止んでいるものの、幾人かの怒声と鉄がぶつかり合う剣戟音が聞こえてくる。


 先に様子見に来たはずのダーシャから話を聞いておくべきだったと思いつつ、ヤーヒムはまず、扉に耳を押し付けた。


 仄かに熱されている。

 そして物音から分かるのは、この先で戦っているのはせいぜい数人。激しい戦いは別の場所に移りつつあるようだ。


 好機かもしれない。

 だが――ヤーヒムはゆっくりと息を吸い込み、己の身体に意識を巡らせた。


 百余年に亘った囚われの生活でひどく力を失っている。力を全開にして戦えるのはおそらく数十秒というところか。それでも大抵の者に遅れを取る事はないだろうが、やはり根本的に血が足りていないことは否めない。


 覚悟を決め、ゆっくり扉を引き開けていく。

 途端に流れ込む火事場特有の強烈な臭いと熱気。目の前の暗く短い廊下の先は明るい広間になっていて、濃淡にむらのある煙が右から左に流れている。戦いの音はその奥、ヴァンパイアの鋭敏な感覚によれば三人といったところ。


 ……いや、二人に減った。


 重い鉄が肉を切り裂く音と共にくぐもるような断末魔が上がり、一人がどさりと床に倒れた。生き残った者達の高笑いが響く。


「糞が! ペイシャの犬がしつこく邪魔しやがって! おい、俺達も早く本館に行ってお宝をぶんどるぞ!」

「おう、とっととイヴァン様に追いついちまおう。この離れには何もねえ。本館に行きゃ天下のバルトル家だ、きっと凄えのがゴロゴロしてんぞ!」


 ギャハハ、と粗野な笑い声を上げながら二つの足音が右奥に遠ざかっていく。


 ヤーヒムは静かに息を吸い込み、扉から音もなく廊下へと滑り出た。そして広間の入口へと進み、慎重に様子を窺う。


 豪奢であったであろう広間の空間は無残に荒らされ、焦げて破壊された家具がぶすぶすと煙を上げている。広間の右奥には開け放たれた大扉があり、その向こうから聞こえる悲鳴と喚声が未だに闘争が続いていることを物語っている。


 感覚を研ぎ澄まして様子を窺うヤーヒムを何より刺激するのは、この場に立ち込めた濃厚で粘りつくような死者の血の匂い。


 すぐ左の目の前にはメイドの服装をした人族の女が二人、折り重なるように血溜まりに倒れ伏している。恐怖に歪んだまま固定された瞳が空間を虚ろに睨み、既に事切れているのは確実だ。

 さらに、広間に散乱する家具の陰からも幾つもの死体が見え隠れしている。ほとんどは派手で見た目だけの装備を身に着けた兵士達だが、中には雑多な種族の傭兵や黒ローブの魔法使いも入り混じり、更には金属鎧に身を固めた屈強な正規兵らしき死体も転がっている。奥で今まさに床に血溜まりを広げている黒ローブ姿のエルフは、最後に聞いた断末魔の主かもしれない。


 百年前はエルフなどそれなりに稀少な種族だった筈が、どうなっているのか。

 たまたま混じっていただけなのか、エルフを雇えるだけの勢力が絡んでいるのか。


 とりあえずは派手な装備の兵士達がこの屋敷の守備兵で、他の者達が多人数で突然襲撃してきたように見えなくもない。ともかくこの場に生存者はおらず、物言わぬ死者の濃厚な血の匂いがヤーヒムを甘く強く誘惑してきているだけだ。


 …………。


 ヤーヒムは吸い込まれるように二人の女の亡骸を見詰めた。

 通常のヴァンパイアにとって生命を失った死者の血は苦く、余程の非常時でないと手を出さない代物である。その上ヤーヒムはヴァンパイアには珍しく、人の血に忌避感を持っている。


 自らの意志で人の血を飲んだことなど後にも先にも一度きり。

 それ以来、決して飲まぬと誓っていたのだ。囚われの間は無理やり奴隷少女の血を飲まされていたが、それももう終わり。再び獣の生血で生きる、そう決めたばかりなのに。


 衰弱して根本的に血が足りていない今のヤーヒムにとって、目の前の若いメイドの亡骸はとてつもない吸引力を持って彼をいざなってくる代物だった。強烈な飢餓と欲望が、おいでおいでと執拗にヤーヒムの視線と思考を惹きつけてやまないのだ。


 人族の血は甘い。

 例えそれが死人のものであろうと、獣などとは比べ物にならないぐらいヴァンパイアを虜にし、強大な力をもたらす。


 豊満な体をした左のメイドは処女ではなく、未だ年若いくせに男の臭いが爛れる程に混じっている。

 右の幼い身体つきのメイドも同様。主が主だからだろうか、この屋敷の退廃ぶりが伺い知れるというもの。だが、牙を突き立てるなら右の方はそれでも充分に美味そうで――



 ――駄目だ。



 ヤーヒムは頭を振って血の誘惑を振り払った。

 人の血云々以前に、ここで悠長に過ごしている時間などない。

 争いの場が移り、人目のない今こそがここをひっそり逃げ出す絶好のチャンスなのだ。


 ヤーヒムは素早く広間の中へ滑り込むと、一番損傷が少なそうな黒ローブをエルフの死体から剥ぎ取った。少々血の匂いが強いが、しっかりした作りで顔を隠すフードもついている。上等だ――新鮮な血の匂いを務めて無視し、手早くその身に纏う。これで少しは人の中に紛れることができるだろう。


 だが。


 ヤーヒムは背後の扉とその奥にある地下牢へ続く階段をチラリと振り返った。


 ダーシャ。

 地下に置き去りにしてきた忌み子の少女。


 この屋敷の混乱は予想以上に大ごとだ。争っている人数も、火事になっている屋敷の規模も、どこかの正規兵を思わせる豪奢な金属鎧の兵士の死体があることも、この場限りで鎮静するような事態ではないことを暗示している。せめてあの少女を安全なところまで連れて行った上で逃がすべきではないだろうか。


 あの少女だけでこの修羅場を抜け出させるのはやや分の悪い賭けだし、遠くない未来にはこの屋敷の主人の死体が発見されるのだ。首輪を外した忌み子の奴隷少女にとって、それは最悪の展開だろう。


 けれど、ヤーヒムが連れて逃げるのも非常な危険を伴う。


 一緒にいるところを万が一にも目撃されると、最悪の場合あの忌み子の少女がヴァンパイアの眷属と見做されてしまう。囚われていた百年の間に世相がどう変わっているかは分からないが、少女がヤーヒムに見せた恐怖の表情が真実の一端を物語っている――つまり、ヴァンパイアは相変わらず忌避の対象であり、眷属と見做された少女が捕まれば問答無用でなぶり殺しにされるということだ。


 眷属など滅多にいるものではなく、高位のヴァンパイア以外に簡単に創れるものでもないのだが、人はそんなことは知らない。血を飲まれただけでヴァンパイアになるという俗説を信じる者は流石に昔からいなかったが、ヴァンパイアの仲間と思われた瞬間に少女はあっけなく血祭りに上げられてしまうだろう。


 そして何より、もし首尾よく目撃されずに逃げ出せたとしても。


 衰弱した今のヤーヒムにとって、生きたあの穢れなき少女に流れる、この上なく甘美であろう血は危険すぎた。連れて逃げようにもいつ何時理性が崩壊して、あの華奢な首に野獣のように牙を突き立て貪ってしまうか分かったものではない。

 そう、死者の血にすら誘惑される今の自分が、時と共に強くなっていく飢餓に打ち克てるとはとても思えないのだ。



 ――ならば。



 せめて派手に暴れて、あの少女が確実に逃げれるよう時間と隙を作ってみせよう。


 それは同時に――ヤーヒムの顔に凄絶な笑みが浮かぶ。


 長きに亘ってその胸の奥底に閉じ込め続けてきた憤怒の炎が、自由を得た身体の中でゆっくりと音を立てて渦巻き始めている。

 そう、百年もの間自分を閉じ込めてきたこの因縁深き悪業の館を思うさま破壊し、ささやかな復讐の添え物にしてやればいい。


 解放された積年の怒りが吐息を熱く震わせる。

 この激情を余すことなく晴らし、同時にダーシャの逃亡を手助けする。その為には――


 ヤーヒムは音もなく窓に忍び寄り、この規模の屋敷なら存在するであろう筈のとある建物を求め、炎に照らされる庭園に鋭く視線を走らせた。




  ◆  ◆  ◆




 迷宮都市ブシェクの太守、バルトル家の大屋敷。

 繁栄を極めた豪奢な屋敷は今、当主行方不明のまま略奪の炎に包まれていた。


 その庭園の外れにある厩舎の中。

 そこかしこに馬の死骸が散乱する血生臭い馬房の片隅で、一人の黒髪のヴァンパイアが力なくもがく最後の生き馬の血を啜っていた。


 ごくごくと喉を鳴らすたび、透明度の高いアイスブルーだった瞳が赤く濁り、紅玉ルビーの色彩に変わっていく。

 それは純血の高位ヴァンパイアたる証。

 若さゆえに吸血の総量が少なく、瞳に紅玉の色彩を纏うのは生血を啜った直後のみであるが、その色彩は極めて深く精緻であった。


 彼の名はヤーヒム。

 五千年を生きる真祖ラドミーラの直系ヴァンパイアだ。

 人の血を啜ることを自らに固く禁じたこの異端の存在ヴァンパイアは、己の力を取り戻す手っ取り早い手段として、貴族の屋敷で必ず飼われている馬車や騎乗用の馬の血を狙ったのだ。


 ――と、ヤーヒムがその鋭くも優美に整った闇の種族ならではの怜悧な顔を微かに歪め、それまで血を啜っていた馬の死体から長く伸びた牙を乱雑に引き抜いた。


 馬が遂に息絶えたのだ。

 血は所有者が生きているが故に貴く、力に満ち溢れている。血を啜る相手の息が途絶えた瞬間にその血は死者の血となり、途方もない苦味を生じると同時に内包する力が激減する。

 通常であれば息絶える直前に血を啜るのを止めるのがヴァンパイアたるものの基本作法なのだが、ヤーヒムは飢えきっていた。厩舎にいた十頭余りの良馬の血を飲み干し、最後の一頭のギリギリまでその生血を取り込んだのだ。


 ヤーヒムは血塗れの口元を手の甲で拭い、ゆっくりと立ち上がった。


 最後のひと口の後味が舌を責め苛んでいるが、力は三割がた戻った。左手の甲と同化した不滅の紅玉が妖しい輝きを放ち始めている。この状況でこれ以上を望むのは余計というものだろう。


 それに、少し前にかなりの人数が屋敷から整然と引き揚げていった。馬房の隅から覗いたところ、純粋な人族で揃えられた金属鎧の正規兵の軍団だった。思わず目を瞠ったヤーヒムの眼前、馬房の外を横切っていった兵の数は少なくとも三百は優に超えていただろう。屋敷の主要人物と思われる捕虜を数珠つなぎに引き連れ、何十もの荷車に略奪品を満載して悠然と隊列を組んで去っていったのだ。


 その後は未だに屋敷でしつこく略奪している声が聞こえるものの、数はそれほど多くなく、その動きに組織立ったものは感じられない。残っているのはおそらく別系統、統制の取れていない雑多な種族の掠奪者達。正規の軍隊という一番厄介な相手はもういないと見ていい。


 ダーシャの動きも気になるところだ。まだ地下牢から出てきていないようだが、いつ出てきてもおかしくはない。あの少女を安全に逃がし、己の復讐の狼煙を上げるにはもってこいのタイミングだ。


 ……最低限の力は戻った。あとは怒りのままに暴れるだけ。


 ヤーヒムは素早く厩舎から出ると、未だ悲鳴と喚声と魔法の爆発音が続く本邸へと駆けた。

 二階建ての巨大なそれはいくつもの窓から激しく炎を噴き出しつつあり、火の回りはかなり早いようだ。


 疾風のように駆けながら、ヤーヒムは先ほど自分が出てきた地下牢がある離れにチラリと目を遣る。

 本邸とは渡り廊下で繋がっているが、離れに再び争いの場が戻った気配はない。窓から覗く小さな人影は――あのぼさぼさの髪、ダーシャか!


 言いつけを守って逃げようとしているようだ。

 炎に照らされた庭園にも人影はなく、逃げ落ちるならまさに今。


 ヤーヒムは庭園の中央で足を止め、ダーシャに向かって大きく腕を振り、軍勢の撤退に伴い開け放ったままであろう無人の門を指差した。

 その向こうには無限の夜が広がっている。これだけの騒ぎに野次馬の気配すらないのは不自然かもしれないが、あの三百を超える軍勢が通過していったのだ。おそらく権力者同士の争いのとばっちりを恐れて見て見ぬふりをされているのだろう。ならばまさに好機。


 行け!

 今なら逃げれる!

 手振りで伝えるヤーヒムに、窓の向こうの小さな人影は戸惑いながらも頷いてくれたようだ。窓からふっと姿が消える。


 と、その時。

 燃え盛る本邸から次々に人が歩み出てきた。

 先頭に立つのはたてがみのような赤い髪をした偉丈夫。続いて傭兵風の男達が手に手に何かを抱え、大笑いをしながら正面玄関から出てくる。


 ――間が悪い!


 あれはきっと残りの襲撃者達だ。

 豹人族、蛇人族、虎人族……雑多な種族の寄せ集めの彼らが手にしているのは、ほぼ間違いなく略奪した財貨なのだろう。

 最後まで欲張ってようやく撤収してきたのかもしれないが、このままだとダーシャと鉢合わせしてしまう。


 ヤーヒムは即座に意を決し、互いが抱えた財貨を指差し下卑た笑い声を上げている一団目がけて音もなく疾駆した。


 人の血は飲まない。それはヤーヒムにとって誓いを破る大罪である。

 だが、人を殺すことに躊躇いはない。人だって互いに殺し合っている。そこに何の違いがあるのか。


 今この場で大切なのは、この野卑な略奪者達の目がダーシャに向きそうになっていることだ。ただでさえダーシャは忌み子だ。下手に放置しておけば、殺されるか捕らえられて慰み者にされるか――


 そんなことはさせない。

 ヤーヒムの両手の爪が一気に伸びる。

 五本二対の青白い閃光が、下品に笑う傭兵達の間を稲妻のように走り抜けた。一拍置いて響き渡る幾人もの絶叫。


 両手を大きく広げたヤーヒムが漆黒の髪を翻し、駆け抜けざま手当たり次第に雑多な種族の傭兵達の体を斬り裂いていったのだ。


 安全地帯に出て高笑いしていた傭兵集団の人垣が真ッ二つに割れる。

 人垣の中央で地に崩れ落ちるのは、体を細切れにされて即死した者、突然斬り落とされた手足を抱えて泣き叫ぶ者、腹を押さえてのた打ち回る者――まさに阿鼻叫喚の大騒ぎだ。


「なッ! てめえ何しやがるッ」


 先頭に立っていた赤髪の偉丈夫が、駆け抜けたヤーヒムを認めて叫んだ。

 純粋な人族には珍しい獣のような反射神経というべきか、咄嗟に手にしていた剣を犠牲にして初撃から逃れたらしい。だが、それで許すヤーヒムではない。未だ紅く輝く瞳で男を見返すと、両手の爪を輝かせたまま、目にも止まらぬ速さで傭兵の集団へ再度の突入を敢行した。


「うおッ何――ぎゃあああ!」

「いったい何が――あああ俺の腕があああ!」

「何だ! 何が起きぐぼォ」


 大混乱に陥った傭兵集団の中、ヤーヒムが光る爪を振るう度に血飛沫と絶叫が迸る。棒立ちの豹人族傭兵の脇をすり抜けざまに一閃、返す腕でその先にいる三人をまとめて切り裂き、逆の腕で背後の蛇人族傭兵の首を貫く。


「ばばば、化け物だあ!」

「来るな、こっち来るな――ぐあっ」

「だ、だ、誰か助け――」


 ヤーヒムは一瞬たりとも止まらない。

 動くほどに立ち込める濃厚な人族の血の匂い。甘美にして背徳的、官能を刺激する蠱惑の匂いだ。爪を走らせる度に浴びる返り血、立ち込める血煙、いや増す興奮。

 紅玉の瞳が赤暗い燐光を放ち始め、突如として視界に飛び込んできた美味そうな男の首元に牙を――



 ――駄目だ!



 ヤーヒムは今まさに血を啜ろうとしていた男の体を思いっきり投げ飛ばした。赤髪の首があり得ない角度に曲がったその男の体が、巻き添えになった数人の傭兵を薙ぎ倒して弾け飛んでいく。


 何をやっている!

 ヤーヒムは動揺を振り払うように大きく跳躍し、いったん傭兵の輪から離脱をした。


 まさか、血に酔ったか?

 自分からは二度と飲むまいと誓った人の血を、興奮のまま貪ろうとしていたなんて。

 いくら久しぶりの戦闘とはいえ、あれしきで我を忘れて暴走するなど――



「ヴァ、ヴァ、ヴァンパイアだあああ!」



 犬人族の傭兵が魂を消し飛ばさんばかりに叫んだ。

 尻尾を丸め後ずさるその男の目は、距離を取ったヤーヒムの姿を――赤い燐光を放つ紅玉の瞳と長々と伸びた牙、そして蒼く光る両手の爪を愕然と凝視している。


「ななななんでこ、こんな化け物がこのブシェクに」

「あのイヴァン様がボロ切れみたいに――お、俺たちに、か、かなう訳ないだろ」

「逃げろ! 殺される!」

「ヴァンパイアだ! 逃げろぉ!」


 跳躍後の着地から振り返っただけのヤーヒムの前から、生き残っていた傭兵達が我先に逃げ出していく。どうやら先ほど投げ飛ばした赤髪の男――初めの斬撃を躱した偉丈夫――はこの傭兵達のまとめ役だったようだ。


 逃がしてなるものか――ヤーヒムが追いすがろうとしたその視線の先で、ひと足先に開け放たれた門の外へと消える小さな影が目に入った。



 ダーシャ……無事に逃げたか。



 ヤーヒムは忌み子の少女の後に続く形になっている傭兵達に視線を戻し、一瞬の逡巡の後、彼女に追いつきそうな勢いのある者だけ念のために足を傷つけておくことにした。この傭兵達にまともな思考力は既にない。せいぜいダーシャの後ろで街に混乱を撒き散らしてくれればそれでいい。


 ――さて、と。


 逃げ惑う傭兵達を軽くあしらったヤーヒムは、開け放たれたままの門の手前で振り返った。

 憎き悪業の館は今や完全に猛火に包まれている。庭園に残された傭兵達は死んでいるか苦痛にもがいており、このまま放っておけば全てが焼け落ちるのも時間の問題だろう。


 ダーシャも無事に逃げ出したことだし、そろそろ自分も退散するべきだろうか。まだまだ暴れるつもりだったが、あの少女を追いかけて遠くからこっそり見守ってやってもいい――



 そんな事を考えていた、その時に。



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