第15話 魔王たち

 聖堂にやって来たタケルを待ち構えていたのは、百人以上の魔王だった。

 勿論、これまでの世界では一度としてこんなことはなかった。魔王が増えたこともなければ、王城に来たことさえない。


「よ、よう魔王。なんだ? 親族と遊びにでも来てくれたのか?」


 取り敢えず、気さくに話しかけてみた。

 

 敵が本拠地に来たからといって、攻めてきたとは限らない。

 気まぐれにタケルの門出を祝いに来てくれたのかもしれなかった。


「んなわけあるか!」


 ……というタケルの推測は、即座に一蹴された。


 魔王とは同じ悩みを持つ者同士仲が良かったはずだが、彼の言葉には敵意ばかりがこもっているように聞こえる。


「じゃあ一体、何しに来たんだ……?」

「お前を倒しに来たに決まってるだろう! なんなんだその不思議そうな顔は!」


 タケルの疑問に、先頭にいた魔王が叫んでくる。

 しかし、タケルには本当に不思議だったのだ。


「やっぱり何かの冗談か? お前が百人くらい増えたところで、俺に叶うわけないだろう?」


 そう。

 どんな手段で分身したのかは分からないが、戦うこともなく世界をやり直し続けた魔王がいくら増えたところで、タケルに叶うわけがないのだ。


 だからタケルにとって、魔王がタケルを倒しに来るというのは、王城に遊びに来ることよりも信じられないことだった。……しかし。


「それはどうかなっ!」


 先頭にいた魔王が手刀でタケルに切りつけると、タケルの胸が斜めに裂けて、そこから血が噴き出した。


「なっ、馬鹿な・・・・・・!」


 動揺しながら、タケルが叫ぶ。


 本来であれば魔王がいくら攻撃しても、タケルには文字通りかすり傷一つ突かないはずなのだ。それなのにこの現象。意味が分からなかった。


「まさか、前の世界で死んでしまった影響なのか!?」


 これまでと何か違うことがあるとすれば、それは前の世界をまともにクリアできていないと言うことだろう。まさか、と、最悪の想定に思い至る。


 ちゃんとクリアできずに世界をやり直したせいで、ステータスが引き継がれていないのか・・・・・・?


 しかしその割には、体の調子はいつも通りだ。

 超人的な再生力で、胸の傷も治っていく。ダメージが重なってこの再生力まで失うか、喉にパフェを詰まらせるとタケルは死んでしまうのだ。


 ということは、今の攻撃力はあくまで魔王自身のものだということになる。


「今の攻撃力は、一体・・・・・・!」

「いや、その前に俺達が増えてることを気にしようぜ・・・・・・?」


 目を見開くタケルに対し、先ほどの魔王が冷静に突っ込んできた。


 そういえばそうだ。レイナが増殖していたせいで、同じ人がたくさんいても違和感を感じなくなっていた。


「あれ魔王、なんで増えてるの・・・・・・?」

「今更過ぎるが、まぁ良い・・・・・・」


 タケルがとぼけたことを言っている間に、魔王達の間から一人の魔王がこちらに歩み寄ってきた。

 他の魔王達とは違い、その顔には友好的な笑みが貼り付けられている。また、腕が千切れているのも違った。


 そこで、やっとタケルは悟った。

 自分がこれまで話してきた魔王はこいつで、他の魔王達は似て非なるものだということに。


「おい魔王、こいつらは一体……?」

「まだ分からないのか、鈍いな。昔はそんなことなかったのに……。まぁ、同じ世界を繰り返していれば、自然と鈍くなるものなのかもしれないが」


 呆れたようにタケルを見て、いつもの魔王は嘆息した。


「お前がのほほんと同じ日々を繰り返している間に、こっちは準備をしてきた……それだけのことだよ」

「準備……!?」


 初耳だった。

 魔王も自分と同じく、繰り返される日々をただ無為に過ごしていただけだと思っていたが……。


「大体、おかしいと思わないのか? 女神の力で魔王まで世界をやり直せるわけがないだろう……?」

「……!」


 魔王の諭すような言葉に、タケルは瞠目した。


 そういえばそうじゃん……! と。


「俺はお前みたいに世界をやり直すことなんて出来ない。……なら、努力で補うしかないだろう? 何度も世界が繰り返されるんだ、準備をするにはこれ以上ない環境だったさ……」


 いつもの魔王が言うと、他の魔王達はそれぞれが武器を構えた。全て、タケルがこれまで集めてきた周回特典だった。


「これで、やっとお前を倒せる」


 いつもの魔王が呟くと、魔王達はタケルに襲いかかってきた。

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