第11話 魔王

「ふふふ、只人の分際でこの街まで来られたことには素直に褒めてやろう・・・・・・。だが! 魔王様が復活したからには、もう貴様に出来ることなど何もないわぁっ!」


 魔王が現れたと思ったら、横から魔将軍レヴが長々と口上を述べ立てた。

 あまりにもかませ犬臭の漂う台詞である。


「まぁ、仮に貴様が聖剣を手に入れていれば、その限りではないがな・・・・・・」


 そして、何故か魔王の弱点を暴露する部下。


 いくらなんでもおつむが弱かった。

 実は脳が上半身と馬で二分されているため、知能も低めなのだ。


 勿論タケルはレヴに言われるまでもなく魔王の弱点くらい知っているので、サプライズ精神から、軽く聖剣を召喚してレヴに投げつけた。


「うがぁぁぁぁぁ! 何故だ、何故貴様が聖剣を持っているぅぅぅ!」


 聖剣に斬りつけられたレヴは一瞬で余裕をなくし、魔王を置いて逃げていった。

 馬の首が三つに分かれているため空気抵抗が強く、凄く遅い。デザイン重視な魔族の哀愁だった。


 うるさい奴がいなくなったところで、タケルが魔王の方を向く。

 魔王自らタケルを倒しに来て、ギリギリで逃げ延びるも魔王との実力差を自覚する・・・・・・というイベントシーンなのだが。


「ひっさしぶりだな魔王ぅぅぅ! 会いたかったぁぁぁ!」


 タケルはレヴによって体に深刻なダメージを受けているのにも関わらず、跳ね起きて魔王の方へと突っ込んだ。

 そして、漆黒の鎧ごと魔王に抱きつこうとする。


「やめろ! お前に抱きつかれたら冗談抜きで死んでしまう!」

「そう固いこと言わずにさぁ! 俺に感動の再会を喜ばせておくれよ!」


 何故かタケルは魔王に怖じ気づくこともなく、どころかやけになれなれしい。

 今回のレイナも魔王の部下達も眉をひそめた。


「前からタケルはなにかおかしいと思ってたけど、まさか、魔王と内通していたの!?」


 今回のレイナが叫ぶ。

 また無視されるかとも思ったが、これには流石に首を振った。


「ちがうちがーう。この世界では初対面だし」

「初対面でこの態度!? 図々しいっ!」


 今回のレイナと魔王の部下達が、声を揃えて突っ込んだ。


「まぁでも、前世の因縁みたいな感じで繋がってるわけさ」

「因縁のある相手にとる態度じゃないだろう……」


 魔王が呆れ顔で呟きながら、抱きついてくるタケルをはねのけた。その口調は今回のレイナが思っていたほど威厳がない。


「あー、俺もお前には言いたいことがたくさんあるが、あー……」

「OKOK。任せとけって!」


 タケルがいつもとは違い明るすぎるテンションで、曖昧にぼかされた魔王の頼みに頷いた。


 そして、タケルは先ほど投げつけた聖剣を手に取り、魔王の部下達を斬りつけた。


「ぐわぁぁぁぁぁ!」

「ええっ!? 絶対、魔王と意思の疎通出来てないよねこれ!?」


 どう考えても魔王の頼みを勘違いしているだろうと思って今回のレイナが魔王の顔を見たが、魔王の表情は特に変わらない。


 本当に、タケルに部下殺しを頼んだというのだろうか? 今回のレイナは戦慄する。

 周囲に無関心なその態度は、最近のタケルを想起させた。


「助かったよ、タケル」

「なーになーに。良いってことよ、俺とお前の仲じゃないか」


 魔王が無表情で感謝して、勇者が満面の笑みでそれを受ける。

 今回のレイナからすれば、それはあまりにも奇特な光景だった。


「タケル、はぐらかさないで答えて。魔王とはどんな関係なわけ!?」

「愚痴を言い合う関係……つまり、友達だ」

「だからはぐらかさないでって……」


 タケルの適当な返事に怒鳴ろうとした今回のレイナは、魔王の姿勢を見て言葉を中断させた。


 なぜなら、魔王は地面に大の字になって寝ていたからだ。


「自由だぁぁぁぁ! もうホンット魔王城は窮屈! なんで!? なんで魔王だからってずっと魔王の部屋いなきゃいけないの!?」

「な?」


 今回のレイナに向かって、タケルがウインクした。

 タケルと魔王は、本当に愚痴を言い合う仲なのだ。


「魔王ってのも大変なんだなぁ」

「ああ。最後の戦い以外じゃ戦えないから何度世界をやり直してもレベルは上がらないし! 俺だけが能力引き継ぎで、他の奴らは世界がやり直される度に能力値底上げあるから、今ではそこら辺の村人にも負けるだろう」


 魔王が悔しげに呻いた。

 彼は自分の弱さを部下に隠さなければ見放されるかもしれないというストレスに、日夜思い悩まされていた。


「お前の方はどうだ? 久しぶりにレイナを引き連れているが」

「ああ、新しい≪超越せし者≫が出てきて散々だよ」


 目の前で自分の愚痴を言われて、今回のレイナはカチンとくる。

 しかし事実は事実なので、何も言わない。


「ふん、まぁ、賑やかそうで良いじゃないか」


 魔王が寂しそうに呟くと、遠くから馬の足音が聞こえてきた。

 魔将軍レヴが、援軍を連れてきたのだ。


「今回はちょっと早かったな。もう少し話したかったが」


 名残惜しそうに立ちあがり、戻ってきた部下を遠目に見ながら魔王が呟いた。


「寂しいなら、部下達と一緒にいればいいんじゃないのか?」

「周回の記憶を引き継いでないやつと喋るのは疲れる。それは、お前もそうだろう?」

「ああ」


 タケルはノータイムで頷いた。今回のレイナは半眼になる。


「でも、仲間が死んでも平然としているお前とは、やっぱり違うよ」

「どうかな。無理をしてるだけにも見えるが」


 タケルの言葉に魔王は薄く笑いながら、彼は踵を返した。

 そして部下達の方へと向かいながら、言った。


「俺とお前は同じだよ。じゃあな、次のイベントで待っている」


 護送用の馬車が魔王の前に止まり、部下が魔王を引き上げようとしたら、ステータス差で魔王の両腕が千切れた。


 そして魔王達はタケルとの戦いを先送り、魔王城へと帰っていった……。






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