第5話 いざ出発!
「レイナが起きた。するとそれにつられるようにレイナが起きて、レイナが腕を伸ばしたらレイナに当たる。怒ったレイナがレイナを殴ろうとしてレイナに止められてレイナが――――」
「もうやめて」
タケルが目の前の状況を口に出していたら、今回のレイナに止められた。
「これで分かったか? 形容詞をつけなかったら、どれだけややこしいかが」
「それを分からせるためだけにぶつぶつ言ってたの!? 腹立つわー!」
変な形容詞をつけないでと今回のレイナがしつこいので、その通りにしてやったら怒られた。
そうそう、形容詞って大事なんだよ。
ていうか、形容詞が大事になるくらいレイナの集団はめんどくせぇんだよ!
タケルは心の中でぼやいた。
タケル達は今、天界から放り投げられたショックで気絶しているレイナ達の覚醒を待っていた。
待たなくても良いっちゃ良いのだが、監視下に置いてないとたまに世界が滅びるので、念のためというか……封印のためであった。
レイナが全員目覚めたところでタケルが叫ぶ。
「うん、壮観!」
「ふっざけんな!」
今回のレイナは、度重なるショックでもう口調が荒々しくなっていた。
この短時間でこの段階にたどり着くというのは、最短記録かもしれない。
やはり、総レイナ量が関係しているのだろうか。心の中のレイナ研究日誌にメモる。
「まぁあんまり気にするなって。女神様はこんな格言を残している。『メインヒロインも百人揃えばモブキャラ』」
「言葉の意味が分からないけど、それ多分慰めになってないよね!?」
語感でばれてしまった。
タケルはなだめるのを諦めて、さっさと聖堂を出ようとする。
「ちょっとタケル、このレイナ達……この人達を放っておいて良いの?」
今回のレイナが言葉を選んで突っ込んでくるが、タケルは動揺しない。
「大丈夫。勝手についてくるから」
本当についてきた……。
今回のレイナは自分とタケルの後ろをついてくる自分達……ぐわぁ、ややこしい! をたまに振り返りながら、王城の廊下を歩いていた。
タケルの説明ではレイナ8などの自由に動けるレイナと、彼女らのようにタケルの後ろをついてくるレイナに分かれているらしいが、もっと重要なことは聞いてもよく分からなかった。
周回特典って……何!?
しかし、そんな彼女の思索は、後方の声が阻害してしまう。
「見て見て! この前の周回で私、またグレードアップしたのぉ!」
「わぁ、凄い。背中についてるこれ、ジェットエンジンじゃない! また例の錬金術師に作って貰ったの?」
「そうなのよぉ、人体改造なら次の周回にも持ち越せるからお勧めぇ」
「良いなー。私もやってみようかなー」
さっきまでは覚醒したばかりで全然喋らなかったレイナ達だが、今はそれぞれ思い思いに自分達と喋ってた。
自分の声が後ろからたくさんしてくるのは、端的に言って気持ち悪い。ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
しかも口調や会話内容まで気持ち悪かった。
学生みたいな口調で人体改造の話しないでほしいんだけど! 今回のレイナが胸中で叫ぶ。
城にいる周りの人も、当然だが私の大集団を不気味がる。
タケルは「昨日、レイナが分身したんだ」っていう雑すぎる答えで返していたが。
そうして、タケル一行は城門へと歩みを進めていく。
離脱したレイナ達を除いて丁度百人いるレイナ達と、今回のレイナとタケル。
最早ちょっとした大名行列だ。
城門の目の前まで来ると、タケルが立ち止まってため息をついた。
そして今回のレイナ以外も、諦めたような顔で立ち止まる。
一体、何が始まるというのだろう?
「よし、行こう!」
何の脈絡もなく、タケルが叫んだ。するとまるでその叫びに即座に呼応するように城門が開けられる。
今回のレイナが、あまりの反応の速さに驚いた。
「まさか問兵は今の合図をずっと待っていたの?」
「無粋なことを聞くな。これは……そういうイベントなんだ……」
イベント……?
タケルから返ってきた回答に、今回のレイナが小首を傾げる。
どうせ細かいことは教えてくれないのだろうと高を括っていたが、今回ばかりはタケルも説明を重ねた。
「これはな、一周目からそうなんだが、メインヒロインと手を繋いで、頷き合ってから城門を出るシーンなんだ。≪輪廻の儀≫がそう決めているらしい。
「は、はぁ!?」
やっぱり意味が分からない。
だけどタケルは、城門が開いていく様子を睨み付けながら尚も喋り続ける。
「とにかくっ! 門が開ききって良い感じに陽射しが入ってきたタイミングで、俺達は門を手を繋いで頷き合ってから出なきゃならないんだ。じゃないと城から出られなくなる。分かったな!? 分かったなおい!?」
「いや、分かんないわよ!」
タケルの絶叫に絶叫で返すと、タケルがチィッ! っと舌打ちした。
これまでそんな態度取られたことないのにっ! 今回のレイナはちょっと泣きそうになった。
「もういい。実践するから目ぇかっぽじって見てろ!」
「目ぇかっぽじったら死んじゃうよ!」
城門が開ききった。
さっきまで陽射しが入ってこなかったのに、不自然に城の外が光る。
これのこと……? と今回のレイナが訝しんだ時には、もうタケルは動き始めていた。
タケルがレイナの内の一人と手を繋ぎ、亜音速で門まで駆ける。
そして高速で頷き合うと、タケルが片腕の力だけでそのレイナを放り投げた。
外からグシャッという音がしたが、タケルは構わずにバックステップ。強敵と戦うときのような真剣さで、他のレイナの手を強引に掴み、亜音速でダッシュして頷いて門へ―――!
「な、何やってるのぉぉぉぉぉ!?」
今回のレイナの叫びに、タケルは何も答えない。
ただただレイナと手を繋ぎ、走り、頷き、投げるを繰り返している。
一周目では、王城でずっと守られていた彼らが外に出る時、二人なら大丈夫だと頷き合う感動的なシーンなのだが――――今や完全に作業と化していた。
こうでもしないと、メインヒロインが百人になったせいでイベントを消化できないのだ。
しかしそこで、変化が訪れる。
門が閉まり始めたのだ。
「くっ……! 来たな……!」
タケルがレイナを放り投げながら、苦しげに呻く。
城門はイベントの都合上、一定時間開いたら勝手に閉まるようになっているため、制限時間が決まっているのだ。
既に三分の二以上のレイナは外に放り出されて山を築いていたが、亜音速でも間に合うかはギリギリだった。
しかも、もうひとつの変化。
「おいっ! 早くこっちこい!」
タケルが今手を繋いでいるレイナが、タケルに引っ張られても動こうとしないのだ。
それは前回の世界で、結婚式を滅茶苦茶にされたレイナだった。
「あなたの思い通りになんてさせないわ! あなたは私とここで、一生暮らすの! 他のレイナも追い出すの!」
「うっるせぇぇぇぇぇ!」
ヤンデレレイナの願いを即座に一蹴。タケルは防御力を犠牲に筋力を得る魔法≪バーサーク≫と真なる力を解放する≪覚醒≫を用い、ヤンデレレイナを引っ張った。
そして門に差し掛かったところで彼女の頭を上からぶん殴り、頷かせる。
私たちが一緒なら、きっとやれる。そんな信頼関係を確認し合った。
そして、タケルはヤンデレレイナを天高く投げた。
一緒に魔王を倒して、世界に平和をもたらしましょう――――。誓い合うシーン。
グシャッ! という音がタケルに届く前に、その音よりも速い速度でタケルが作業を進めていった。覚醒していることもあり、さっきよりも二倍ほど速い。
そして、最後。
門がもう少しで閉まるという段になって、今回のレイナにタケルの手が伸ばされた。
もう残るレイナは彼女だけだ。
手を、とる。
もがれそうになる。
でもなんとか手がもがれない程度にタケルに追随し、頭を殴られたと思ったら体が宙に浮く感覚―――。
「これが、メインヒロインが多いということだ――――」
そんなタケルの声が聞こえたと思った瞬間、地に打ち付けられる衝撃と共に気絶した。
ようやく、彼らの冒険が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます