第10話 いつもの初対面

 ヨサゲナ街までやってきたところで、タケルは気分が良くなっていた。

 百人越えのレイナをここまで連れてきたのは初めてのためどうなるやらという不安も大きかったが、今やそんなことさえ気にならない。


 空には暗雲が立ち込め、辺りの町民が悲鳴を上げて逃げ惑い、地鳴りも聞こえ始めたが、全て気にならなかった。


「ちょ、ちょっとタケル! なんでそんなに笑顔なのよ!?」


 今回のレイナが、辺りの異常事態に目を剥きながら聞いてくる。

 タケルは珍しくそれに答えた。


「ヨサゲナ街は今、襲われているんだよ。自治機能は壊滅して、実質的に陥落してるね。ハハッ」

「嬉しそう!」


 タケル達の方へと、無数の黒いシルエットがやって来た。

 はっきり見えるはずの距離なのでシルエットになっているのは不自然なのだが、世界の粋な修正力が影響しているのだ。


 すぐ近くにやって来たところで、やっとその全容が見えた。魔族の大群で、その先頭に立つのは魔将軍レヴだ。

 首が三つある馬の胴体から人の上半身が繋がっているような形をしており、上半身も馬も漆黒の装甲で覆われている。


 そしてその魔将軍は、右手に持つ黒い大型の槍を振り払い、タケルを後方へと吹き飛ばした。


「くぅ~!」

「まだ嬉しそう! ちょっと今日、テンションおかしいよ!?」


 今回のレイナが叫ぶが、タケルはピクリとも動かなかった


「し……死んでる……!」

「勝手に殺すな。口だけならなんとか動く」

「口だけならって……。えっ!? それヤバイんじゃないの!?」

「安心しなよ」


 タケルがいつになく、優しい顔で言った。


「これは、負けイベントだから」


 タケルの視線の先で、レヴを含めた魔族達が左右に分かれた。

 そして、奥からタケルに歩み寄るのは、またシルエット。しかし、その威圧感がレヴとは比べ物にならないほど強い。


「ま、まさか……!」


 今回のレイナが呆然とするが、タケルは相変わらず満面の笑みを浮かべていた。


「そうさ、あれが……魔王だ」


 珍しく状況を説明してくれたタケルだったが、それは今回のレイナにとって、聞きたくない説明だった……。

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