第8話 牢屋の前で宣誓
レイナ達は、これから牢屋に向かうというのにタケルの後を追っていた。
初めて冒険に出た今回のレイナは知らなかったが、基本的にレイナは、自分の意思と関係なくタケルについていってしまうものなのだ。
パーティーメンバーは一列に並んで歩くものだという知識が深層心理に刻まれた結果なのか、はたまた誰かの後ろについていないと不安になってしまうというレイナの心の弱さがもたらした結果なのか。
いずれにせよ百人以上でタケルについていくのは無理があり、既に数人のレイナは家や壁に引っ掛かって脱落していた。
「ふう、もう流石に百人は切ったかな……」
仲間が減っている事実を、満面の笑みで確認するタケル。こういうときだけは元気そうだった。
「ねぇ、監禁って、具体的にはどうするのよ?」
「どうもこうも、普通に牢屋に入れるんだよ。お前らが勝手についてくる特性を活かして、上手いこと牢屋にぶちこむんだ」
レイナ達を牢屋に入れるために、タケルはいくつかの牢屋に出たり入ったりを繰り返さなければならない。
その作業にはかなりの技術を要し、百回ほど繰り返してきたタケルであっても、魔王戦の十倍ほどの時間がかかる。
しかしこれをしないと後がどんどん辛くなってくるので、タケルは頑張るのだ。今を全力で生きるのだ。
「私、今回は一番右側の牢屋が良い!」
「駄目よ、ローテーションって決めたでしょ?」
今回のレイナ以外のレイナは、メインヒロインらしからぬ話をしていた。今回のレイナは気が滅入ってしまう。
「んじゃ、早速やってくぞー。この牢屋に入りたい人は手を上げてくれ。誘導してやる」
村人から貸してもらった十の牢屋に出たり入ったりを繰り返し、タケルは手を上げたレイナ達だけが牢屋に入るよう調節していった。
その足捌きはまたも亜音速を越えており、細かい動きにまで気を使う様はまるで歴戦の武人。タケルの長年積み重ねてきた努力が見えた。
「ここまでの技……見たことがない……。芸術の域にまで達しているわ……」
さっきまでタケルに反発していた今回のレイナさえも、タケルの足捌きに見とれて涙を流していた。
あぁ、この技にやられるのであれば――牢屋に入っても悔いはない――。
「ってんなわけあるかぁぁぁぁぁ!」
「うおぅ、いきなり叫んでどうしたお前!?」
今回のレイナが叫ぶと、タケルが驚いたように目を見開いた。
その顔が何故か新鮮で、今回のレイナは違和感を覚えた。
そうだ。そういえば、冒険が始まってからタケルが驚いた顔を見たことなかった――今回のレイナは、そんな事実に思い至る。
驚きから覚めたタケルの顔が、やはり疲れていたのを見て、今回のレイナは決心した。
このままタケルを放っておいてはいけない――。
流れに身を任せてはいけない――!
「みんな、牢屋から逃げて! こんなとこにいても何も変わらないわ!」
レイナは自分の意思で動き、タケルが必死になって詰め込んだレイナ達を牢屋から引っ張り出した。
「なっ、折角もうすぐ扉を閉められたのに! レイナてめぇ――!」
タケルが顔を真っ赤にして叫ぼうとした、その時。タケルはやっと、最悪の事態に気づいてしまった。
「勝手に動けるってことは――お前、強制力の統制を外れたのか――。新しい≪
オーバーロード!? 何それ格好良い!? と思いつつも、今回のレイナはタケルが久しぶりに、形容詞抜きで自分の名を読んでくれたことに一番喜んでいた。
そして、魔法で全ての牢屋をぶち壊してから、未だ怒りが覚めやらぬ様子のタケルに叫んだ。
「私はあなたの思い通りになんかならない!」
それは何人かのレイナが言った台詞だったが、続く言葉は違った。
「もうあなたに、この世界がつまらないなんて言わせない。私をただのお荷物だとも言わせない」
そして、牢屋の前で宣言した。
「私があなたの、メインヒロインになってみせる!」
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