第12話 デートスポット

 今やその面影もないが、ヨサゲナ街はデートスポットとして有名だった。

 だから魔王の脅威が去った後、レイナ達が色めき立つのは当然で、自由に移動できる今回のレイナに至ってはタケルを置いて勝手にどこかへ行ってしまった。


「はぁ・・・・・・だからレイナ達をここまで連れてきたくなかったんだ・・・・・・」


 何度世界をやり直しても牢屋に監禁されていたレイナ達は、久しぶりの娑婆の空気に笑顔が絶えず、何よりうるさい。

 

 ちょい古参レイナなどはこの街に来たこともあるが、最近のレイナ達は城と牢屋しか知らないような奴らばかりなので、そのはしゃぎようはタケルの想像を絶していた。


「うぇええええええい! うぇい! うぇい! うぇぇぇぇぇい!」

「はしゃぎすぎだ、ヤンデレレイナ。完全に語彙力を失ってるじゃないか」


 この通りである。


 一周目ではタケルの方がデートスポットであることを意識してしまっていたが、客観的に見れば魔王軍に滅ぼされた街ではしゃいでる奴とか、異常者以外の何者でもなかった。


「安いよ安いよー、安いのはパフェだよー」


 タケル達一行が壊滅した街を仲良く・・・・・・いや仲悪く歩いていると、遠くから人の声が聞こえてきた。


 まさか逃げ遅れた人がいたのか? とタケルが目を見開く。

 これまでの世界でヨサゲナ街に人を見かけたことはない。そのため、おそらくはこれまでずっと見逃してきたのだ。

 まだこの街には魔王軍が残っているため、一般市民がこの街に居るのは非常に危険だ。


 タケルは一度犯した失敗は、次の世界からは決して繰り返さないようにしている。裏を返せば、一度でも失敗を犯せば、それは気づかない内にこれまでの世界でも犯してきた失敗だということだ。その重みは百倍以上に積み重なる。

 だからタケルは自分の失敗に非常に敏感だ。今も無意識のうちに、これまで救えなかった命のことを思い出してしまっていた。


「おい、ここは危ないぞ!」


 タケルは声のする方に走って向かうと、激しい焦りと共に叫んだ。


 それだけ動揺していたのだから、もちろん気づくわけもない。

 街に響いていた声が聞き覚えのあることであったことも、声に余裕が満ちあふれていたことにも。


「安いのはなんと、パフェなんですよー!」

「なにやってるんだお前・・・・・・?」


 息を切らせながらタケルが見たのは、魔王軍に荒らされた店の中でなにやら喚いている、今回のレイナだった。

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