第5話 オズと案山子4

…なんだ。」

「いえいえ、何もございませんよ。」

 そう言いつつもなんだか、楽し気に、呆れたように、私の行動を、隣で横になっているスケアが見つめている。私はなぜだか無性に枕の下に今日もらったお気に入りの時計を強いて眠ってみたくなったため、実行に移していたのだ。時計を見ると時刻は深夜12時。食事をしてから読書とちょっとした工作を行い気が付けば、もうすっかりと遅くなっていた。

「早く眠るぞ。もう遅い。」

「はい。ご主人様。」

 私は頭を枕に任せ、仰向けになった。そこにスケアが右側から覆いかぶさるように抱き着き、あまり上質とは言えない薄っぺらい毛布を私と自身の上から掛ける。人肌は柔らかく温かい。冬が深まり、夜や早朝はずいぶん冷え込むようになった。お互いを熱源として利用しあうことで我々は寒さをしのいでいる。もっと上質な寝具があれば、何とでもなるのだろうが、残念なことに我が家にはあまり余裕はない。あるものですむなら、それで賄う。我ながらさもしい限りだが、しっかりと体にしみこんだ貧乏人根性のなせる業だ。

 体を横たえると日中の疲れもあってかすぐに強い眠気が襲ってくる。しかし、体にかすかな違和感を覚える。少し首元が苦しい。どうやらスケアが普段よりぐっと強く服を握っているようだ。

「スケア。苦しいんだが。」

「あ、すいません。」

 そういうとスケアが手を緩める。胸周りの違和感は多少ましになった。しかしまだすっきりしない。しょうがない。

「あ。」

 私はスケアの腰にぐっと手を回し、抱き寄せる。スケアは喘ぐようなかすかな声を出し、しかしこちらにすべてを任せてなされるがままという体だ。

「寒いならそういえばいい。」

「ふふ、ありがとうございます。」

 スケアは今度はいつも通り、優しく私の胸に重ねられる。しかし、いつもより甘えた様子でこちらの胸の上に頭を預ける。

「ご主人様。」

「なんだ。」

「いい夢をご覧になってくださいね。」

 そういうと、スケアは少し寂しそうに笑いながら、お休みなさいといった。

 いつもと違うスケアの様子に少々後ろ髪を引かれる思いだ。まだ少し、胸につっかえる。とはいえ、スケアも早々に寝息を立てているし、こちらももう限界だ。意識の手綱は手放した。まあ、明日にしよう。

 しばらく後、静寂の中、部屋には二人の小さな寝息と二つの時計のかすかな音だけが聞こえていた。

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