第4話 レイナ(総称)

 レイナはタケルの幼なじみだった。

 幼少期、タケルが後の勇者になるというお告げがあって城に連れてこられてから、貴族令嬢であった彼女はお世話係という名目でずっと彼の近くにいた。


 元は平民であったタケルにとって、そばにいるだけで自分のこれまでの生き方を否定される気がして、上品なレイナは嫌な奴だと思っていた。

 しかし心の中では、それこそ出会ったその日から、憧れていたのだ。だから一緒に冒険に出られるとなった時、タケルは内心嬉しかった―――が。


 それはあくまで、一周目のお話。


「毎度毎度私を封印しやがって! 私にも自由を満喫させろや!」

「なぁにが自由だこの自由人野郎! お前らを野放しにしたらどうなるか、俺が一番、嫌というほど思い知ってるんだよ! 喰らえ、封魔方陣!」


 タケルはレイナ8とのつばぜり合いをやめ、バックステップで即座に後退。体勢を崩したレイナ8に対して、秘宝≪封魔方陣≫を投げつけた。


 この秘宝は周回特典ではなく、タケルの家に代々伝わる秘宝だ。

 5つしかない消耗品のため一周につき5回しか使えないのだが、その効果は魔王の力を一時的に半分以下に出来るほどの魔力制限。見た目は手に持てるサイズの鉄板だが、触れるだけで大量に魔力を吸収していく。

 そんな隠し技を、タケルは冒険初日にメインヒロインに使ったのだ。


「甘いわぁっ!」


 しかしその投擲を、レイナ8が床に落ちていた周回特典の魔石を拾い上げて防ぐ。魔力が大幅に制限されたことで、魔石が割れてしまう。


「あぁっ! また周回特典がぶっ壊れた!」

「ハハハハハ! 私が一度見た技の対策を考えてないと思ったか!」


 叫びながら、レイナが右手の平を横に突き出し、そこから火球を放つ。直径3メートルを超える大きな火球が、凄まじい速度で聖堂の壁を突き破った。

 それを好機とばかりに、数人のレイナが聖堂の穴へと駆け抜けた。


 メタルレイナ、はぐれレイナ、レイナキング、アルティメットレイナなど、最も警戒すべきレイナ達が駆ける。

 それに続いて、タケルと戦っていたレイナ8と、その他数人の《ナンバーズ》・・・・・・最古参のレイナが駆けていった。


「くそ、一番危険なレイナ達に逃げられちまった・・・・・・。残ったレイナはマシなレイナだが、無軌道なレイナと統制されたレイナの比率を考えるとこれからが思いやられるな・・・・・・」

「私の名前に変な形容詞をつけないで!!!」


 タケルがこれからのことを思って嘆いていると、真後ろから叫び声が上がった。振り返ると、そこには険しい顔をしたレイナがいた。

 周回特典扱いのレイナではなく、この世界のレイナである。


「今回のレイナか。どうしたんだ?」

「今回のレイナって何よ! 普通にレイナって呼んで!」


 今回のレイナが無茶なことを言ってきた。

 そんなことしたら判別しづらすぎて困る。


「なんなのよ・・・・・・なんで私がこんなにたくさんいるの・・・・・・? 魔王軍が送ってきた偽物・・・・・・? でも、あなたは彼女達を知ってるみたいだし・・・・・・」


 呟きが段々と小さくなり、今回のレイナが「はっ!」と何かに気づいたような顔をした。

 

「それとも・・・・・・それとも私の方が偽物なの・・・・・・?」

「め、めんどくせぇ・・・・・・!」


 そう、先ほどのレイナ達との戦いは前哨戦に過ぎない。このタイミングで数人のレイナを無力化出来れば後が楽だな、という程度のものだ。

 本当に面倒なのは、レイナ達の出現によりやり直した世界でのレイナが正気を失い始めることなのである。


 現に、今回のレイナはこの最序盤から「自分とは何か」なんて悩みを抱いてしまっていた。

 いらねぇから! そういう哲学面倒くさいだけだから!


 タケルは再び、後ろを振り返った。

 先ほど逃げ出したレイナ達以外は、天界から放り投げられたショックで大抵が気を失っている。

 彼女らの目が覚めたら、やはり今回もレイナ総監禁の方針でいくのが得策だろう。


 タケルはため息をつきながら、呟いた。


「よし、今回のレイナ。一旦こいつらのことは忘れて、まずは≪イヤナ村≫を目指そう。あそこに魔王を倒すための鍵が眠っている」


 実際にはレイナの監禁に適した村でしかないのだが、今回のレイナはそんなこと知らないので気づかない。

 しかし、別のところにくってかかってきた。


「忘れるって、そんなことできるわけないでしょう!? それに、あの村は今揉め事が起こってて、今は部外者が立ち入れる状況じゃないわ。あなたも聞いたことあるでしょ?」


 今回のレイナの指摘に、タケルはかぶりを振った。


「このレイナ達を気にしてたら身がもたんからやめとけ。それに、村の問題は大丈夫だ」


 タケルは周回特典の山に近寄っていき、一つのアイテムを拾い上げた。赤い宝石のはまったネックレスだ。


「お前は知らないだろうが、あの村は村長が行方不明で、新しい村長を決めるべきか前の村長を探すべきかで揉めてるだけだ。俺が行けばすぐに収まる」

「な、なんでそんなこと言えるのよ?」


 レイナの疑問に、タケルは先ほど拾ったペンダントを突き出して答えた。


「ここに≪村長の形見≫があるからだ」


 それは五周目からずっと持っている周回特典。

 イヤナ村の村長が書いた遺言書と、それが入ったネックレスだった。


 ちなみに村長は、この世界ではまだご存命である――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る