第80話 魔王城へ

 ロップがいなくなった日から、俺達はやっとギルドをまともに運用した。


 ギルド直々の緊急クエストとして魔王討伐を依頼し、ありとあらゆる連絡手段で兵士に呼び掛ける。

 ギルドの登録名簿や戦績表からそれぞれの兵士に適した役割を与え、戦力外の兵士がギルドに居残りさせるか魔王城の下見をさせるかという天国か地獄かの選択を抽選で済ませた。


 最速であらゆる決定を下し、最速でギルドの諸機関を動かしたつもりだ。しかしロップがいなければ思うように手際よくいかず、いかに彼女が俺達を助けてくれたかを思い知った。


「これより、魔王城侵入作戦を開始する! 城門のカモフラージュは継続して魔法で中和、魔力供給部隊は火力部隊第一陣の補助に移行! 早くっ!」


 ロップがいなくなってから、四日目。俺達はようやく最低限の戦力を揃え、手紙に示されていた魔王城の前まで来ていた。


 ギルドの徴兵システムが思わぬところで役立って四日でここまで来ることが出来たが、それでも戦力は最低限で、代理ギルドの機能的に追加の戦力は望めない。


 兵士達に焦りすぎだとも言われたが、ロップがどうなっているかと思うと気が気でなかったのだ。

 ギルドはロップの捜索にも力を入れてきたので彼女が魔王城にいるのはほぼ確実になったが、その目的までは未だ判明していない。


「この魔王城も、カモフラージュこそされていたけど罠の可能性は非常に高い。もしここが違かったら、魔王の足取りは今のギルドじゃ……」


 冷や汗をかきながらブツブツ呟いていると、隣を歩いていたリナが俺の腕を掴み、注意してきた。


「ちょっと落ち着くニャ。焦ればロップが帰ってくるってものでもないニャ?」

「そうは言っても……」


 反論しようとして、言葉に詰まる。


 あまり慌て過ぎても、ロップのことを信じていないことになってしまう。彼女が自分の安全を考慮し忘れるなんてことはあり得ないし、今すぐどうこうということはない……はずだ。


 ロップがいなくなったのは彼女の判断なのだし、連れ戻したいというのは俺達の意思に過ぎないのだ。それを忘れてはならない。


「そうだな……少し、我を失ってた……。もう少し冷静になるよ」

「それがいいニャ」


 結局のところ、俺は自分が思ったほど成長していなかったのが悔しかっただけなのだろう。


 異世界に来てから自分の意思で行動することを覚え、仲間に頼り頼られることも覚えた。しかし、俺に一番足りなかったものは……未だに生前と同じだったと、ロップの告白を受けて思い知った。


「…………」

「ん? どうしたのニャ?」


 思わず、隣のリナを見つめる。俺が落ち着いたことに安心した様子だが、彼女は俺のことを本当はどう思っているんだろう? そして、俺は彼女のことをどう思っているんだろう……?


「いや、なんでもない」


 結局いつも通り、ラノベ主人公みたいに全てを有耶無耶にして……。俺達はやっと開いた魔王城への門をくぐっていった……。






 異変に気がついたのは、それから一時間ほど経ったところだった。


 魔王城の中は何体もの魔物で溢れかえっており、懐かしのRPGを彷彿とさせる。

 魔王城がどこまで続くのか分からないため消耗を抑え、俺の指揮の下、兵士達は地道に一体一体倒していった。お陰で一時間経っても、レイが治せる程度の負傷者しか出ていない。


 だが、順調だったために気が付くのが遅れてしまった。

 時には弱点を突き、時には奇襲をかけ。そうして魔物を減らしていく中でケンタウロスも討伐し、俺はやっと違和感に気がついたのだ。


「なんでこのケンタウロス、一体だけしかいねぇんだ……?」


 ケンタウロスは元々群れる魔物だったし、何より魔王城に配備されるケンタウロスなのだから魔王に入れ知恵もされているだろう。

 だというのに他の魔物と同時に攻撃せず、単体でいるなんて……指揮をしている者として言わせてもらえば、


 もし何か、があるのでもなければ。


「……! まずい、何かを間違えてるかもしれない……!」


 そもそも、RPGの魔王城を連想してしまった時点でおかしいのだ。シンボルエンカウントのゲームじゃないんだから、このシビアな世界の魔王城なんて門をくぐった瞬間に集中砲火されてもおかしくなかったのだ。


 だとしたら、魔王の目的は俺達の撃破じゃない。こうして魔物をむざむざと狩らせていることを考えれば……何の意味があるのかは分からないが、時間稼ぎに違いない。


「ど、どうしたんだよお前……」


 突然叫んだ俺を心配そうに見つめるリナとレイに、俺はこれからの方針を伝えた。


「理由は分からないけど、魔王は時間稼ぎをしようとしている。地道に魔物を倒してちゃどうなるか分からない、俺達だけでも強行突破するぞ!」

「俺達だけでもって……!」


 レイが目を剥くが、流石に彼女も俺の無茶に慣れてきたのだろう。フッと笑って、俺の意図を察した。


「分かったよ。お前がどんな攻撃を受けて、何回四肢がもがれたとしても……。私が即座に回復してやる!!!」

「頼んだぞ!」


 要は、相手の攻撃とかお構いなしに突っ込むという話である。正に強行突破。レイが仲間になってからこんなんばっかだな。


「よし、これより回復されるの慣れてる俺らだけは魔物達を強行突破する! 指揮権はダンジョン賊に委譲するから、後続は任せたぞお前ら!」


 早口で兵士達に指示を出し、俺とリナとレイは早速魔王が待っていると思われる方向へと突っ込んでいった。弓を受けても立ち止まらず、腕を切られても走り続ける。


 こうして防衛ギルドの命運を元指名手配犯に託し、俺達は魔王の下へと向かったのだった……。






 強行突破の末……。俺達が最後の扉を開くと、とうとう魔王と思しき威圧感のある男が姿を表した。


 その横には≪不可侵全裸≫と元ダイソン係員。そして……。


「久しぶりでやすね、リナのお嬢、レイの姉貴、……コウタ……」


 黒いローブに身を包んだロップが、そこにいた。

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