第16話 輪廻の儀

 魔王の内の一人が、龍槍ベルゼでタケルを突こうとしてきた。間一髪で、避ける。

 しかし回避するのを見越していたように、他の魔王が手に持っていた村長の形見で攻撃してきた。


 危ない。もし武器が村長の形見でなければ大ダメージを負っていただろう。


 無理に周回特典を使わなくても良いのに・・・・・・とか思いながらも、タケルは多人数との激戦に息を切らせていた。


「見事な連携だな・・・・・・これが、お前の言っていた準備ってやつか・・・・・・」


 タケルが呟くと、腕のなくなったいつもの魔王が静かに笑った。


「まぁな。俺の見てきたお前の戦い方を参考に、俺以外の全ての魔王が修行をしてきた。一周目の魔王である俺はステータスが最も低いから戦いの道を捨て、本来の魔王の役目に徹した」


 だからこの魔王は、タケルと同じく自分も周回するのだと嘘をつき、ずっと魔王の役目を負っていたのか。


 勇者をひたすら待っては倒されるという最も辛い仕事を、自分が弱いことを自覚した上で引き受ける。

 本当に、どこまでも用意周到だ。


 魔王達の猛攻をかいくぐりながら、タケルは好奇心に負けて質問を続ける。


「お前が世界を周回するのが嘘だというのであれば、お前らは一体、どうやって俺に着いてきたんだ・・・・・・?」


 結局、これが一番謎だった。


 一周目の魔王が一番弱いと言うことは、つまり他の人達と同じく、世界が変わる度にステータスの底上げが行われる普通の存在だと言うことだ。

 それがいかにして他の世界に飛んできたというのだろうか。


「本当に、鈍いな。まだ気がついていないのか」

「なんだと・・・・・・?」


 タケルを侮蔑するようないつもの魔王の笑いに、タケルが眉をひそめた。


「なんでどの世界でも、レイナが魔王城に現れると思う? 何故、周回特典でもないのに毎回レイナがついてこられるのだと思う・・・・・・?」

「ま、まさか・・・・・・!」


 勢いで叫んでみたが、未だによく分からない。

 タケルは首を傾げた。


「分かってねぇのかよ! 要するに、全ての魔王がその世界のレイナの中に隠れて、魔王の魔法で周回についてきたってことだよ!」

「なんだって・・・・・・!」


 要はレイナが戦犯だったってことか! と叫びそうになってから、やっとタケルは、聖堂に転がっていた百人以上のレイナに気がついた。

 背景にしか見えていなかった・・・・・・。


「俺はただ、簡単にはやられるまいとレイナの体内に逃げ込んだだけだった。そしたらいきなり結婚式場に飛ぶわ違う世界に飛ばされるわで、驚いたよ・・・・・・。だが、同時に分かったこともある」


 魔王が諦めたような表情で、天を仰いだ。


「お前は、女神に・・・・・・運命に愛されていたのだと」


 両腕のない魔王が、何故か赤く発光していく。


「日常を嫌っていながら何をするでもなく好機を待ち。それで本当に好機が訪れる」


 魔王は愚痴を続けた。タケルと魔王は愚痴を言い合う関係だったが、それは始めて聞く魔王の本音に思えた。


「冒険が終わりそうになったらその継続を望み。その冒険が日常と化したら愚痴を言う。あぁ、人間とは・・・・・・お前とは本当に愚かだ」


 言われ放題だったが、タケルは言い返せない。

 全くその通りだったからだ。


「俺とお前は似ているよ、タケル。お前らの言う厄災というのは、我々が勇者を倒すことだ。俺達は勇者を倒すためだけに、全ての世界で努力してきた。おそらくは、これもお前と同じく運命に流されているだけなのだろう」


 だが、と魔王は目をつむって言った。


「俺達は未来のために、運命を切り開くために戦っている。それが、お前との違いだ」


 完全に発光しきった魔王は、これまでの平坦な口調から急に激しさを増した。


「前の周回で約束の日を迎えた俺は、《負けイベントの加護》を得た。今度こそ倒させてもらうぞ、勇者よ!!!」





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