第81話 四天王

「な、なんでお前そんなところに……」

「おいおい。我を無視するとは良いご身分だな、そこのお前?」


 ロップへの問いかけは、しかし彼らの中央に立っていた魔王が遮った。


 右半分が真っ白で左半分が真っ黒のマントを羽織った彼は、端的に言ってダサい。しかし彼が言葉を発するだけで俺は異様な威圧感を感じ、こいつには逆らえないという意識を植え付けられた。


 この雰囲気、俺はどこかで知っているような……?


「所詮、君が我に逆らうなんてムリポなんだよ。大人しく我の手配した魔獣共と戦っておけば良かったものを……」


 ムリポ!? 魔王の語彙力の高さ……もしくは低さに目を剥いていると、彼のすぐ隣にいた元ダイソン係員が提案した。


「魔王様、折角四天王が揃っているんだし、今の内にこいつらをぶちのめしちゃいましょうよ!」

「だから何度も言っているだろう、こいつらは殺さない……。いや、殺せないんだよ」


 なんかあからさまに重要そうな情報が聞こえてきたけど、俺の意識はそこになかった。


 今、魔王軍四天王っつったか!? ロップが加入した上で、魔王まで数に入れないと四人揃わないの四天王!? 少なっ! 俺よりも人望なっ!


 逆に戦慄しながら魔王を見つめていたが、俺はすぐに、そんな余裕などなかったと思いしる。


「だが……覚醒イベントが起こらない程度に痛めつけるのは……有りかもしれんな」


 呟くや否や、魔王はステップ一つで壁の端から端まで移動し、俺との距離をほぼなくしてきた。


 近くに土はないし、いくらなんでも≪土の壁≫は間に合わない。

 俺は一切の抵抗も許されぬまま、いつの間にか引き抜かれていた彼の二刀流によって斬り裂かれていた。


「うぐっ……!」

「コウタッ!」


 リナが心配して駆け寄ってくるが、ロップの作った寝巻のお陰でなんとか攻撃に耐えられたので大事はなかった。


 そして、死にさえしなければ問題はない。俺はレイの回復を受けながら、これまで培ってきた経験を活かして奇襲をかける!


「≪隆槍≫!」


 それは、初めてダンジョン賊に会ったとき彼が使っていた奇襲法。ポケットに魔法の素材を入れておくことで、ポケットに手を突っ込むだけで魔法を発動できるというものだ。


 以前までのパジャマにはそもそもポケットがなかったので使えなかったが、ロップの作った寝巻は射出口までついた優れものだった。寝巻が土臭くなることさえ気にしなければ、最高の奇襲である!


「おっと」


 しかし。攻撃力がないぶん目に直接ねじ込もうとしていた土の槍は、魔王が首を横に逸らすだけで避けられた。


 完璧なタイミングの奇襲を避けられた……!? 俺は驚きで一瞬動きを止めてしまったが、魔王も全く驚かなかったわけではないらしい。口元を少し歪めながら、ボソッと呟いた。


「ふふ、やるねぇ君。こんなに何度も殺されてしまうとは思わなかったよ……」

「なんだって!?」


 意味不明だがラノベ脳だとなんとなく意味が分かってしまう台詞を残し、魔王は驚異的な脚力で俺との距離をとった。それから空中にいくつもの魔方陣を即時展開し、そこから魔法が飛び出してくる。


 火、水、風、土……。全ての魔法が異なる属性のもので、全ての魔法に対策などとても出来ない。仕方なく≪土の壁≫で防ぐが、殆ど意味をなさず俺は魔法の奔流にやられた。


 この展開を見て、誰もが魔王の恐ろしさを思い知っただろう。だが俺だけは、他の人よりもよほど戦慄していたはずだ。


「二刀流、無駄に高い身体能力、属性魔法なんでもアリ、そしてさっきの謎の台詞……。このあからさまなチート能力の数々、お前、まさか……!」

「ふふ、そのまさかだろうさ」


 魔王が俺に微笑みかけるが、俺はまだ信じられなかった。顔を真っ青にしながら、確認をとる。


「お前は……ラノベ主人公……なのか?」

「そうだとも。我は五年前にトラックに牽かれ、勇者としてこの異世界に転生したのだ……!」


 トラックに牽かれただとぉ…!!! そんな正式な手順を踏んで異世界転生してきたやつに、脱水症状で死んだ俺が叶うはずがねぇ……!


 でも、それなら魔王の力も理解できる。何故人類の敵に回ったのかは分からないが、詰め込みすぎたようなチート能力の数々、正にラノベ主人公だ……!!


「じゃあさっき、俺の奇襲を避けたのは……」

「そうだ。我は死に戻りをして……グハッ!」


 俺と話していると、魔王は突然胸を抑えて苦しそうに呻いた。

 なんてことだ、そんなところまで忠実に再現されているのか……! それ普通に答え言ってるよねって突っ込みたくなるあの台詞! ラノベネタだから、このネタ分からないならメジャーラノベをたくさん読んでくれよな!


「ふふ……そうだ……。これ以上言うと、著作権に殺される」

「いま著作権に心臓掴まれてたの!?」


 魔女とかじゃないのかよ。その著作権アクティブ過ぎんだろ。てかお前が主人公のラノベ面白そうだな……。


「見ての通り、我はチート能力持ちだ。その名は≪主人公補正≫……読んだことがあるラノベの、主人公の能力を得る力だ」

「クソッ、メジャーどころばかり読みやがって……!」


 俺と魔王が二人ノリノリで喋っていると、後ろにいたリナが「話の流れにいていけないニャ……」と愚痴をこぼしていた。ごめんね?


「ともかく俺の目的はお前らの撃破ではない、気づいているようだが時間稼ぎだ。正直さっきから何度も槍をぶっ刺されて鬱になってるから、後は(我以外の)四天王に任せよう」

「お前、そんな理由で逃げるのかよ……!」


 俺が反抗するが、魔王は無視して(魔王以外の)四天王に指示を出した。


「いいかお前ら、決して同時に攻めるなよ。魔王軍幹部が同時に襲いかかってくるとか、相手が覚醒して同時に全員やられるフラグだから。時間稼ぎさえできれば良いんだから、一人ずつ順番に攻めろよ。じゃっ!」


 言って、魔王は奥の部屋へと走り出す。メタ発言ではあるが、この世界には因果律の概念があるから一概に馬鹿にも出来ない。


 魔王がいなくなった途端に魔王軍幹部はじゃんけんを始め、負けた≪不可侵全裸≫だけは残ってロップと元ダイソン係員は奥の部屋へと消えた。


「また会ったね、パジャーマー。今度こそ……決着をつけようか……」


 色々と締まらねぇなと思いつつも、一人ずつ戦えるのはこっちとしても有り難い。


 俺はレイに傷を回復してもらってから、彼と向き合った。不可侵全裸と不可侵寝巻の戦いが……始まる!!!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る