第7話 オズと案山子6
私は壁を注意深く見て、触ってみる。綺麗な肌触りのいい高級な壁紙は、確かに昔私の生家で使われていたものに違いがなかった。壁に手をつきつつ、最初の額縁の場所まで歩みを進める。最初の額縁の中に収められていたのは、子供の描いたぐしゃぐしゃの設計図だった。何とも懐かしいものだった。これは、私が子供のころに書いたものだ。これは、私が最初に考えた魔術回路の時計だ。
懐かしいな。そういえば、今でこそ世界で一番無駄な発明品だと馬鹿にされている魔術回路式の時計だが、開発されたの自体が私が子供のころ。その当時は魔法のブレイクスルーをたたえる偉大な発明品であるとされ、それはそれは憧れたものだ。この設計図。いや、設計図とさえ言えないような、子供の落書きには、そんな最新の魔法道具に対する憧れが詰まっていた。残念ながら、燃費が悪いという問題点は私が子供のころからずっと変わらず、私が実際に魔術回路の時計を手に入れたのまともに魔法を使えるようになってからだったわけだが。
少し名残惜しかったが私は、その額縁の元を離れ、反対側の額縁を見てみることにした。反対側には、もう少し成長した私が描いた新たな設計図が飾られていた。もしやと思い、通路を少し進んだところにある額縁を確認してみる。すると、両側とももう少し成長した私が描いた設計図があった。このころはおそらく、貴族の三男坊として魔法学園に送り込まれ、初等教育を受けていたころだろうか。好きこそもののというように、初等教育を受けだしたばかりの子供が描くにしてはずいぶんとまとまっており、自分のことながら、かなり合理的でまともな設計図となっている。
私は、なんだか楽しくなり、次に、次にと額縁を見ていく。懐かしいものばかりで、当時の思い出も手伝って私は気が付けば少年のようにキラキラとした目をしつつ設計図を見ていた。この時はあんなことがあった。優秀な友人と出会い、新たな構成について議論した。この時はまた別の魔術にはまって、そのシステムを流用しようとしていた。無駄に飾り付けにこだわった時期もあったっけ。あの日々は、すべてが、充実していたように感じる。そして私は、あっという間に最後の額縁にたどり着いた。最後というのは少し寂しいが、最後の額縁に入っているのはどんな設計図なのだろうか。実は私自身すっかりと忘れてしまっていて、見るのが楽しみでならない。僅かな寂しさは、興奮の波に押しのけられ、勢いよくぐっとのぞき込む。
瞬間、空間の温度は一気に下がり、私は表情を失った。
そこにあったのは、私が今この左手に持っている時計にそっくりな設計図だった。確かによく似ているがこれは違う。これは、私が学院を去る際、最後に作った時計の設計図だ。今までの設計図は描いた当時の美しい状態のまま保存されていたというのに、なぜだかこれは、この設計図だけは虫食いにやられ、そして、忌むべき、忘れがたい、焦げ跡があった。
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