第7話 イヤナ村の村長

 タケル達一行は、≪断絶の壁≫を抜けてイヤナ村にたどり着いた。


 村の入口を通り抜けると、大きな広場で左右に分かれて睨みあっている集団がいた。

 片方は村長を探す派で、もう片方は新しい村長決める派だ。


「レール様こそ新しい村長にふさわしい!」

「村長がまだ死んでるとは限らんだろうが!」


 いくら村の中で対立が起こっているからといって、ちょうど村に来たタイミングでこうも分かりやすくいがみ合ってるなんて普通はない。

 これも例のごとく、≪輪廻の儀≫、もしくは世界の強制力がもたらした結果だ。


 その証拠にこの村に来る時間がどれだけずれても、全ての世界でタケルはこの争いに遭遇していた。


「おーっし、このいがみ合いが終わるのは二十分後くらいだ。それまで時間を潰そうと思うんだが……今回はどこ行きたい?」


 タケルがついてきたレイナ達全員に向けて、修学旅行の班長みたいなノリで聞いてきた。


「うーん、でも大体もう回っちゃったからねー」

「あ、私、アクセサリー屋行きたいんだけど!」

「いやここのアクセサリー屋は品揃えがクソよ。あなたは行ったことなかったっけ?」


 タケルの言葉に反応してレイナ達が騒ぎ始めるが、今回のレイナだけはタケルにつっかかかる。


「ちょっと、二十分後に終わるなんてどうして分かるのよ! あんなに激しく言い争ってるんだから、止めるなり話を聞いたりした方がいいんじゃないの……?」

「どうせ止まらんし」


 タケルの返事は、日を追うごとに適当になっていた。

 レイナ達との行動は、ものすごいストレスになるのだ。


 ただ、どうせ止まらないということ自体は正しい。攻撃でもしないことにはあと二十分は終わらない。


「統計的に、誰かが『一体村長はどうしてしまわれたのだ……』って言ったタイミングで話しかけるのが一番てっとり早いんだよ。このイベントを攻略するの」

 

 統計というのは勿論、これまでの周回を経ての統計だ。


 未来予知のようなものを無感情に言い捨てるタケルに、今回のレイナは不安を感じた。

 まるで――――。


「まるで、そろそろ壊れそうなタワシを見ているような不安――」

「タワシにたとえるのは酷くね?」




 二十分後。


「一体村長はどうしてしまわれたのだ……」


 村長派の一人が悔しげに呟いた瞬間、タケルが近づいていった。


「もしかして貴方がたがお探しなのは、ロンゾ村長でしょうか?」

「な、なんだね君は!」


 質問に質問で返されるが、タケルは動じることなく、時間が惜しいとばかりに本題を切り出す。


「ロンゾ村長は死にました。ポックリと」

「な、何故そんなことが分かる……!」


 目の前の男が口を開いたときには、もうタケルは≪村長の形見≫を男に差し出していた。

 こいつ、最短距離を行こうとしてやがる――! 今回のレイナは手に汗握った。


「こ、これは、村長の大事に持っていたペンダント――! まさかお前が――!」

「いえいえ、中の遺言を見てください」


 男の反応も待たないで、タケルが事務的に説明を始めた。


 村長はモンスターに襲われたため、洞窟に逃げていたこと。

 生存を殆ど諦めて、遺書を書き留めていたこと。

 そしてタケルに遺書を渡したことで、安心してポックリいってしまったこと。


 これらは全て、1周目の出来事だ。だから全くの嘘ではないが、村長が死んだ下りはこの世界では嘘である。村長は今も、洞窟で恐怖に堪え忍んでいた。


「い、遺書には、私が死んだら村長の座はレールに譲ると書いてありますね……」

「良かったですねー、新村長確定です! おめでとう!」


 話をさっさと終わらせるため、タケルが強引に締めくくった。タケルが盛大な拍手を送ったら、新村長のレールが嬉しそうに両手を上げた。

 でも他のみんなは展開が早すぎてついてきてない。沈黙が訪れるなか、タケルと新村長だけが盛り上がっていた。


「ちょっと、そんな嘘ついて良いの? まだ村長さん、生きてるんでしょ?」


 今回のレイナがタケルを小突く。しかし、相変わらず動じない。


「良いんだよ。てか、こうしないと駄目だ。さっきも言ったろ? 俺が村長さんに会うと、あの人安心してポックリいっちゃうんだよ。逆に、放置してたら二週間後に自力で危機を脱出して帰ってくる」

「何よそれ!? 強いのか弱いのか!」

「ま、帰ってきたら帰ってきたで、村長は死んだことになってるから偽物だと思われて捕縛されるんだけどな」

「前門の虎、後門の狼!!!」


 今回のレイナは突っ込みが下手だな……と思いながらタケルは頷き、村人の方へ向き直った。


「はい、ということでね。村の争いも終わったようですし、ちょっと協力してもらえますか」

「え、ええ、村長の遺書を届けてくれたお方ですし――私たちに出来ることであれば」


 タケルが聞くと、村長探す派だったおじさんが答えた。


「協力というのはですね、私についてきているこの人達を、ちょっと監禁してほしいのです。出来ることなら換金も」

「監禁!? え、換金!?」


 おじさんが目を剥いた。そりゃそうである。


 しかし当のレイナ達は、もう逆らっても無駄だと思っているのか何も言わなかった。この村の牢屋にぶちこまれるのがもう分かっているのだ。

 今回のレイナを、除いては。


「ちょ、監禁って何よ!」


 彼女の叫びに、タケルは完全に無反応だった。

 その横顔は、酷く疲れているように見えた――。



※二作品同時進行してるので、更新が凄く不定期で申し訳ないです……。毎日2つの作品を交互に投稿するペースを目指しております!

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